今年が初年度となるITALIAN WEEK 100の統一テーマは「パスタ未来形 Pasta for the Future」。これは単に空想上の未来の料理を考案するコンテストではなく、伝統や技術の継承、フードロス、生産者との関係、そしてシェフの経験=アイデンティティが反映されたアイコン的な料理だ。実際に全国を訪問してシェフにインタビューしてみると非常に難しいテーマでとても悩んだ、という声が圧倒的だった。題目を投げかけた側としてはこれほどまでに多くのシェフが考え、悩み、そしてこれぞという未来形のパスタを準備、発表してくれたことは感無量の一言に尽きる。
投票ページをみていただきたいが、こうしてずらりと並んだパスタの数々は、日本におけるイタリア料理のシェフたちの思いと熱量が込められた一つの作品である。その中から1名にだけ「ベストパスタ賞」が贈られるのだがこれは投票ページからの人気投票を重視し、上位の中からさらに審査委員会でコンセプト、表現力、思考過程などを総合的に判断したもので、味で優劣を決めるのアワードではないし、元々それは不可能な試みである。「ベストパスタ賞」はが贈られるのは1名なのだが、できることなら参加していただいたすべてのシェフに「ベストパスタ賞」をお贈りしたい。この場をお借りして改めて感謝の言葉を申し上げたい。受賞者は近日中に発表予定だ。
【IW100 2023年度ベストパスタ賞注目シェフ】
「オステリア ダヴー」(北海道)菊地高章シェフ 「海の幸のフルッティディマーレとサルサブロデットのタリオリーニ」
トラディショナルにこだわらなければ、パスタの可能性は未知数だと思います。 それぞれの国の特色を出すことも出来るし、パスタの形、ソースの組み合わせを変えれば何億通りものバリエーションがあるし同じ食材でも作る人が違えばまた違う発想でバリエーションが増えてゆく。 今の時代どんどん見たことのないパスタが増える中で自分自身ももっともっとその可能性を増やしていきたいと思います
「海の幸のフルッティディマーレとサルサブロデットのタリオリーニ」
修行先エミリア・ロマーニャで学んだアドリア海風スープ「ブロデット」のソースを下に敷き詰め、上にはフレッシュトマトのソースというWソース。北海道ならではの魚介類をトッピングし、鮭とばを削って仕上げる。
「リストランテ ナーヴァロ」(長野県)本郷善貴シェフ 「シリウス/小麦 すっぽん」
「一人一人の培った知恵と技術から思考し生まれるパスタ」 人の経験は十人十色、そこから生まれるパスタは過去にはなく未来にあり、それに向け修練、探究、精進、研鑽していくことが「パスタ未来形」と考え感じてます。
「シリウス/小麦 すっぽん」
「未来へ光が届くように」と広大な宇宙から青白い輝きを見せる『シリウス』をイメージ。 水で覆われた星から日本で食すスッポンを連想し、パスタを創作。
「ラパルタメント ディ ナオキ」(東京都)横江直紀シェフ 「トマトを練り込んだ、ビーゴリペスカトーレソース」
日本人としてイタリア料理を学んだ。僕が考えるのは、ボーダレスな時代になっていくことにより、新しく生まれる文化の融合。 日本人がイタリア料理を作ると言うことを踏まえた上で、日本の出汁の文化をうまくパスタと融合させられないかと思い考えました。 また、ペスカトーレにした理由は、未来に向けて、水産資源を守っていく必要があると言うことも考慮いたしました。 修行先のヴェネト州のパスタ、ビーゴリ、イタリア料理を象徴するトマトを使いパスタを練りあげ、魚介の出汁の中でパスタをゆでることにより、シンプルな見た目でありながら、複雑な味と香りのするパスタを目指しています。
「リストランテ カシーナ カナミッラ」(東京都)岡野健介シェフ「三国一体/蛸/トルテッリ 」
私にとってのパスタの未来形とは未知への挑戦と伝統の継承日本、イタリア、南米の共通食材である蛸をベースに用い、フェイジョンプレットのトルテッリ、南米食材のトマティーヨ(国産のフレッシュ)のサルサヴェルデなどを合わせた。「南米×イタリアン」という自分自身でもまだ見ぬ未知への挑戦、新しい基軸を創り上げることを目標に「南米×イタリアン」というコンセプトに伴い来年長年続いてきた屋号を改名する予定です。
