Villa della pace
ヴィラ デラ パーチェ
2023年度IW100「ヤングシェフ賞」受賞













能登の食材を使った七尾ガストロノミー
能登にあるオーベルジュ「ヴィラ・デラ・パーチェ」は七尾湾の静かな海を見渡す絶好のロケーションにある。内海である七尾湾はまるで湖を思わせるように静かなさざなみが立ち、荒々しい日本海のイメージとは全く異なる。「ヴィラ・デラ・パーチェ」とは「平和な宿」という意味だが、オーナーシェフ平田明珠氏が店名に込めた理由は実際に七尾湾を眺めてみるとよく分かるだろう。東京に生まれた平田シェフは食材探しで訪れた能登の地に魅せられ、2016年に七尾に移住しレストラン「ヴィラ・デラ・パーチェ」を開く。平田氏の料理は能登の食材を縦横無尽に組み合わせ、イタリアというフィルターを通したオリジナルのイノベーティブだ。その当時から平田シェフの料理はすでに注目されていたが2020年にオーベルジュとして現在の場所に移転。2023年度ITALIAN WEEK 100「ヤングシェフ賞」に輝くなど、地方発のイタリア料理の旗手として第一線で活躍する料理人の一人である。
平田シェフが能登半島の食材、特に野菜に強い敬意を抱いていることはメニューに書かれたリストからも分かる。野菜全般「輪島市 上田農園」、昆布・海産物「七尾市 しら井」はじめジビエ、チーズ、バゲット、コーヒー豆に至るまで15の生産者名が記されており、器・カトラリーも輪島の漆作家「赤木明澄」など13名、さらに設計や和紙などの空間演出4名と「ヴィラ・デラ・パーチェ」を支えるすべての人々への感謝の念が込められているのだ。
最初に登場する「畑のブーケ」は、近年プラントベースへ移行しつつある平田シェフからの挨拶代わりのアミューズだ。ハーブ、野草、エディブルフラワーなど20種類以上の季節の植物が一口サイズのブーケにまとめられており、その奥にはトマトやアーモンドをベースにしたサルサ・トラパネーゼがほのかに香る。イノベーティブとはいえ根幹はあくまでもイタリア料理にある、という平田シェフらしいメッセージだろう。「畑」もまた平田が考える野菜やハーブの力強さを一皿に表現した料理だ。季節の野菜をさまざまな調理法と味付けで単なるサラダを超えたシグネチャーディッシュとするのはミシェル・ブラスの「ガルグイユ」に始まり、エンリコ・クリッパらイタリアのトップシェフも常に心がける料理だが、平田シェフはなんと90種類もの野菜、花、ハーブ、ピクルス、などを使用し味付けは塩とオリーブオイルのみ。その美しさもさることながら皿の上にはさまざまな香りが広がり、目を閉じれば畑の真ん中に立っているような感覚にとらわれる。
「ズッキーニ クエ」はズッキーニのスライスでイカワタの塩辛を包んでシチリア料理のベッカフィーコ状に仕立てて蒸し焼き。ディルが香り、炭火焼きのクエ、茗荷と玉ねぎのサラダ、ズッキーニとエビだしのピューレとともに食べる。「茄子 仔鹿」は40キロの仔鹿のロース肉のローストで、千両茄子の炭火焼き、賀茂茄子の揚げ浸し、水茄子のワインビネガーマリネと3種類の茄子がそれぞれ異なる味と個性を醸し出し、仔鹿の繊細な肉をより一層引き立ててくれる。コースメニュー外だがこの日出してくれたのは輪島のサンマルツァーノだけを使ったスパゲッティ・アル・ポモドーロで、国産小麦粉のスパゲッティにバジルとオレガノが香り、何よりもサンマルツァーノ種のトマトが甘く、旨味が強い。これもまた平田シェフの原点である伝統的イタリア料理に立ち返った、究極的にシンプルかつ奥が深い料理だった。
訪れるたびに平田シェフの料理は進化し、深化し続けている様子がまじまじと理解できる。震災という困難を乗り越え、炊き出しを経験したことで平田シェフの料理はさらに深化し、石川県産食材によりスポットライトをあてていくであろうことは想像に難くない。
chef profile

