以前から九州を訪ねる度にその魚介類をはじめとする食材の豊さに感嘆していたのだが、今回九州のIW100参加店全8件を訪問してそのレベルの高さと豊穣の九州をあらためて実感することができた。元々南蛮貿易始め外国へと目を向けていた土地柄ゆえか、九州という地は南欧であるイタリア料理が非常に深く浸透している、そう思えることもしばしばだった。

福岡県北九州市「ベック」は菅沼康二シェフが2022年11月にオープンしたコンテンポラリー・イタリアン。カウンター形式のオープンキッチンからは次々と華麗で美味なる料理が運ばれてくる。福岡市屈指のラグジュアリー空間ならば「リストランテ Kubotsu」だろう。ひらまつグループの西日本イタリア料理統括も務める窪津朋生シェフは東京の「ASO」での経験を九州食材に特化したオリジナリティあふれる料理を次々に生み出す。福岡の名門「リストランテ フォンタナ」は若き小川祐樹シェフが「レイテスト・クラシック・イタリアン」つまり伝統を踏襲しながらも現代を意識した最新の古典イタリア料理を披露してくれる。大濠公園脇に移転した「アンティカ オステリア トト」本田剛シェフは20年前のシチリア修行時代と変わらない若々しさで、今も厨房でシチリア+九州+本田テイストの料理を作り続ける。

ユニークな存在は大分県別府市の鉄輪温泉にある「オット エ セッテ 大分」だろう。梯哲哉シェフは温泉をあらゆる料理に活かす独自の「温泉キュイジーヌ」を日々実践しているのだが、その料理たるや上品で非常に洗練されている。長崎県大村市にある「セーナ オブトシフォリア」西野徳通シェフは自ら栽培する野菜やハーブこそ料理の価値を見出す異色の料理人、しかしその料理レベルは非常に高い。予約は1日1組のみで丁寧かつ真摯に料理に打ち込む。

宮崎県宮崎市「ジーリ」外山慎シェフは毎日水を汲みに行くことから1日を始める料理人。地元でもなかなかとれなくなった「トワタリカニのパスタ」は忘れ難い。鹿児島県鹿屋市「センティウ」はアクセス難易度は高いが、それでも訪れたい一軒。内田康彦シェフが地元大隅半島の魚介類を駆使したネイチャー・ガストロノミーはため息が出るような料理の連続。「地方にこそ名店がある」というのはイタリアにおける料理業界の金科玉条だがそれを体感できるのが九州のイタリア料理店。そのレベルは非常に高く日本屈指であることに疑いはない。


「アンティカ オステリア トト」(福岡県)本田剛シェフ

1971年生まれ。調理師学校卒業後、ホテル、フランス料理店勤務を経て上京。西麻布「ダ・ノイ」を経てイタリアへ。トスカーナ、シチリアで修業。2007年地元福岡に「アンティカ・オステリア・トト」開業。2019年現在の場所に移転しリニューアルオープン。


「リストランテ フォンタナ」(福岡県)小川祐樹シェフ

中村調理製菓専門学校を卒業後、 ホテルニューオータニ博多に入りその後 東京「ランス・ヤナギダテ」 、神奈川のレストランを経て、福岡「ビストロ アンココット」、福岡「リストランテ カノビアーノ」等にて研鑽を積み福岡最古のリストランテ「リストランテ フォンタナ」の料理長に最年少で就く。


「ジーリ」(宮崎県)外山慎シェフ

宮崎の日章学園高等学校調理科を卒業後、都内数店での修行を経て「イル・ギオットーネ 丸の内店」にてオーナーシェフ笹島康弘氏に師事し4年間修業。2011年地元宮崎で「ジーリ」を開業し独立。2015年には「RED U-35」でブロンズエッグを獲得。。


「リストランテ クボツ」(福岡県)窪津朋生シェフ

1983年生まれ、福岡県出身。2003年(株)ひらまつ入社、東京・代官山「リストランテASO」配属、2009年には副料理長に就任。2011年、「リストランテASO 天神」オープンに伴い異動。2014年料理長に就任。 2018年1月、自身の名を冠する新店「リストランテ Kubotsu」料理長。


「センティウ」(鹿児島県)内田康彦シェフ

佐賀県出身。 高校卒業後、飲食企業にて勤務後、 東京フレンチ、イタリアン店にて経験をつみ渡伊 帰国後、三重のリストランテを経て兵庫のオステリアで料理長を4年経験。 九州に戻り、妻の故郷、鹿児島県鹿屋市にて「リストランテウチダ」を開業。 2018年に同市内で移転。「センティウ SENTI.U」に改名。


「ベック」(福岡県)菅沼康二シェフ

1982年、福岡県北九州市生まれ。 小さい頃から大好きだったパスタをきっかけに、18歳からイタリア料理の道へ。 京都の「イルギオットーネ」で修業を積み、2012年に独立。 地元北九州で「Bisteria Bekk(ビステリアベック)」を開業。 2014年 「ミシュランガイド福岡・佐賀」掲載。 2016年 現在の場所に移転。 2019年 「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎」ビブグルマン掲載。 2022年11月、店名を「Bekk(ベック)」に改め、リニューアルオープン。


「オット エ セッテ 大分」(大分県)梯哲哉シェフ

1972年生まれ。福岡県出身。大分県産食材と別府の温泉を活用した調理に惚れ込み、別府で開業。現在、別府に1軒と大分市にレストランとバールを2軒運営。


「セーナ オブトシフォリア」(長崎県)西野徳通シェフ

1979年生まれ。長崎県諫早市出身 建築士、DJ、百姓。2004年から大村市の未開拓地を開墾。2006年から単身この地に移り住み畑をスタート。「本当に美味いものはそこにしかない」をモットーに、その土地に根付いた植物から自分自身で種をとり、その種から育てた野菜で料理を組み立てることだけに価値を見い出す異色な料理屋「セーナ オブトシフォリア」を2018年にオープン。