去る2024年5月9日(木)ASEANTA(アセアンタ=東南アジア諸国連合観光連盟)の年次総会が札幌で初めて開催された。アセアンタとは東南アジア10カ国の政府観光局やホテル協会、旅行業協会、航空会社などで構成される組織であり、5月8日〜11日にかけて来日した5カ国18名の代表者は、日本の観光事業者とのハイレベルな意見交換や、札幌及び近郊の視察ツアーを行った。その際、国の重要指定文化財「豊平館」で開催されたパーティのシェフに抜粋されたのが、2023年度ITALIAN WEEK 100ベストシェフ賞にも輝いた札幌「TAKAO」高尾僚将シェフだ。当日は高尾シェフのシグネチャーディッシュである「山のエキス」「トゥレプ」など、「道産子ガストロノミー」を代表する料理で構成され、東南アジアの関係者にも大いに好評だったという。当日の料理は以下の通りだ。

サクラマス/自家製鞍掛豆味噌
山のエキス
蝦夷鹿舌/トゥレプ
椴松/発酵柚子
トモサンカク

(写真提供: 公益財団法人札幌国際プラザ コンベンションビューロー)

普段から高尾シェフはアイヌ民族がお茶として愛用した「キタコブシ」をジュレにしたり、スコビーで発酵させて甘酸っぱいソースにしているが、同パーティで「キタコブシ」の枝を折ってそのまま出したところ、その香りの良さにゲスト一同驚いたそうだ。高尾シェフは7、8年前から発酵に本格的に取り組むようになったが、それはアイヌ民族の人々と知り合ったことがきっかけ。アイヌ民族の伝統的な食材の使い方や発酵、保存の方法には、今後料理人として提案していかなければいけない数多くのヒントに出会えたという。2022年には自宅に発酵・蒸留を研究するTAKAO LABOも立ち上げ、高尾シェフの代名詞でもある「トゥレプ=オオウバユリ」や、澱粉質を抽出した発酵、乾燥させた保存食「オントゥレプ」をはじめ、森から採取したどんぐりの天然酵母でパンを発酵させたり、松から乳酸菌を採取してヨーグルトを作るなど、発酵による美味しさを縦横無尽に一皿の中に取り込んでいる。

高尾シェフはインタビューの中で、「発酵とは地域性や文化に根ざしたものだと思いますので、発酵を用いた料理を通じて地域性や人間性を表現できないかと常に考えています。北海道独自の気候や文化、景色を一皿の中に表現することは、普段から心がけていますが、今回東南アジア諸国の皆様にそうした料理を提供させていただきました。北海道の自然の香りや発酵を通じた料理の独自性に感動していただけましたし、それは日本でしか、北海道でしか表現できないイタリア料理だと思います。今回アルコールや豚肉がNGなど、多少の食材の制限はあったのですが、イタリア料理とは世界各国の方々に幅広く提供できる素晴らしい料理だと改めて思いました。」と語ってくれた。

日本ならではの地域性や、発酵を含む食文化を表現する際、本来地方料理の集合体であるイタリア料理が最適であると常々思う。それゆえに日本各地の食材とイタリア料理は親和性が高く、世界広しといえども、ここまでイタリア料理に昇華させられるのは日本だけではないだろうか。

今回、高尾シェフの料理に対するアセアンタのゲストの方々からの評価を聞き、改めてそう思った。いま日本全国レベルで海外、特にアジア諸国からのツーリズムがかつてない規模で盛り上がりつつあるが、各地に点在する地域特性を前面に出したイタリア料理と融合させることに成功すれば、体験型フードツーリズムとしての観点からも、大きな可能性を秘めた日本のイタリア料理の未来へとつながるのではないだろうか。ITALIAN WEEK 100が目指す「日本におけるイタリア料理の評価の底上げ」の原点はまさにそこにある。アセアンタから非常に高い評価を得た高尾シェフの活動には、あらためて敬意を表し、お祝いの言葉を述べたいと思う。