2026年度Italian Week 100統一テーマは「シグネチャーディッシュの創造」に決定いたしました。そもそもイタリア料理界において「シグネチャーディッシュ」という言葉を耳にするようになったのはここ20年ほどのことかと思います。近代イタリア料理が生まれて以来、世界中で誰もが知る料理とは「カルボナーラ」「アマトリチャーナ」といった伝統料理であり、フランス料理と違ってシェフが創造した料理が最前面に出ることはこれまでありませんでした。80年代にグアルティエロ・マルケージが「黄金のリゾット」「ロッソ・エ・ネロ」「ドリッピング」といった料理で一世を風靡し、イタリアに史上初めてミシュラン3つ星をもたらしたのはエポックメイキングな出来事でしたが、当時もまだ「シグネチャーディッシュ」という言葉はありませんでした。

現在ではマルケージの意志を継いだマッシモ・ボットゥーラが「ウップス」「ビューティフル・サイケデリック」といった誰もが知るシグネチャーディッシュで新たなイタリア料理の領域を築いていますがボットゥーラは常々こう話しています。

「美味しいだけの料理とは、翌日にまた美味しい料理を食べれば忘れ去られてしまうもの。歴史や哲学、シェフのストーリーを込めた料理こそが、いつまでも人々の記憶に残るはずだ」

2000年近い歴史を持つイタリア料理を超える歴史やストーリーを創り出すのは簡単な行為ではありませんが、それでも伝統という殻を打ち破る新たなシグネチャーディッシュの創造こそが今後のイタリア料理界には必要なのではないでしょうか。ひと目見ればあのシェフの料理だとわかるような料理、名刺代わりとなる料理、世界中から多くの人々がその料理を求めて来店したくなるような料理。日本ならではの豊かな食文化や食材、歴史に根付いた料理の創造は、現代日本のイタリア料理界をより一段階高いレベルへ引き上げてくれるのではないでしょうか。

2023年度「パスタ未来形」、2024年度「発酵の可能性」、2025年度「パスタの存在照明」を通じて、参加店舗シェフたちが統一テーマに臨み、その豊かな創造力を発揮、披露してくださいました。そうした創造は決して一過性のものではなくこれからの未来へと続いていき、日本のイタリア料理界を支える原動力になることと確信しております。

2026年5月 Italian Week 100 ディレクター 池田匡克