K’shiki / Mandarin Oriental, Tokyo
ケシキ / マンダリン オリエンタル 東京

新シェフ、FULVIO VENTURAが追求する東京発の新旧イタリア料理

過去から未来編、南イタリアの味に地中海的フレーバーをプラス

近年次々と新しい外資系ホテルが登場する東京のホテルシーンだが、ガストロノミーという観点に置いて眺めてみると「マンダリン オリエンタル 東京」に比肩するホテルはないだろう。フランス料理や広東料理、寿司など7つのレストランと3つのバー&ティーコーナー、さらにグルメショップやオールデイダイニング、プライベートダイニングと、ありとあらゆる食体験が用意されているのだから。そうした全てのレストランを統括する総料理長はイタリア人シェフ、ダニエレ・カーソン氏。自らプロデュースしたコンテンポラリー・ピッツァ「The Pizza Bar on 38th」はすでにアジアNo.1の称号を得ているが、そのダニエレ・シェフが信頼するFULVIO VENTURA氏が新しくイタリアダイニング「ケシキ」のシェフに就任した。

FULVIOシェフは南イタリアのサレルノ出身。サレルノ大学経済学部在学中に料理人への道を志し、ローマで能田耕太郎シェフに師事。いまも能田シェフを「Tutor=先生」と呼んで尊敬してやまない。中近東のクウェート、ドバイ、そしてインドで経験を重ねた後、2024年2月に来日するとすぐ「ケシキ」の厨房で新メニュー製作に取り組んだ。「中近東、インドを経てようやく憧れの日本に到着しました」というフルヴィオ・シェフのメニューは「Nuovo=新」「Classico=旧」という新旧2通りのコースだ。「新」は従来のイタリア料理にはなかった現代的調理法や食材を用い、FULVIOシェフがこれまで経験した中近東やインドのスパイス、調理技術も取り入れてある。「旧」はいわゆるオーセンティックなイタリア料理だが、独自のフィルターを通したプレゼンテーションで登場する。両メニューの根底に流れるのは「自分のアイデンティティ」と呼ぶ南イタリア料理だ。

例えば「NUOVO=新」のメニューでは、まず「ハト麦のリゾット パルミジャーノレッジャーノチーズ ブラッドオレンジ 赤海老 雲丹」がある。コースメニューにはパンも含まれるため、米の代わりにハト麦を使用することで炭水化物を抑えたグルテンフリー料理。厨房の野菜は全て捨てずに使い尽くす「ゼロ・スプレーコ」をモットーとするフルヴィオ・シェフはあらゆる野菜の端材をローストしてブロードをとり、パルミジャーノ、発酵バターとともにハト麦をリゾット仕立てにした。野菜とパルミジャーノに旨味にほのかな乳酸系の酸味が加わるとウニを思わせるから不思議だ。もちろんトッピングのウニとの相性もいい。「カンパチ 地中海のブーケ スコッリオソースと烏賊墨 茄子のグラッセ」はかのマルケージの名作「赤と黒」と思わせる美しさと完成度の高さ。カンパチは肝とハーブ、アンチョビなどを詰め物、ライスペーパーを巻いてからカリカリにロースト。南イタリアでよく食べる魚介のトマトソース「スコッリオ」を旨味たっぷりのソース仕立てにしてある。そして火を入れた茄子には表面に烏賊墨を塗ってある。見た目はシンプルかもしれないが非常に手が込んだ料理である。

「国産牛イチボ トマトザバイオーネ カポナータとオイスターリーフ」はまずイチボ肉を2週間ドライエイジングさせてから火を入れてあり、ケイパーのほろ苦いペーストで食べる。付け合わせがまた非常に手が混んでいてトマトと卵黄で使ったザバイオーネのスプーマはガスパチョのような爽やかさ。緑色の球体はナスやズッキーニなどの野菜を使ったシチリアの甘酸っぱい料理カポナータで、その上にビエトラ(ふだん草)、さらにバジリコのピューレでコーティングしてある。「CLASSICO=旧」から一皿紹介するなら子羊を使った「ラムラックのロースト アロスティチーノ グリーンアスパラガス バターミルクソースとローレルオイル」だろう。子羊のフィレのローストには、中近東では羊料理に定番のヨーグルトのを思わせるバターミルクのソースを。そしてイタリアのストリートフードである一口サイズの串焼き「アロスティチーノ」はシンプルに塩だけ、それが一番美味しい食べ方でもあり、アスパラガスやソースにも細部に至るまできめ細やかな仕事がしてある。

FULVIOシェフの料理は南イタリア料理をベースにしてあり、中近東含む地中海的な香りやエッセンスを加えて、重層的だが軽やかに仕上げてある。食材やソース、ひとつひとつのディテールにイタリア伝統の味や香りを感じるが、その背後には非常に丁寧な準備と調理が施してある。東京では昨今ラグジュアリー・イタリアンにおけるイタリア人シェフの活躍が目覚ましいが、また一人注目シェフが現れたことは間違いない。


chef profile

フルビオ・ベントゥーラ
FULVIO VENTURA

1990年南イタリア、サレルノ生まれ。サレルノ大学経済学部入学後に料理人へ転身。ローマ「Bistro 64」で能田シェフに師事する。後に中近東のクウェートやドバイでレストラン・マネージメントにも携わり、インドの「JWマリオットホテル ニューデリー エアロシティ」エグゼクティブ・スーシェフに就任。ミラノの3つ星「MUDEC」を経て2024年2月より「ケシキ / マンダリン オリエンタル 東京」シェフ。



INFORMATION

東京都中央区日本橋室町2-1-1 マンダリン オリエンタル 東京38F[google MAP🔗]
Tel:03-3270-8188
E-mail:motyo-fbres@mohg.com
営業時間:ランチ11:30~16:00、ディナー17:30~23:00(月曜~金曜)、17:00~23:00(土曜~日曜、祝日)
定休日:無休
公式WEB