05 中部・北陸

sincerita拓
シンチェリタ タク

2024年4月OPEN、前田拓也シェフの注目店

地元小牧市のルーツをたずね、名古屋コーチンにたどり着く

「ブルガリ イル リストランテ ルカ ファンティン」「エトゥルスキ」などで活躍した前田拓也シェフが地元愛知県に戻り、2024年4月18日にOPENしたカウンター8席のイタリア料理店が「シンチェリタ拓」だ。小牧市出身の前田シェフと、18年前に名古屋で共に働いた佐藤辰ソムリエとのコンビで料理はコース一本、ワインはペアリングを中心に提供する。東京の最前線で働いてきた前田シェフが標榜するのは「考え抜かれた、手の込んだ料理」。たとえ郷土料理ベースであってもさらに深く考えて、丁寧に手を入れることを旨としてる。

これまでグランメゾンの厨房にいることが多かった前田シェフだが、ゲストの目の前で料理を仕上げ、自分の言葉でどんな料理かを伝えたかったという。新しいスタートを切るにあたってこれまで慣れ親しんできた愛知県の食材を再度見直すことで「名古屋コーチン」に再注目した。「名古屋コーチン」とは明治維新で禄を失った尾張藩士が努力を重ねて生み出した品種であり、前田シェフの故郷小牧市池之内が発祥の地。その事実を知った前田シェフは、天啓に打たれたかの如く「名古屋コーチン」を広めるのは小牧生まれの料理人である、自分にしかできない仕事だと思うにいたったという。

その前田シェフが「シンチェリタ拓」で作るのは、あらゆるディテールに徹底的こだわり、考え抜き、準備した料理で、これほどまでやるか、という驚きと気迫がひしひしと伝わってきた。最初のアミューズ「岩牡蠣・キャビア」は長崎の牡蠣をブールブランや生クリーム、蛤の出汁などを加えてピューレにしてからゲル化凝固作用を持つ野菜由来のソーサでコーティング、そしてキャビアをトッピングしてあり、口中で牡蠣のエキスがほとばしる。「コーチン手羽先・フォワグラ」は名古屋コーチンの手羽にフォワグラを詰め、じっくりと揚げた名古屋のソウルフードへのオマージュ。その肉質は弾力性に富み、トマトパウダーがその脂を忘れさせてくれる。

「極スープ」これは名古屋コーチンを究極的に凝縮させた極上のコンソメだ。名古屋コーチンの胸肉を乾燥、燻製させてから3週間熟成これを鰹節のように削って香草と共にサイフォンで煮出す。胸肉なので脂はないが濃厚かつ極上な鶏のエキスにうなる。パスタ「アオリイカ・黒小麦麺」これはイカスミを練りこんだ手打ちタリエリーニなのだがほのかなニンニクの香りに寝かせたアオリイカはねっとりとしてボタンエビを思わせる。シーアスパラのシャキシャキ感にライムの香り。名古屋コーチンの料理をもうひとつ「コーチンガランティーナ」はいわゆるロール巻きにしたガランティーナだが、16時間ゆっくりと火を入れ、八丁味噌とカシスのソースがとてもいい。

「シンチェリタ」とはイタリア語で「誠実さ」を意味するが、真摯に料理に取り組むその姿から店名に込めた真意がひしひしと伝わってきた。オープンまだ間もないが、今の名古屋で訪れるべき最注目の一軒であることに間違いない。

「極上名古屋コーチンのロートロ 三河みりんと八丁味噌、赤ワインのソース
パースニップのピューレとトリュフ」

発酵食品は長きに渡り様々な国や地域でそれぞれに発展してきた調理法の一つだと私は思います。今回このテーマに向き合わせて頂くに辺り、様々な食材を発酵させて新しい何かを産み出そうと考えていました。しかしフルーツやトマト、キノコ、茄子やピーマンなどいろいろな物を使い発酵を試みましたが、自分が思う様な美味しくて新しい物はなかなか発見する事ができませんでした。そこでそもそもなぜ発酵させる必要が有るのかという原点について考えるに至りました。それはまだ現代の様に流通や保存が効かない時代に多く取れた穀物や魚介や野菜などで今の様に保存がきかない食材などを厳しい冬になっても食べる事に困らない様に、または長期に渡り保存出来る様にした先人達の生きるための知恵だったのだろうと言う答えに行き着きました。

そして日本だけをみてもそれぞれの地域でそれぞれの発酵食品が有り、現代になっても脈々と受け継がれて来たのだという事に気付き、私の中で新しい発酵食品を試みるのではなく、自分の生まれ育った地域に根付く発酵食品にもう一度着目し、そしてそれらの歴史や背景に敬意を持って、自分が学んで来たイタリア料理で新たな表現をする事が、自分に出来うる最大限の発酵の可能性ではないかと言う思いから、愛知県に昔から有る八丁味噌と三河みりんを自身の料理に取り込み、それをこの愛知の土地で生まれ育った名古屋コーチンに合わせた一皿を作る事で表現してみました。


chef profile

前田 拓也
TAKUYA MAEDA

愛知県小牧市生まれ。名古屋のイタリアンレストランでベースを学ぶ。22歳の若さで地元のレストランにて料理長を経験後、本格的にイタリア料理に魅了され2008年より渡伊。プーリア州の一ツ星レストランを中心に各地で研鑽を積む。帰国後は銀座「ブルガリ イル リストランテ ルカ ファンティン」に4年間在籍後「リストランテ クロディーノ神楽坂」の料理長を経て2019年より「エトゥルスキ」の料理長に就任。2024年4月名古屋に「シンチェリタ拓」OPEN。



INFORMATION

名古屋市東区泉2丁目8-7[google MAP🔗]
Tel:090-8079-0000
営業時間:
定休日:
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