代官山「ファロ」樫村仁尊シェフは近年本格的な発酵、特にオリジナルの味噌作りに取り組んでいる。地下にあるレストランの一画には風通しもよく、涼しいということで熟成発酵中の味噌専用コーナーもあるので、もしかしたら目にしたことがある人も多いかもしれない。ひらめいたら、とりあえずトライしてみるという樫村シェフはこれまでにアーモンド、ヘーゼルナッツなどのナッツ類や、レンズ豆、乾燥そら豆などの豆類、さらにドライトマトやポレンタ、マッシュルームなどに加え、ポルケッタの端材や豚の脂も麹とともに発酵、熟成させた世界のどこにもない「ファロ」だけのさまざまな味噌を作り、料理に活かしている。まずは樫村シェフのインタビューをご覧いただきたい。

「味噌は時間が作り出すものなので、僕一人が徹夜したらなんとかなるとかそういう話ではありません。このレンズ豆の味噌も1年半から2年ぐらい寝かせたらとてもいい感じで旨味が出てきましたが、それは微生物の働きという、自然が作り出す力ですね。しかも作る場所によって味も変わってきます。生ハムだってパルマとサンダニエレで違うように、それぞれの地域の風や温度といった気候で風味が変わるのと同じではないでしょうか。『ファロ』にはここにしかいない常在菌『ファロ菌』がいて旨味を作り出していると思いますし、ワインと同じように来年はまた違う味になるかもしれません。そこが発酵の面白さだと思います」と樫村シェフ。

2024年1月虎ノ門ヒルズにOPENした「ファロ」2号店となる「ピュウファロ」では、発酵をより一歩進めた「発酵と炭火焼き」をテーマにしている。例えば豚の炭火焼き「ポルケッタ」には、まず豚ひき肉、炊いた米、塩を混ぜて2週間発酵させ豚の熟鮓を作り、フェンネルとともに豚肉に塗り込んでから整形して炭火で焼くという凝りよう。塩とハーブだけで焼いてももちろん美味しいのだが、豚の熟鮓との相乗効果で旨味が何倍にもなる。ポルケッタ味噌を使ったパスタなら「肉味噌を詰めたトルテッローニ」だが、食べた瞬間に熟成サルシッチャのような深い旨味と風味におもわずうなった。ちなみに樫村シェフはいずれ味噌とワインを出す店もやりたいというから、これもまたワイン好きにはたまらない話。いまはとりあえず、「ファロ味噌」の熟成が進むのを一日千秋の思いで待ちたいと思う。