「Best Chef Award(ベスト・シェフ・アワード)」とは、最も顕著な活躍をしたシェフに贈られるアワードであり、2025年度は青森県八戸市にある「カーサ・デル・チーボ」池見良平シェフに決定した。池見シェフは神奈川県に生まれ「インコントロ」「ダノイ」「エノテーカピンキオーリ」など東京の名店でキャリアを重ね、悦子夫人の故郷である八戸に移住。「カーサ・デル・チーボ」をOPENしたのは2011年4月末、東日本大震災の直後だった。

当初はリーズナブルな価格帯でスタートした池見シェフだったが、転機となったのは市内のホテルやレストランが参加した八戸港復興イベント。八戸産の魚介で作るブイヤベースは評判となり、知名度が広がるきっかけとなった。以来地元に根差しつつも本来池見シェフがやりたかったガストロノミー方向へと徐々に方針を転換。2021年の改装を機にランチ、ディナーともにコース一本という現在のスタイルを打ち出した。

近年地方におけるローカルガストロノミーが非常に盛んだが、ともすればイタリア料理出身にも関わらずイタリア料理という冠を外してしまうシェフがいるのも事実だ。しかし池見シェフの場合は、自分の料理はイノベーティブではなくあくまでイタリア料理だと語る。イタリア料理に対する誇りと気概は、コース中盤に登場する手打ちパスタ4連発からもひしひしと感じ取ることができるのだ。また地元青森の食材に対する思いも格別であり、いかに青森食材をイタリア料理へと昇華させるか、日々行われているそうした努力と探究心は「Best Chef Award」にふさわしい。

今年の統一テーマ「パスタの存在証明」でも池見シェフは青森食材を使った2つのパスタを披露してくれた。「鮑の肝を練りこんだトロッコリ 八戸産蝦夷鮑とアオサ」では「イタリアでは日本のように貝類の肝まで使うことはあまりありませんがやはり鮑は身の部分だけでなく肝も使用することでより鮑らしさが味わえます。単純に肝ソースにするのではなく、肝を麺に練りこむことで上品な肝の香りと風味を出しました。さらに一部の肝はパウダー状にして料理の仕上げに振りかけています。麺は貝類の食感と相性の良いトロッコリを選択し、柔らかく火入れした鮑の身はパスタとの食感を合わせ大ぶりかつ程良い厚さにカットしてたっぷりと使用。普通なら不要とされる鮑の内臓からも出汁を取って合わせ、料理全体の一体感と濃い旨みを底上げしています。アオサは地元で採取したフレッシュのもののみ使い、磯の風味が鮑と抜群の相性です」とひとつのパスタをいかに究極にまで突き詰めるかというその姿勢そのものを表現。

また「兜スッポンのトルテッリインブロード」では「青森・東北町の兜スッポンは他と比べて脂乗りが良くコラーゲン豊富で極めて臭みも少ない一級品の食材です。しかし見た目で敬遠されがちな食材でもある為、そのスッポンを丸ごと味わって頂ける食べやすい料理をとパスタ料理を考案しました。県産地粉ゆきちから100%で練った極薄の生地でスッポンの煮込みとそのゼラチン質豊富な出汁を一緒にペーストにして包み、スッポンと香味野菜のみでとったクリアかつ旨みの濃いブロードを注ぎアクセントにキャビアを合わせています。技法はイタリア料理に忠実に和のイメージの強いスッポンという素材を活かした一皿に仕立てました」と語ってくれた。

誤解を恐れずにいうならば、八戸はこれまでガストロノミーには無縁の地だったが、その現状に一石を投じたのが池見シェフだ。イタリア語で「食べ物の家」という一見牧歌的かつ郷土料理店的な響きを持つが、「カーサ・デル・チーボ」とは日々池見シェフが八戸ガストロノミーを考案、実践、提案する誇り高き一軒家レストランなのである。SNSでもほぼ毎日のように新作料理と青森食材を紹介、発信し続けるその真摯な活動と姿勢に対し、事務局から「Best Chef Award 2025」をお贈りして永くその栄誉を讃えたい。池見シェフの受賞インタビュー動画は来春公開予定なのでこちらも楽しみにお待ちいただきたい。