平田 明珠
MEIJYU HIRATA
1986年東京都生まれ。大学卒業後に料理の道に進む。都内のイタリア料理店勤務の後、食材探しに訪れた能登半島に惹かれ2016年に石川県七尾市に移住、「ヴィラ デラ パーチェ Villa della pace」をオープン。2020年同市中島町の塩津海水浴場跡地へ移転、宿泊施設を併設したオーベルジュとしてリニューアル。2023年度ITALIAN WEEK 100「ヤングシェフ賞」受賞。
INFORMATION
石川県七尾市中島町塩津乙は部26-1地先(渚)[google MAP🔗]
Tel:0767-88-9017
E-mail:info.villadellapace@gmail.com
営業時間:ランチ 12:00〜12:30スタート ディナー 18:00〜19:00スタート
定休日:火曜日、水曜日、木曜日
※ランチ営業は原則土日のみ
※当面の間定休日以外もお休みの場合があるため、詳細は店舗に直接お問い合わせください。
➣ 公式WEB
2023年度 IW100 アワード
▶︎2026 ITALIAN WEEK 100 ザ・シグネチャーディッシュ-創造メニュー Read more ≫

一年を通して唯一作り続ける「畑」と名付けた料理。その時期に採れる野菜、ハーブ、野草、花、山菜を中心に、仕込んでおいたピクルスや漬物、発酵させた保存食も盛り込み、味わいに深みとアクセントを付けます。畑に植えられているものだけでなく、畦に生えてくる野草、山で摘む山菜、伝統的な保存食を加えることで能登半島の一年を通した景色が少しでも情景として浮かんでくるような料理にしたいと考えました。
味付けは基本的にはシンプルに塩とオリーブオイル。火を通した方が美味しそうなものは蒸したり茹でたりグリルをしたりします。毎日の野菜の状態の変化を見定め調理法を変えるので、自分の中でのルーティンとしてこの仕込みがあります。野菜を通して季節の移ろいを感じることもできます。
塩の振り方としてはまず野菜全体を薄くコーティングするようにオリーブオイルで和え、そのオイルに塩を付着させるように味付けをします。そうすることで野菜の中心には塩が入らず、畑で野菜をもいで食べた時のような味わいに少しでも近づく気がします。野菜によっては包丁で切らずに手でちぎるようにカットをします。包丁で切るよりも断面がざらつくことで表面積が増え、野菜の持つ水分が口に入ったときに感じやすくなります。
この料理には70~100種類ほどの食材が使われます。上に散らすハーブや野草はその香りや食感がしっかり感じられるように味付けは一切せず、下のグリルした野菜の塩味をやや強くすることで全体の塩分濃度を調整しています。時期や天候によっては野菜の味わいに強弱が生まれますので、味が弱いと感じた時は漬物、発酵させた野菜などを加えて一皿全体としての味の底上げをし、上に散らすハーブや野草の中に酸味のあるものが少ない時期はピクルスを多く盛り、全体のバランスを取っていきます。
通常は出荷されることのない虫食いがある野菜、曲がった形をした野菜、シーズンが終わり畑を片付ける際に残っている筋張った董立ちした野菜。畑を見回すと、丸々とした如何にも美味しそうな日の目を見る野菜の脇にもいろいろな野菜があります。他の野菜と合わせて足りない部分を補い合ったり、加工したり発酵させたりすることで料理に欠かせないパーツとして保存することができます。旬の食材だけでなく保存しておいた食材を使うことで(それも植物性のみで)一皿を通してドラマティックな味わいになることがとても気に入っている料理で、僕が作るコースの中で一年を通して非常に重要な役割を担っています。
盛り付けには規則性を持たせすぎないようにはしていますが、根菜類を中心の底に盛り付け、その周りに実を付ける野菜、その外側に葉物野菜を盛り、根は上を向けず、地面に落ちてくる葉や花びらのようにハーブはランダムに向きを変えるなど、自然の法則を意識しています。リースに様に盛り付けているのは、一年を通した畑の景色をぐるっと一周イメージできるようにするためです。

