World Pasta Dayにあたる2024年10月25日、バリラが主催するアジア・パスタ・コンテスト決勝 Pasta Championship Asia Final 2024がフィリピンのマニラで開催され、日本代表渕上誠剛シェフが見事優勝、アジア・チャンピオンの座に輝いた。

台風の接近に伴い、連日大雨が続いていたマニラだったがこの日は雨も止み、会場となった料理学校「De La Salle – College of Saint Benilde」では朝9時から熱戦の火蓋が切られた。この日の決勝に登場したのは登場順にベトナム、フィリピン、中国、マレーシア、日本、韓国、シンガポール、インドの各国予選を勝ち抜いた8名のファイナリストたち。15分おきに持ち時間55分での調理がスタート。審査員の実食審査と質疑応答を経て優勝者が決まるシステムだ。審査員はバリラ・アジア・パシフィック・エグゼクティブ・シェフのアンドレア・トランケーロ、同じくバリラからグローバル・フード・サービス・ディレクターのアンドレア・アルフィエリ、会場となった料理学校からマルガリータ・マーティ、ジャーナリスト池田匡克の4名で質疑応答は全て英語。8名のシェフはそれぞれが自国の料理文化や食材、アジアらしいスパイスやフレーバーを多用し、実に多彩で甲乙つけ難い8皿のパスタが登場した。

実食審査を終えた審査員4名で行われた審査会では、まず総合得点により日本、マレーシア、シンガポールという上位3名が決定したが、日本での予選同様全ての審査員が同じ3皿を選んでいたことからも3名の実力は非常に高評価をえていた。そして同じく4名の審査員全員がベスト・パスタに日本代表渕上シェフの「Sublimation of Climate(風土の昇華)」を推薦。満場一致で渕上シェフの優勝が決定。その後行われた表彰式では、副賞として渕上シェフにイタリア行きの航空券と優勝賞金1500ユーロが贈呈された。

大会を総括してみると、8名のシェフそれぞれがアジアならではの表現方法でパスタを調理したことは、今後のアジアにおけるパスタの可能性を考えると非常に重要であり、各国料理とパスタとの親和性の高さがあらためて浮き彫りになった。ただ国によってはパスタやイタリア料理がそれほど普及していない国もあり、パスタとソースの関係性がやや弱かったり、イタリア伝統料理に対する考察がやや弱い国があったことも確かだ。技術点において考慮されたのは持ち時間の遵守と清潔さ。予定時間をオーバーしたシェフは減点の対象となり、これは原点の対象ではないがほぼ準備を終えて時間を持て余しているシェフも見られた。一方渕上シェフは8名のシェフの中でも飛び抜けて多い20種類以上の食材を用意していたにもかかわらず、最後の最後まで気を抜くことなくパスタを仕上げた。

渕上シェフの「Sublimation of Climate(風土の昇華)」は動物性食品を一切使用しないヴィーガンパスタである。フィリピン代表の女性シェフもグルテンフリーパスタを使った「ヴィーガン・ボロニェーゼ」を披露したが、ヴィーガンに対する考え方や調理技術、複雑さ、自国の食文化のパスタへの反映、といった点でも渕上シェフに軍配が上がった。渕上シェフは椎茸出汁、昆布出汁、野菜出汁、酒粕、3種の乾燥キノコ、トマトウォーター、パセリオイル、豆乳クリーム、なつめ、湯葉、玉ねぎの炭などを用いて、他の誰もが真似できない独創的かつ旨味と香りに富んだ素晴らしいヴィーガンパスタを創り出した。今回多くのシェフが旨味を出すのに海老を多用していたことからも、渕上シェフの独創性と思考の出発点は際立っていた。またインドのシェフは、インドではレンネットを使用したチーズは使用できないことから食材の制限もあったとコメントしたが、そうしたアジア各国の文化や宗教などの観点からもヴィーガン的思考のパスタはこれからますます重要になっていくはずである。

日本はイタリア料理の普及度とそのレベルが他国に比べると非常に高く、また食材や食文化の面でも他国よりもアドバンテージがあり、一目置かれた存在だったことは確かだ。しかし渕上シェフはそうした期待やプレッシャーに臆することなく、見事日本の食文化を反映したパスタでアジアNo1という栄冠を手にした。それは単に技術だけではなく、多くのシェフが大会前日マニラ入りしたのに対し、渕上シェフは1週間近く前から現地入りしてマニラの気候や温度、風土、文化などを肌で感じながらレシピを微調整し、試作を繰り返して決勝に臨んだ。自分の料理とコンテストにかけた熱量こそが優勝の最大の要因となったことはまぎれもない事実であろう。あらためて優勝した渕上シェフに敬意を表するとともに、心よりお祝いの言葉を贈りたい。