京都を代表するイタリア料理店として高い評価をえていた「ビーニ」は2026年新たにフリーズドライ製品の物販を行うレストラン「ラーチェロ」としてリスタート。それは、最先端の「フリーズドライ(真空凍結乾燥)技術」の導入と、それを活用したレストラン向け(BtoB)受託加工・製品開発という新たな業態への挑戦である。自身の体調変化や環境問題、フードロスといった課題に向き合う中で辿り着いた、料理人としての新たな境地と循環型ガストロノミーの未来像について、と中本シェフはこう語ってくれた。

「ヨーロッパから帰国してすぐ大原に通い始めてから、もう16年ほどのお付き合いになります。長年通う中で農家さんとも深く打ち解け合えるようになりました。だからこそ今、これまで支えてくださった地域の皆さんや生産者の方々に、料理を通じて恩返しがしたいという気持ちが強いのです」。

今回、中本シェフが導入したのは、1回あたり約4kgの処理が可能な小型のフリーズドライ機械。料理人が個人経営のレストランにこのような産業用・研究用の乾燥装置を導入することは極めて珍しいが、この思い切った決断の背景には、食材の持続可能な活用と、近年のシェフ自身の健康問題があった。実は一昨年から昨年にかけて体調を崩し、特に春先にはアレルギーに起因する重い喘息症状に悩まされ、思うように動けない時期があったという。そうした状況から以前のような仕事のスタイルを見直し、無理のない範囲で長く料理に向き合える環境を再構築する必要性を痛感したという。

同時に着目したのが、農家が抱える「規格外野菜」や「規格外フルーツ」、そして時期によって一度に大量に発生してしまう「廃棄野菜(フードロス)」の問題である。野菜や果物は、端境期もあれば、ある一定の時期に一気に収穫量が増えて余剰生産となる問題もある。これらをフリーズドライ加工することで長期保存が可能になり、食材を余すことなく使い切ることができるのだ。

フリーズドライは熱を加える一般的な熱風乾燥と異なり、低温かつ減圧下で水分を昇華させるため熱による香りの飛散や栄養素の破壊が極めて少ない。素材本来の鮮やかな色彩、豊かな風味、さらには減圧時にできる微細な気泡によるサクサクとした独特の食感がそのまま保持されるのが最大の強みである。この高額なフリーズドライ機の導入にあたり、中本シェフはクラウドファンディングを活用。プロジェクトを通じて集まったのは、これまで店を訪れ、中本シェフの料理を愛してきた常連客やファンからの温かい支援。返礼品として試作品を届けると、受け取った人々から大きな反響が寄せられた。

また現在「ラーチェロ」の厨房では、フリーズドライ技術を用いた様々な試作品の開発と実験、そして料理提供が日々行われている。例えば、大原特産の赤紫蘇やビーツ、バジル、枝豆、フランボワーズなどのパウダー加工である。市販されているドライハーブや製菓用パウダーの多くは熱乾燥品だが、フリーズドライで仕上げたハーブや野菜は鮮烈な緑色や赤色を保ち、フレッシュな香りが立ち上る。さらにユニークな試みとして、規格外の野菜やフルーツをピューレ状にして型に流し込んでフリーズドライ化し、仕上げにアマゾンカカオのカカオバターや阿蘇のバターでコーティングしたプロダクトがある。一見すると上品なチョコレートのような歯触りでありながら、口に含むと軽やかなサクサク感とともに、濃厚なフルーツや野菜の風味が口いっぱいに広がる新感覚のショコラ仕立ての加工品だ。

さらに中本シェフが描くB to B事業は、自社製品の販売にとどまらない。全国のシェフやレストランからピューレや食材を預かり、受託加工(OEM)としてフリーズドライ化して送り返すという新しい受託サービスの展開である。

「各地のレストランが抱える余剰食材や、シェフこだわりのオリジナル仕込み(ピューレや出汁など)をお預かりしてフリーズドライに加工できれば、それぞれの店舗で独自の演出や保存食として活用していただけます。レストラン同士の技術とアイデアのプラットフォームになれればと考えています。また、機械の容量が一度に4kgと小規模なため、収穫期に大量に出る廃棄野菜を自店だけで処理しきれない課題もありますが、製造元メーカーのサポートを受けながら体制を整えています。将来的に加工やパッキングの作業が増えれば、地域の人々や主婦の方々に作業を手伝っていただくなど、ローカルな雇用創出にも繋げていきたいですね」と中本シェフ。

SNSでこの取り組みを告知したところ、これまでにないスピードで全国の料理関係者から問い合わせや反応が相次いでいるという。サステイナブル・ガストロノミーという言葉は、近年誰もが口にし取り組む姿勢を見せているが、中本シェフの取り組みは自らの体調も含め、リアリティに満ちている。こうした取り組みに興味があり、是非自店でも導入したいという同業シェフからの言葉は、きっと中本シェフを大いに奮い立たせ、背中を押してくれることだろう。インスタでもメッセージは常に受け付けているという中本シェフ。興味があるシェフ、レストラン関係者の問い合わせはこちらからどうぞ。

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