ローマの「国立パスタ博物館」が改装のためクローズしてからもうどれぐらい経つだろうか。その間何度も「間も無くリニュールオープン」という噂が浮かんでは消えていった。旧ベルルスコーニ政権が文化事業関連の予算を大幅に削減したこともあり、とうとう再びパスタ博物館が見られるようになるのは夢のまた夢か、と思っていたところ近々リニュールオープン予定が発表になる、というニュースも流れてきたが2018年もまもなく終わり。「国立パスタ博物館」再建はまたしても無期限延期となりそうな雰囲気が漂っている。

パスタ王国イタリアにあって、その規模、内容とも決して充実していたとは言えない「国立パスタ博物館」だったが、クローズしている間に小規模ながらもパスタ・ファンは欣喜雀躍泣いて喜びそうな「パスタ博物館」がパルマに誕生した。2014年5月10日正式オープンした「パスタ博物館 Museo dell a Pasta」はパルマ南西約20km、ターロ川に近い「コルテ・ディ・ジアローラ Corte di Giarola」内にある。これはパルマ、ランギラーノ、コッレッキオ、ソラーニャ市が主導しているフード・ツーリズム「食の博物館 Musei dei Cibi」プロジェクトの一環で、同時期にパルマ周辺には「パルミジャーノ・レッジャーノ博物館」「プロシュット・ディ・パルマ博物館」「ワイン博物館」「サラーメ・ディ・フェリーノ博物館」「トマト博物館」が誕生。ちなみに「トマト博物館」は「パスタ博物館」と同じコルテ・ディ・ジアローラ内にある。

手打ちパスタの聖地であるエミリア地方にパスタの歴史がわかる施設を作ろうという考えは80年代から始まっており、行政の協力も得て完成したのがこの「パスタ博物館」なのだ。それだけに小さいながらもそのコレクションはものすごい。貴重な展示物を寄贈したのはコッレッキオ出身の作家兼農具収集家だった故エットーレ・グアテッリ Ettore Guatelli、パルマ近郊出身の詩人故アッティリオ・バルトルッチAttilio Berturucci(「ラスト・エンペラー」などで知られる映画監督ベルナルド・ベルトルッチ Bernardo Berturucciの父親)、そしてパルマの実業家であり地元パスタメーカーだったバリラを世界レベルにまで引き上げた故ピエトロ・バリラ Pietro Barillaの3人によるところが大きい。

「パスタ博物館」では人類が小麦の製粉を覚え、粒食から粉食へと進化する過程から展示されているが、もっとも興味深いのはエミリア地方に伝わる手打ちパスタを作る古い道具の数々と、19世紀以降パスタの大量生産を可能にしたさまざまな形状のブロンズ・ダイス「トラフィーラ Trafila」の圧倒的なコレクションだ。手打ちパスタの道具は主にエットーレ・グアテッリとアッティリオ・ベルトルッチからの寄贈と思われるがラヴィオリ、タリアテッレ、キタッラ、コルツェッティ(あるいはクロゼッティ)、パッサテッリなどなど昔の職人が手作りした本物のアンティークがずらりと並ぶ。さらに圧巻なのが100を超えるトラフィーラのコレクション。これはかつてのローマの「パスタ博物館」にもなかったはずで、パスタを産業として進化させたピエトロ・バリラの貴重な寄贈物だ。これも19世紀末のブロンズ職人が手作りしたものから現代の精巧なトラフィーラまであるが、一見しただけではどんなパスタが押し出されてくるのか想像するのは容易ではない。スパゲッティ、リガトーニ、ブカティーニといった形状はまだわかりやすいがファルファッレ、ルマーケ、オレッキエッテ、マリーレ、マッケローニ・アル・トルキオ、エリケ、カンパニーレとなると、どうしてこんなデザインが思いつくのか?というレオナルド・ダ・ヴィンチもびっくりの幾何学的迷宮の世界。イタリア料理ハードラバー、ならびにイタリア料理関係者は一度訪れてみることを強くお勧めする。

ちなみに「コルテ・ディ・ジアローラ」は中規模農家アジエンダ・アグリーコラで敷地内で作った野菜やサラミ類を使った料理を食べさせてくれるがこれがまた素朴で滋味深くなんとも美味しい。「パスタ博物館」見学のあとはどうしても手打ちパスタが食べたくなる、それは当然至極な欲求であろう。

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