Ristorante IL PRINCIPE
リストランテ イルプリンチペ

伝説のプリンチペが遺したレシピを継承


フィレンツェ時代の恩師にちなんだ店名

大阪市内、中之島沿いにある「リストランテ イルプリンチペ」シェフの仲川広氏は、フィレンツェの名店「ラ・ジオストラ」でシェフを務めた経験を持つ料理人だ。「ラ・ジオストラ」はハプスブルク家の末裔であるディミトリ・ディ・ハプスブルグ・ロレーヌがオーナーシェフをつとめ、スタッフはもちろん店を訪れるゲストたちからも敬意を込めて「プリンチペ=公爵」と呼ばれていた。ディミトリ公爵はすでにこの世を去ったが、その意志と料理観を継承しているのが仲川シェフだ。

「リストランテ イルプリンチペ」という店名は仲川氏の師匠であり恩人であったディミトリ公爵に捧げられている。仲川氏が今も守るポリシー「in food we trust=わたしたちは食の力を信じる」は、生前にディミトリ公爵が常々口にしていた言葉だ。「季節のストゥッツィキーノ」「真のティラミス」そして「ラ・ジオストラ」直伝の詰め物パスタ「リコッタとほうれん草のラヴィオリ」。プリンチペが守ってきたイタリア料理の伝統は、たとえ時が流れても脈々と受け継がれている。

2023年「パスタ未来形」で仲川シェフが考案したのは「ラヴィオリ ヴェルディ」自家製リコッタチーズと大和まなのリピエーノ日本猪牧場のラグーキャンティジャーノ。仲川シェフが考える「パスタ未来形」とは4つのエレメントが必要である。普遍的であること 、環境に即していること 、美味しさに忠実であること 、そして未来は現在を介して過去の延長であるという認識。 仲川シェフはイタリアのパスタ職人リリアーナから学んだ伝統的な緑のラヴィオリ「ラヴィオリ ヴェルディ」を日本の食材で仕上げた。

パスタ生地には仲川シェフの故郷、奈良の伝統的な寒晒し製法で作られた吉野本葛を練り込み、なめらかな触感と舌触りに仕立ててある卵は大阪府茨木にある養鶏場「鳳ファーム」の産みたて卵、詰め物には、3日間かけて最適な脂肪分に調整した自家製リコッタチーズと、 「古事記」に記載があるほど古くから食されてきた奈良産大和まなを包みこみ、過去と未来をイタリア料理でつないだ。ソースはサステイナビリティにも取り組んでいる鳥取県日本猪牧場のイノシシ肉を赤ワインで煮込み、トスカーナ伝統のキャンティ風ソースにしてある。ステーキなどと違って煮込み料理は「部位を選ばない」=「食材に無駄が出ない」という観点にも着目。猪の骨からとったブロードのスプーマも添えてあり、食材を無駄にせず、猪の骨まで料理することで料理人としての矜持を示した素晴らしい未来形パスタだった。

「トリス ディ ピッコリ ドルチ
発酵塩柚子を練り込んだ栗粉のネッチ 農園K56の刀根柿と今西酒造酒粕のクリーム
大和高原和紅茶のスキャッチャータ アッラ フィオレンティーナ 和ハーブとワインの琥珀糖」

イルプリンチペのコースの最後にお出しする小菓子3種類。私仲川が長年修業したイタリア・トスカーナ州の郷土菓子には日本の発酵食品を使用し、日本の伝統的な琥珀糖にはイタリアワインを使用しました。イタリアと日本の融合をお楽しみいただければと思います。

1、石臼挽きのイタリア産栗粉を使用し香ばしく焼き上げるトスカーナ州の郷土菓子「ネッチ」。今回は、塩漬けにして乳酸発酵させた青柚子を刻んでネッチの生地に練り込み、四角く焼き上げました。上には、私仲川の故郷、奈良の今西酒造の酒粕を使用したクリームと天理にある農園K56さんの旬の刀根柿を添えました。仕上げは北摂の養蜂家aoiさんのカラスザンショウの蜂蜜と一緒に。

2、フィレンツェの郷土菓子「スキャッチャータ アッラ フィオレンティーナ」。奈良・大和高原で採れた、べにふうきの茶葉を発酵させた和紅茶を使用して香り高く焼き上げました。中には、こちらも農園K56さんの防腐剤、防カビ剤、ワックス不使用の緑レモンの皮と果汁を使用したカスタードクリームを挟みました。

3、日本で古くから作られている寒天と砂糖を使った和菓子の一種、「琥珀糖」。八角や丁子などの香り高い和ハーブとイタリアワインと寒天を炊き上げて冷やし固め、ゆっくりと時間をかけて乾燥させました。

料理人であり食に携わる私が考える発酵の可能性は「保存」「美味しさ」「地域性」です。私たち料理人は、日々の仕込みや営業で、食材の鮮度や美味しさをいかに保つかを常に意識していますので、発酵は大変身近なものです。生物は腐りやすいものが多いですが、例えば塩漬けにして発酵させることで保存期間を格段に伸ばすことが出来ます。発酵により保存性が高まることで食品ロスの軽減にも役立っています。また、その食材が元々持ち合わせていなかった旨味や香りを発酵により引き出すことで、新しい美味しさを生み出すことが出来る可能性があります。生ハム、サラミ、ボッタルガなど元々は保存のために始めた塩漬けが、乳酸発酵を導き出し、驚くほど美味しい食品を生み出しました。イルプリンチペでもパンチェッタやカラスミなどを自家製で仕込みますが、美味しさを求めて塩漬け、乳酸発酵を行っています。また発酵食品には、その土地ならではの気候や風土、歴史に根付いた地域性があると考えます。今回使用した今西酒造の酒粕や大和高原の和紅茶などもそうですが、その地域の発酵食品を使うことで、そのレストランでしか作れない個性のある料理が生まれる可能性があると感じています。


chef profile

仲川 広
HIROSHI NAKAGAWA

1979年、奈良県出身。国内の多数のレストランで修行を重ねた後、2005年に渡伊。ハプスブルク家の末裔が経営するフィレンツェの名店「ラ・ジオストラ」、地元の人たちに愛される老舗トラットリア「ラ・タヴェルナ」の料理長、総料理長を務め2012年に帰国。2017年、満を持して「リストランテ イル プリンチペ」を開業。約8年間のイタリアでの経験を生かし、季節の厳選した素材の持ち味を力強く生かした一皿一皿に、イタリアの風を感じてもらうべく、日々奮闘中。


INFORMATION

大阪府大阪市中央区北浜 2-1-26 松岡ビルB1F[google MAP🔗]
Tel:06-6233-3366
営業時間:ランチ 12:00~15:30(最終入店13:00)ディナー 17:30~22:30(最終入店19:00)
定休日 水曜日
公式WEB