今回参加していただいた全てのシェフが「パスタ未来形」を表現、創作してくれたことに改めてITALIAN WEEK 100より厚く御礼を申し上げたい。未来永劫伝えたい伝統的なパスタや、未来の食糧危機を考えたパスタ、地元の郷土料理をパスタに再現したシェフも多くいた。この統一テーマに対して多くのシェフが悩み、これほど深く考えたテーマはない、とてもよい刺激になったと言ってくれたことは、あらためてパスタとはイタリア料理の華であり、存在証明であり、全てのシェフが料理に対して真摯に取り組んでいることの何よりの証である。

公式サイトでの人気投票、審査員による実食と選考を経て「ベストパスタ賞」を選ぶのは実にむずかしい作業だった。コンセプトからプレゼンテーションに至るまで甲乙つけ難いパスタがずらりと並ぶそのさまは圧巻の一言で、これこそが現在の日本におけるイタリア料理のレベルの高さの証明だと思いを新たにした。

そんな名作パスタが並ぶ中でも審査員が満場一致で選んだのが山本鉄巳シェフの「パスタ・キャリフィカータ」だ。キャリフィカータとはイタリア語で「澄んだ」という意味だが、これは山本シェフが料理を作る際に普段からこころがけている「澄心静慮」(ちょうしんせいりょ)と言う言葉をイタリア語におきかえたもの。「心を澄ませ、物事を深く静かに考える」という行為は「パスタ未来形」について深く考えた時間そのものではないかと思う。

審査委員会では、「稲庭うどんの技法を用いたタリオリーニは、パスタの可能性を引き出す意義あるチャレンジ。新しい食味と風味を紡ぎ出している。伝統的なラグーソースを再解釈し、“未来形タリオリーニ”に相応しい澄んださっぱりとしたソースに、他のパスタの進化も期待させられる作品だ。 」「澄む、という文字に焦点を当て、稲庭うどんの技法を取り入れて研究し、透明感のあるパスタを作り出した点が素晴らしい。日本酒や香味野菜のブロードを使い、各地の食材の良さを引き出したこだわりにも好感が持てた。」「当該シェフが料理創作の際に大事にしている『澄心静慮』という概念が大変日本の美意識と沿う。 稲庭うどんのオリジンは、奥羽山脈の豪雪地帯で、厳しい冬を乗り越えるための冬の保存食であったとも言われているが、厳しさを乗り越える精神や姿勢が、今、この混沌とした世界情勢を乗り越えていこうという日本らしい強いメッセージのようにも見え、この未来形パスタの持つ可能性やパッションに大変感銘を受けた。」と高評価を獲得した。

「イル テアトリーノ ダ サローネ」(東京都)山本 鉄巳シェフ

1992年生まれ神奈川県出身。 高校生で始めたアルバイトをきっかけにイタリア料理を志す。 高校卒業後、神奈川県内のイタリア料理店3軒で計6年半修行。25歳で渡伊。 トスカーナ州「Cum Quibus」にて勤務、ドルチェの部門シェフを任される。同年2018年に一つ星を獲得。26歳で帰国、その後サローネグループ入社。「イル テアトリーノ ダ サローネ」勤務後2019年「SALONE TOKYO」sous chefに就任。 「バリラ マスターズ オブ パスタ シェフ オンラインチャンピオンシップ 2020」にてGOLD PRIZE 受賞。2021年3月より「イル テアトリーノ ダ サローネ」シェフに就任。