Ristorante i-lunga
リストランテ イ・ルンガ
史上初めてイタリア版ミシュランで星を取った日本人シェフ









ピエモンテ、西麻布、奈良、二子玉川と続く挑戦
2000年代前半、まだいまほどSNSも活発でなくネットの情報も乏しかった時代のことだ。日本人として初めてイタリア版ミシュランの一つ星をとった日本人がピエモンテにいる、という噂を聞いていろいろ調べてみたところ堀江純一郎氏の名前に行き当たった。2002年「リストランテ・ピステルナ」のシェフに就任し、2004年に一つ星の栄誉に輝いたのだ。
その堀江シェフはその後日本に帰国し2007年に西麻布に「ラ・グラディスカ」をOPEN。その後2009年には奈良へと移り「リストランテ イ・ルンガ」を開く。奈良で10年経った後、堀江シェフは再び東京に戻る。2019年に東京二子玉川に「リストランテ イ・ルンガ」は移転した。二子玉川駅前の喧騒からはやや離れた場所に「リストランテ イ・ルンガ」はある。ピエモンテの真髄である手打ちパスタ「アニョロッティ・ダル・プリン」や「パンナコッタ・クラッシカ」など、これぞ王道というべき料理が堀江シェフのフィルターを通し東京で味わえる。
しかし堀江シェフは決して郷土料理至上主義ではなく、常に革新的かつ新しい未来のイタリア料理を志向していることも特筆すべきことだ。2023年「パスタ未来形」で堀江シェフが発表したのは、大胆にも鰯の熟鮓を使った「~発酵~ 銚子いわしの熟鮓 ガルム風味のタリオリーニ グラン・スペチアーレ」。鰯の熟鮓をほぐし、飯(いい)と共にニンニク、エシャロット、貝の出汁、ガルム、パルミジャーノなどとソースに。発酵と熟成が生み出す独特の味の奥行きは複雑かつ重層的で、独特の酸味と鰯の血合いの苦味など、どこか懐かしさも感じる、古くて新しい大人のパスタ。それは今年の統一テーマ「発酵の可能性 Power of Fermentation」の先取りで、すでに堀江シェフは発酵を通じた未来のイタリア料理の姿を見つめていたのだ。
2024 ITALIAN WEEK 100 発酵の可能性メニュー

私が通う川崎北部市場で、たまたま見かけた北海道産アブラボウズ。あまり出回らないレアな魚なのでスタッフたちの勉強のためにも即購入しました。5kgの重量で、鮮度の良い内にカルパッチョに使うだけでは 消費しきれないため、残りは塩麹漬けにして保存。脂の乗った魚なので塩麹漬けには最適です。棒状のフィレの状態で数日漬け、適度に脂を抜き、フライパンで焼いてメイラード反応をしっかり起こし、香ばしさを演出。
信州味噌を練り込んだパンは、私が幼少の頃を一時期過ごした長野県の郷土菓子から構想しました。微生物互助会の最たる食品の一つである味噌を 使うことで「発酵」のテーマを象徴的に表しています。米糀で発酵した味噌をイースト菌発酵のパン生地に混ぜ込み、発酵調味料である塩麹漬けのアブラボウズを包み込み、イタリアのBomboloneを連想するように揚げパン仕立てに。また、揚げることで味噌がメイラード反応を起こし、旨味と香ばしさを増し、色合いも食欲を喚起する茶色になります。
組み合わせるのは乳酸菌発酵のイタリアのチーズのフォンデュソースと自己発酵の黒ニンニクのピューレ。 日本とイタリアの発酵食品だけで一つのお皿が完成致します。
発酵の可能性に対するシェフの考え
世界中に発酵食品は存在しますが、日本はとり分けその種類が豊富です。醤油、味噌、酢、みりん、魚醤などの調味料。漬物や納豆などの野菜、豆類。かつお節や干物、塩辛、なれずし等の魚類、日本酒や甘酒、お茶などの飲みもの…発酵を意識せずとも毎日日常的に食す、身近かつ必要不可欠な存在です。高温多湿な気候、米作文化、肉食を忌避した歴史と、微生物と共に生活することで保存と旨みを両立させることに気付き、その技術を発達させた先人たちの知恵と経験の賜物を、現代人の私たちは享受しています。
世界中の食文化に興味を持つ特異な国である日本では、グローバル化する現代において、世界のあらゆる発酵食品が発見されるたび、その食品が紹介され、食され、話題となり、根付いていきます。チーズ、ヨーグルト、ワイン、キムチ、ピクルス、パン、ナタデココ…枚挙にいとまがありません。かように発酵食品に対する生産技術が高く、日常的に多くの種類が消費される他に類を見ない国日本で、新たな食材と菌の組み合わせ、温度・湿度管理などの技術革新が今現在も行われています。また、体調管理の側面からもアプローチされており、私も、ヨーグルト、納豆、糠漬けはほぼ毎日食しています。
私たち料理人も食材の発達に伴い、自らをアップデートして、新しい料理を生み出す楽しみが増えていきます。昨年のイタリアンウィークで、イワシのなれ鮓を使ったパスタを出品するなど、私自身、発酵食品の旨味に注目しています。無限の可能性を秘めた発酵食品。近未来に、宇宙から来た菌、氷河から発見された菌、地下深くから発見された菌…など新発見があって食品になったらロマンですね。
chef profile

堀江 純一郎
JYUNICIHRO HORIE
1971年東京生まれ。駒澤大学文学部国文学科卒業。25歳で渡伊。
2002年、ピエモンテ州の「RISTORANTE PISTERNA」のオープニングシェフに就任、開店1年5か月で、現地イタリア版ミシュランで日本人としては初となる1ツ星を獲得。
INFORMATION
東京都世田谷区玉川3-13-7[google MAP🔗]
Tel:050-1807-3312
E-mail:info@i-lunga.jp
営業時間:ランチ 11:30~14:30 ディナー 18:00~22:00
定休日:不定休
※スマートカジュアル
➣ 公式WEB
バリラ×IW100 バリララザニアウイーク2024
開催概要
W100に参加する12軒で、バリララザニアウイーク2024のために創作したラザニアが以下の期間限定でメニューに登場!(※ご予約、詳細は各レストランまでお問合せください。)

提供期間:2024年 7月17日(水)~23日(火)
「ラザニエッタ・ディ”UMAMI” モンテ・エ・マーレ」
ラザニエッタ・ディ”UMAMI” モンテ・エ・マーレ」とは訳すなら「小さなラザニア”旨味”山と海の幸」となるだろうか。堀江シェフがテーマとしたのは日本ならではの「旨味」。上から、ラザニアの層を旨味の層として構成。昆布のベシャメル、四万十鶏のラグー、舞茸とベシャメル、ハマグリとホタテ、トッピングにトマトとチーズという5種類の「モンテ・エ・マーレ=山と海」の食材で、異なる旨味成分を層にしてある。非常に重層的かつさまざまな旨味がほとばしる、未体験のラザニアだ。