「三国一体/蛸/トルテッリ」
日本、イタリア、南米の共通食材である蛸をベースに用い、ブラジルの黒いんげん豆フェイジョンプレットのトルテッリ、南米食材のトマティーヨ(国産のフレッシュ)のサルサヴェルデなどを合わせた。
「イル テアトリーノ ダ サローネ」(東京都)山本鉄巳シェフ
インターネットやSNSが世界中で発達していくこの時代。 料理人が世界中の料理を日々目にし、自国の料理が他国でどのように広がり、根付き、発展していくかが、ネットを通して観測出来る時代だと思います。〝パスタ未来形〟とは、イタリアで生まれたパスタという郷土料理が人とネットを伝い、世界に広がり、根付き、その土地独自の食文化と交わり、発展していく。 この循環を繰り返した先にあると私は考えます。 食文化が違うからこそ生まれる可能性を表現出来たらと思います。
「パスタ キャリフィカータ」
〝キャリフィカータ〟とはイタリア語で〝澄んだ〟という意味。私が料理を創作するとき、普段から心掛けている〝澄心静慮〟(ちょうしんせいりょ)と言う言葉。これは〝心を澄ませ、物事を深く静かに考える〟という意味。この澄心静慮の〝澄む〟という文字に焦点を当て、パスタ未来形を創作。パスタは卵を使わない福岡県田中製粉〝みなみの幸〟を使用した白いタリオリーニ。秋田に住む義母の作る〝稲庭うどん〟の技法を取り入れ、通常のパスタの約3倍の塩と多めの水、オリーブオイルを加え、計4日間じっくりと熟成、乾燥させることで豊かな小麦の香りと滑らかな食感を引き出しました。合わせるソースは〝十勝ロイヤルマンガリッツァ豚〟を日本酒と香味野菜のブロードで優しく煮込み、〝澄んだ〟ラグーソースにします。仕上げに和歌山県〝善兵衛農園〟のグリーンレモンの果肉と皮を乗せ、レモンの葉から香りを抽出したオリーブオイル、ペコリーノトスカーノを合わせました。
「リストランテ ナカモト」(京都府)仲本章宏シェフ「インシエメ」
これから人々はもっと多忙になり、ゆっくり食事を楽しむ時間も減っていくのではないでしょうか。もちろん料理人としてはそうならないことを祈りますが、仮にそうなったとしてもパスタを短時間で美味しく食べていただきたい。時間がなくてパンとパスタを一緒に食べたとしても、ちゃんとレストランで食べるパスタ料理の味になる。そんなパスタの未来形があってもいいのではないでしょうか。
「インシエメ」
イタリアにはパスタのソースをパンで拭って食べるという文化もあり、パンとパスタを一緒に(イタリア語でインシエメ)食べていただきたいという思いから生まれたフィンガーフード。リコッタ、マスカルポーネを包んだ長方形のラヴィオリを茹でた後、アサリ出汁と自家製発酵バターで味付け。薄焼きのスキャッタータの上にのせ、パンチェッタとパルミジャーノ、季節のマイクロハーブやエディブルフラワーをトッピング。一口齧ればパスタの中からクリームが飛び出す、パスタとパニーノ、さらにピッツァを一度に味わえるかのような美しいフィンガーフード・パスタ。
「エッレ」(兵庫県)長屋恭平シェフ「山海のタリオリーニ」
パスタは、そのものを例え1本でも食べただけでもそれが何のパスタなのか分かる事が大切だと考えます。それは、イタリアのエスプレッソのような抽出したものがパスタにも求められてると思います。それを日本人の感性で、利己的でなく素材を尊重し食べ手の方と分かち合えるようなパスタこそが未来形の一つの形だと考えます。
「山海のタリオリーニ」
兵庫の日本海側で冬に水揚げされる松葉がに、秋に兵庫の山側で採れた落花生を干して絞った落花生から作る山のミルクの泡、それらを繋ぐように山と海を往来するモクズガニから取り出したエキスを同じく兵庫で作られているサフランと一緒にタリオリーニに纏わせました。兵庫県の土地の豊かさをこのパスタに表現しました。