L’Acero
ラーチェロ
新形態のレストランへと進化を遂げた京都の名店「ビーニ」第二章










15年間目の当たりにした食材廃棄に対する新たなプロジェクト
京町家を改装した「ビーニ」は京都を代表するイタリア料理店として高い評価をえていたが、2026年新たにフリーズドライ製品の物販を行うレストランとしてリスタートした。
オーナーシェフの中本敬介氏は広島の出身。広島での経験をスタートに東京で修行したあと25歳でイタリアに渡る。修行先に選んだのはトスカーナ州南部の「エノリテカ・オンブローネ」。そこで出会ったオーナー、ジャンカルロ・ビーニ氏の影響がとても大きかった。冬には手打ちパスタで有名なピエモンテの名店「イ・ボローニャ」で働く生活を4年続けた後、中本シェフはビーニ氏の紹介でスイスへと向かう。スイスでは料理本を出版するなど活躍したのち12年に渡るヨーロッパ生活を終えて日本に帰国。京都に出した最初のレストランは師匠の名から「エノリテカ イ・ビーニ」のちに「ビーニ」と改名。2019年にこの世を去ったビーニ氏も今の中本シェフの活躍ぶりを誇らしく思っているのではないかと想像する。
ピエモンテの手打ちパスタを信条とする中本シェフにとって最も重要な食材のひとつが卵だ。大原の優秀な生産者との出会いが京都でレストランを開業する重要なファクターとなったのだが、大原に対する中本シェフの思いの到達点が「ラーチェロ」だ。「ラーチェロ」はレストランとフリーズドライ製品の物販をひとつの世界観でつなぐ新しい取り組みだ。大原の規格外野菜や害獣駆除のジビエなどをフリーズドライ加工品として再生。その加工品を使った料理やSDGsに取り組む生産者の食材を積極的に取り入れた新たなコース料理を提供する。
これまでの15年間、丹精込めて育てられた野菜が見た目の理由だけで廃棄されるのを何度も目にし、何とか形を変えて活かしたかったと中本シェフはいう。最新のフリーズドライ機を導入し、熱を加えないことで廃棄野菜や規格外食材の色、香り、栄養をほぼ損なうことなく高付加価値な製品へと生まれ変わらせる。そうすることで日本全国に大原の味を届けることを可能にした。また「ラーチェロ」はサスティナブルガストロノミーとして大原の野菜やフリーズドライ製品を活用しながら、食材そのものの魅力と生産者の背景を感じられるような料理構成となっている。
15年間の思い出が詰まったこれまでのスタイルを離れるのは勇気のいる決断だったというが京都の農家を守り、自身の健康と向き合うにはこの進化が不可欠だったという。「ラーチェロ」で中本シェフが目指すのは新しい食の未来を生産者と共に作りってゆくこと。新生「ラーチェロ」に大いに期待したい。
chef profile

中本 敬介
KEISUKE NAKAMOTO
「ビーニ」オーナーシェフ。1971年広島県生まれ。 19歳でアルバイトとして広島市内のイタリア料理店でイタリア料理の世界に入り東広島、東京で修行の後、25歳でイタリアに渡る。「イ・ボローニャ」「サンドメニコ」などの名店で学び2002年、30歳でスイスの「セグレート」及び「アルコーヴォ」総料理長に就任。 2010年に帰国し、京都で自らの店「エノリテカ イ・ビーニ」を開業。その後、店名を「ビーニ」と改めリニューアル。2026年フリーズドライ製品の物販も行う新形態レストラン「ラーチェロ」としてリスタート。
INFORMATION
京都府京都市中京区東洞院丸太町下ル三本木町445-1[google MAP🔗]
Tel:075-203-6668
営業時間:ランチ 12:00〜15:00(12:00一斉スタート)水曜、土曜、日曜、祝日のみ
ディナー 18:30〜23:00(18:30一斉スタート)
定休日:月曜、火曜、木曜、金曜のランチ、各週日曜日のディナー
➣ 公式WEB
2024 ITALIAN WEEK 100 発酵の可能性メニュー

今回は舞茸という1つの食材にフォーカスして、本来は廃棄する軸の部分などを乳酸発酵させて舞茸自身を調味するというサステナブル、そして1つの食材が発酵によって旨味を増幅させて一つの料理として完成できるかにチャレンジした一皿です。福井九頭龍の舞茸のクズや軸を乳酸発酵させて抽出したジュースにエシャロットやハーブなどで香りをつけてできた液体に、同じ舞茸を漬けながら炭火で焼いていきます。
ジャガイモと発酵サワークリームのクリームを下に敷き上には吉田牧場さんの熟成チーズを削りかけ、異なるアミノ酸による旨味の増幅も感じて頂けると思います。発酵でできた発酵舞茸の搾りかすも乾燥させ、パウダーにしてかけています。シンプルながら廃棄を限りなく減らせて作った、そして複雑な調理工程でありながらお皿の上は至ってシンプルという当店らしい九頭龍の香り高い舞茸を存分に味わえる一品です。
発酵の可能性に対するシェフの考え
現在世界では紛争、経済ショック、気候危機、そして肥料の価格高騰などの要因が重なりかつてないほどの前例のない食料危機を引き起こしています。私達料理の世界で生きる人間として、食料の確保が困難になる現実が間近に迫っており、より一層サステナブルな社会を目指す必要があると感じています。
今回のテーマ[発酵]は地球環境を守る一つの手段と考えます。先人からの知恵であり冷蔵技術がない時に食料の保存方法として様々な方法が使われてきました。収穫した貴重な食料を廃棄せず美味しく食材の乏しい季節にも美味しく食べられる素晴らしい技術です。
日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は472万トンと言われています。料理人である私はこれらを早急に少しでも減らす努力をする必要があると感じています。また乳酸菌や麹、酵母など発酵食品に存在する菌は保存の手段だけではなく、旨味を増幅させたり体調を整えたりもしてくれます。今後、発酵という調理技術は私達にとって欠かすことのできないものとなると考えます。

