TAKAO
タカオ

道産子ガストロノミーで2023年度「ベストシェフ賞」受賞


自ら森で探した食材でどこにもない料理を生み出す

北イタリアのドロミティ地方でミシュラン3つ星に輝いたノルベルト・ニーダーコフラーの「森を料理する=クック・ザ・マウンテン」という大著が今手元にある。ニーダーコフラーは森の生態系そのものを取り入れたイタリア料理を創り上げたが、彼と比肩する世界観をもち、森を料理する料理人が高尾僚将シェフだ。旭川に生まれた高尾シェフはフランス料理店で働き始め、東京やフランスで経験を重ねた後25才でイタリア料理に転向。2009年に札幌「oggiオッジ」開業後2006年に店名を「TAKAO」に変えて再スタートを切る。北海道に戻ってからというもの、以前よりも強く北海道を意識するようになった高尾シェフは自ら森に分け入り、エゾマツや山ウド、木の芽などさまざま植物などを自らの手で摘み、料理へと昇華させるようになる。それは今ならばフォレジングという言葉に置き換えられるが、高尾シェフが他者と決定的に違うのはアイヌの人々と知り合い、ともに森に入ることで貴重なアイヌの知恵を学んだことだ。

北海道の人々でさえ普段目にすることはまずないアイヌの保存食、その代表が「トゥレプ」だ。これは森に自生するオオウバユリの根をすりおろしてデンプンのみを抽出し、乾燥させたもの。アイヌの人々はこれを鍋に入れて団子状にしたり、すりおろしてとろみをつけて食べたという。アイヌの暮らしを支えた「トゥレプ」は現在作れる人も少なくなり失われつつあるのだが、高尾シェフは「トゥレプ」を自ら再現し、独自のパスタを完成させた。北海道産の小麦粉に自家製「トウレプ」の粉と発酵させた「オントゥレプ」を練り込んだパスタは弾力に富み、かつ実に歯切れが良い。それは世界で唯一「TAKAO」でしか口にすることができない、未知の領域へと踏み込んだ希少パスタだ。

また高尾シェフは森の恵みを自宅にある一室「TAKAOラボ」で発酵、蒸留させてさまざまな料理への可能性を追求している。摘んだばかりの木の芽やエゾマツは清々しい清涼感に溢れ、キハダの実は極上の黒胡椒を思わせる上品な香りだ。「TAKAO」ではそうした北海道の森の食材があらゆる料理へと姿を変え、次から次へと登場する。代表料理のひとつ「山のエキス」は千歳産の椎茸から抽出したエキスのみで作ったスープで、クリームも牛乳も一切加えずに、山のエキスそのものを味わう料理。ホタテのソテーと合わせることで海と山の味覚のコントラストが際立ち、自然の恵みをより深く体感することができる。

「渡り蟹/トゥレプ」は小樽産の渡り蟹の濃厚なソースとトゥレプのパスタの相性が極めて独特。ピーチやビーゴリとも違う独特の食感は忘れ難い。オオウバユリから採取した自家製澱粉=トゥレプに留萌産の小麦ルルロッソをあわせキタッラ状にし、ソースには小樽産の渡り蟹を殻、内蔵、身と余すところなく使用してある。濃厚なソースと力強いパスタのコンビネーション。独特のコシと食感がありながらも歯切れが良い、高尾シェフにしか作れないパスタ。

もうひとつトゥレプを使ったパスタが「蝦夷鹿舌/行者ニンニク/山葡萄/トゥレプ」これは白糠の猟師が捉えた蝦夷鹿の舌を、山葡萄を発酵させた山葡萄酵母で煮込んでラグーにし、行者ニンニク=アイヌネギが好相性。パスタにはトゥレプと行者ニンニクペーストが練り込んである。そしてフィナーレの「木の芽/ニセアカシア/パイナップル」はジャスミンを思わせるニセアカシアの香りを閉じ込めたデザート。6月の北海道はあちこちにニセアカシアが咲き、辺り一面にジャスミンに似た芳香を放つ。「雪が降っている時の香り」など、香りの記憶を料理に表現する高尾シェフはニセアカシアを木の芽のフレッシュな香り、パイナップルの甘味と共に美しいデザートに仕上げた。飾られているのは木の芽の砂糖漬けとパウダーで、森の香りがテーブルを覆い尽くし、香りの余韻が長く残る。ニセアカシアの時期にあわせてまた札幌に戻ってきたい、そう思わせてくれるような忘れ難いデザートだ。

「雪景色~発酵北コブシと椴松2024」

樹液が吸い上げられる最も香り高い春先に採取した北ごぶしの枝を発酵させジェラートに。椴松のシロップベースのムース、標津牛乳のフォーム。赤蝦夷オイルを粉末にし雪化粧に見立てTAKAOでしか出会えないここだけの北海道の森の発酵Dolceです。

発酵とは歴史的にみれば地域や国の文化を形成する要因ともなってきた。その土地の微生物とその土地の食材、気候、文化と結びつきその土地ならではの食文化が形成される。現代において発酵文化を取り入れ現代の我々料理人が今までにない味の深み、表現が可能であると考えます。この土地ならではの料理表現には上辺だけではなくより自然や文化と深く対峙し食材と向き合い発酵の可能性を最大限に生かし新しいを表現することが不可欠と考えます。


chef profile

高尾 僚将
TOMOYUKI TAKAO

1974年、北海道旭川生まれ。北海道、東京、フランスで修行後。2009年独立。独立後、店舗建て替えの1年半、上海、イタリアンオープンニングシェフ就任。帰国後、姉妹店、「HASSO azzurro」オープン。2016年「TAKAO」オープン。2017年、北海道イタリアン史上初のミシュラン1ツ星獲得。2021年、ゴ・エ・ミヨ「明日のグランシェフ賞」受賞。2023年度ITALIAN WEEK 100「ベストシェフ賞」受賞。


INFORMATION

北海道札幌市中央区南3条西23-2-10 コンドーマルヤマキラリ1F[google MAP🔗]
Tel:011-618-2217
E-mail:takaoggi@gmail.com
営業時間:ディナー 18:00~
定休日:日曜日
※2名様以上