今回東北からITALIAN WEEK 100に参加していただいたイタリア料理店は全部で5件。東北とひとことでいってもそのエリアは広大で、地元食材を活かした保存食や郷土料理が発展しているのは周知の通りだ。そんな東北で意欲的にイタリア料理に取り組み、その経験を地元に還元し、さらに発展させようとしている意欲的なシェフ5名を紹介したい。

まず岩手県盛岡市「シカザワ」鹿澤靖幸シェフは2011年の震災以降、復興支援を通じて多くの生産者と知り合い、いまやサステイナビリティという言葉を超越した独自のローカルガストロノミーに取り組んでいる。白眉は最初に登場する3つの小宇宙で構成するアミューズで「閖上の赤貝」は赤貝と乳酸発酵を連想させる爽やかな酸味のガスパチョ。陸前高田のミルキーな牡蠣のスープを球体に固め、マッサージして排卵させたキャビアを使った「三陸ガストロノミー」。そして4年ものの雲丹を蒸し、イクラ、カリフラワーのクスクス、柑橘で香り付けした「ジオラマ 種市四年雲丹」、いずれも口に含めば雄大な三陸海岸の風景が目に浮かんでくるはずだ。

秋田県秋田市「フルット」五井慎太郎シェフは東京での経験を元に2018年地元秋田で開業。しかし一連の料理のレベルは非常に高くその洗練度は東北屈指。同じ秋田県由利本荘市「アフェット」村上茂シェフはその落ち着いた佇まいから料理に対する自信が滲み出てくるような実力派。特に「オカヒジキと本荘沖の鯵、カッペリーニ」は自家製のソイのカラスミも使ってありシブレットとオカヒジキの食感が心地よく、一番下にはジェノヴェーゼソースが忍ばせてあるこの夏忘れられない冷製パスタのひとつだった。

福島県も負けてはいない。福島市「オステリア デッレ ジョイエ」梅田勝美シェフはイタリア修行時代以来十数年ぶりの再会だったが料理に対するエネルギッシュな取り組みは以前よりさらにパワーアップし、郷土への愛情が一連の料理からヒシヒシと伝わってくる。郡山市「マルテッロ」は平日の昼だというのにフルコースとワインを楽しむゲストで満席。高い吹き抜けのダイニングとオープンキッチン、シェアテーブルと実にスタイリッシュな空間。「ウニのフェデリーニ」や「平目のカツレツ」など村上悟シェフの料理はいずれも穏やかながらも芯の強さを感じさせ、「料理は人柄」という金言を再認識させてくれた。東北の5軒はいずれも個性が際立ち郷土性を強く感じさせる名店ばかり。実りの秋は東北へ出かけ「みちのくイタリアン」を食べ歩く、そんな旅のスタイルはどうだろう。


「リストランテ シカザワ」(岩手県)鹿澤靖幸シェフ

1981年、岩手県盛岡市生まれ。岩手県内のレストランで料理を学び、2010年盛岡市にカジュアルなイタリア料理店をOPEN。震災を機に地元食材や生産者たちとの繋がりをより大切にし、発信力のあるレストランを目指し2015年、盛岡市中心部に「リストランテ シカザワ」を開店する。岩手県の「食のプロフェッショナルアドバイザー」を務める。Gault et Millau 2023掲載、3トック獲得。


「フルット」(秋田県)五井慎太郎シェフ

東京「リストランテ ラ バリックトウキョウ」等で研鑽を積み、2018年地元の秋田市で開業。


「アフェット アキタ」(秋田県)村上茂シェフ

coming soon


「リストランテ マルテッロ」(福島県)村上悟シェフ

福島県出身。身近に感じられる「食」というジャンルと、ものづくりへの興味が重なり、料理人を志す。調理師学校を卒業後は、仙台市内のフランス料理店へ就職。その後、ホテルで更に腕を磨く。元々、パスタが好きであったことや、バリエーション豊富なメニューを楽しめること、お客様との距離の近さに魅力を感じイタリア料理へと転向。 2010年4月、オーナーシェフとして「リストランテ マルテッロ」をオープン。


「オステリア デッレ ジョイエ」(福島県)梅田勝美シェフ

22歳から千葉県野田市のイタリア料理店で5年間働き、当時のシェフに食材の大切さやイタリア料理の奥深さを学ぶ。結婚後、妻のしのぶさんの故郷福島に移り住み、義兄が経営するイタリア料理店「ワサビ」で料理長を務める。その後1年間単身イタリアに渡り「ダ・カイーノ」「ダリオ・チェッキーニ」などで研鑽を積み帰国後の2010年10月「オステリア・デッレ・ジョイエ」オープン。