Ristorante SHIKAZAWA
リストランテ シカザワ

岩手の食材で作るイノベーティブ


震災後を機により発信力のあるレストランを目指す

「リストランテ シカザワ」は盛岡市の繁華街、菜園の一角に静かに佇む。エントランスにはオーナーシェフ鹿澤靖幸氏のシンボルでもある鹿のマーク。店内はソリッドなグレーで統一されており、テーブルがわずかに2卓。高い天井からは自然光が降り注ぐ、茶室のような感覚を覚える空間だ。盛岡出身の鹿澤シェフは地元岩手の食材を多用しているのはもちろんのこと、2011年の震災後は復興支援に取り組み多くの生産者と知り合う。そうした関係性が「リストランテ シカザワ」のあらゆる料理の構成要素となっているのだ。

3品が一度に登場する最初のアミューズからして、すでに鹿澤シェフのメッセージは色濃く反映されている。「閖上赤貝 ガスパッチョ」は乳酸発酵のような穏やかな酸味に極上の宮城県閖上産の赤貝。「三陸ガストロノミー」は岩手県陸前高田産の牡蠣のスープを球体にし、マッサージで排卵させたキャビアといただく。固体と液体の中間のような食感で、口中でミルキーな牡蠣のエキスが弾ける。「ジオラマ 種市4年雲丹」はカリフラワーのクリームに岩手県種市産4年もののウニを軽く蒸してあり、イクラ、カリフラワーのクスクス、柑橘の香りと、それぞれが一口サイズなのに東北沿岸の海の幸が詰め込まれている。

「蜂の巣と南部鉄器」というユニークなネーミングの料理は南部鉄器の皿の上に、とうもろこしの粉で作った球形のフリットが載っており、下にはパルミジャーノ。中身はというと、国産飼料100%で育てた岩手短角牛のハチノス、つまりトリッパ、八幡平のバジル、ミニトマトの冷たいラタトゥユ、パクチー。これもまた一口の中にさまざまな要素が見え隠れする忘れ難い料理「ほやカレー」は岩手でよく食べられるホヤを使った料理だが、生のホヤは好き嫌いも分かれる。そこで鹿澤シェフは酵母で発酵させた生地で包んでフリットに。ホヤはスパイスと相性がいいのでカレーのソースに玉ねぎのロースト、山形の胡麻煎餅、おかひじきの素揚げでイメージはナポリのゼッポレか。

「大槌町サフラン 東和町蓮根」は越冬させて甘味が増したレンコンをニョッキにし、帆立のソテーとベーコンからとったオイルでアスパラをソテーし、乳化させたサフランのソース。ニョッキにはレンコンのシャキシャキ感が残り、帆立の甘くて柔らかい食感とのコントラストを楽しむ。「宮古メヌケ煮付け 譜代鮭醤」字面だけ見れば和食だが、岩手ではよく煮付けで食べるというメヌケを鹿澤シェフは宮古の昆布と鮭のあらで作った醤油で煮つけにした。しかしあわせるソースはアンチョビバターとホウレンソウ、そしてパプリカのチュイルとクランブル。低温調理したメヌケはものすごい弾力で、煮付けという次元を遥かに超越している。

こうした一連の料理からは鹿澤シェフの東北に対する思いがひしひしと伝わってくる。それはテロワールとかサステイナビリティという言葉を超え、郷土の食材だけではなく文化や伝統といった無形財産までもが鹿澤シェフのフィルターを通して新しい料理へと生まれ変わるのだ。イタリア料理と日本の風土や食材との親和性が高いのは、両国ともに地方ごとに豊かな食材や四季、そして料理文化が根付いているからである。東北ガストロノミーを牽引する鹿澤シェフの料理を前にすれば、きっと田園や海、森林や里といった、さまざまな東北の風景がまぶたに浮かんでくることだろう。


chef profile

鹿澤 靖幸
YASUYUKI SHIKAZAWA

1981年、岩手県盛岡市生まれ。岩手県内のレストランで料理を学び、2010年盛岡市にカジュアルなイタリア料理店をOPEN。震災を機に地元食材や生産者たちとの繋がりをより大切にし、発信力のあるレストランを目指し2015年、盛岡市中心部に「リストランテ シカザワ」を開店する。岩手県の「食のプロフェッショナルアドバイザー」を務める。Gault et Millau 2024掲載、3トック獲得。


INFORMATION

岩手県盛岡市菜園2丁目4−6[google MAP🔗]
Tel:019-681-8511 / ヒトサラ予約番号:050-5870-0476
E-mail:odorokashikazawa@gmail.com
営業時間:ランチ 12:00~(L.O. 14:30)ディナー 18:00~(L.O. 21:00)
※完全予約制(予約人数6人まで)
公式WEB