KAJI SINERGY RESTAURANT
カジ シナジー レストラン

花咲き誇る御船山楽園にある気高き一軒家レストラン

 「シナジー」それはあらゆる文化が生み出す新しい相乗効果

佐賀県武雄温泉にある御船山楽園は、旧佐賀藩主であった鍋島家が1845年に完成させた15万坪を誇る壮大な池泉回遊式庭園である。春の桜を筆頭につつじ、藤、紅葉と季節ごとに色とりどりに庭園を染める木々が旅人の目を楽しませてくれる。その御船山楽園にある一軒家レストランが「カジ シナジー レストラン」だ。オーナーシェフである梶原大輔氏は20代前半にバリスタの修行でヨーロッパに渡るも、イタリアの地方を回っているうちに多くの出会いを重ねてイタリア料理に目覚める。

イタリアの田舎を旅していると「お前今日の予定はなんだ?」「いえなにもありません、旅してるだけですから」「じゃ今晩うちにご飯食べに来い」とイタリア人に食事に誘われた体験がしばしばあったという梶原シェフは旅を終える頃、バリスタよりも料理を生涯の仕事にしようと決心する。帰国後は武雄温泉に当時あったイタリア料理店の厨房で料理人として働くこと15年。最後の10年間はシェフをつとめた。イタリアでの修行経験がないと本人はいうが、だからこそイタリア料理だけではなく、それまでに経験した和食やフランス料理のエッセンスや技法もとりいれることが可能であり、自由かつ個性的な料理を次々に生み出す原動力となっているのだろう。九州は食材が豊富、というのが一般の認識なのだが梶原シェフは逆に豊富すぎるて焦点がぼやけるという。嬉野市に生まれたので子供の頃から食事の基本は有明海の海産物。武雄温泉の食文化とはやや異なるのだが、自分のルーツである有明海の食材を極力使うようにしているという。食材が豊富すぎるので自分にしばりを、という梶原シェフは自ら山に入ってクレソンをとり、釣りに行き、猟も行う。「とる」という行為に重きを置いて料理を俯瞰すると、全く違う料理の発想が生まれるそうだ。

有明海では生で食べる習慣があるというコハダ(コノシロ)は唐津に自生しているシナモンと青梅でマリネし、ミモレットとシェーブル、バターが香るブリオッシュとともに一口サイズのクロスティーニに。リコッタを作った際に出るホエー(乳清)は菊芋とともにスープにし、香り高い仏手柑のマルメラータととも味わう。「二神島 ヒラメ ダイコン」は有明海で唯一信頼する漁師のヒラメを使い、高菜の芯は乳酸発酵させて酸味を出し、5種類の大根と共に食べる。ヒラメも素晴らしいが料理の主役は5種類の大根だ。苦味、酸味、ほのかな甘味が御船山に訪れる春の香りを連想させる。「有明一番海苔のリゾット」も梶原シェフらしい料理だろう。5年間乾燥、熟成させた嬉野産の米を炊いてウニ、ポーチドエッグ、有明海の海苔とともに滋味深いリゾットに。ひとつぶひとつぶ、米の小ささが5年間の乾燥熟成を如実に物語っている。しかしなによりも忘れられないのはこの日のメイン料理「ゴボウ ほうれん草」だった。

プラントベースではないという梶原シェフだが、こと野菜に関しては他者と違う角度から俯瞰している様子が料理からも伺える。これは半年土に埋まっていたというとうの立ったほうれん草の根はソテーに、ゴボウの根は素揚げにしてある。さつまいものような甘みを感じるほうれん草の根、ゴボウの根はアーティチョークのフリットを連想させる。佐賀の大地に根ざした野菜は力強く、生命力に満ち溢れていた。

最後にワインについても触れておきたい。バーテンダー時代からワインが好きだったという梶原シェフだが、地方都市ゆえに気に入ったワインを仕入れることは、そう簡単ではない。ゆえに酒販免許を取り、販売用に仕入れることでセラーを徐々に充実させていったのだ。この日のワインもイタリアだけでなくチェコ、フランス、日本酒など自由自在。特に岩手県遠野市の発酵レストラン「とおの屋 要」自家製のどぶろくはマンステールチーズを思わせ、ヨード香に富む素晴らしい一杯。料理もペアリングも既成概念にとらわれないリベラルな発想こそが地方にあるレストランの最大の魅力である。「カジ シナジー レストラン」ではそんな日本のイタリア料理における金科玉条を再認識することができた。それも自分にしばりをかけ、物事を違う角度から俯瞰することで生まれる、梶原シェフならではのアプローチがなせるわざなのである。

「佐賀・竹崎のクチゾコ」

佐賀には二つの海があり、この料理は有明海の豊かな味わいを表現しています。当店では、玄界灘の魚はシェフ自らが釣ったもの、有明海の魚介類は信仰の深い境田氏のものに限定し、地域の風土と発酵の技術を大切にしています。今回の料理には、有明海の舌平目「クチゾコ」を使用しました。この魚は、靴底に似ていることから地元でクチゾコと呼ばれます。大ぶりのクチゾコに、2年間発酵熟成させた自家製のコハダの魚醤を含ませ、丁寧に蒸し上げています。

魚醤は、春に大量に獲れる新鮮なコハダを使用し、骨と内臓に塩を施して発酵させたものです。ソースには、蒸し上げた際に出るクチゾコ特有のゼラチン質と魚醤の旨味を、佐賀特有の柑橘「キノス」の爽やかな果汁とオリーブオイルで仕上げています。

また、付け合わせの野菜には、九州でよく栽培される高菜の間引きを乳酸発酵させたものと、乳酸液に漬けた焼きなすのピュレを添えています。発酵の技術が生かされたこの一皿には、nondoのラフターズをペアリングとしてご提供しており、相性も抜群です。

佐賀では、本州ほど発酵技術が多用されていないと考えています。これは、佐賀が豪雪地帯のように冬に備えて食料を蓄える必要が少なく、常に新鮮な魚や野菜が手に入る環境にあるためだと思います。新鮮な食材をそのまま楽しむ文化が根付いているため、発酵の機会が限られてきたのではないでしょうか。しかし、当店では、佐賀の豊かな食材をそのまま使うだけでは物足りなさを感じ、あえて食材を絞り、その背景や環境に重きを置いて調理することを意識するようになりました。

特に、玄界灘の魚はシェフ自身が釣り、どの環境で育ち、何を食べているか、そしていつが本来の旬なのかを理解することを重視しています。市場での仕入れと違い、毎回思い通りの魚が手に入るわけではありませんが、その時々に手に入る魚をすべて使い切ることで、この地ならではの料理が生まれると感じています。そのためには、発酵が不可欠だと考えております。

当店では魚の内臓や骨を使い、自家製の魚醤を作り、それを料理に活用しています。さらに、魚醤は新鮮な野菜よりも、少し乳酸発酵させた野菜と相性が良いことが分かりました。特に毎年の猛暑には、発酵がもたらす独特の酸味が新たな食の楽しみを提供してくれるのではないでしょうか?


chef profile

梶原 大輔
DAISUKE KAJIWARA

1980年佐賀県生まれ。もともとバーテンダーとして飲食業に携わっていたが、バリスタの勉強のためイタリアに訪れたことがきっかけとなり料理人を志す。帰国後は料理人としてイタリア料理店に15年勤務、うち10年はシェフとして活躍。2018年「カジ シナジー レストラン」オープン。



INFORMATION

佐賀県武雄市武雄町武雄4239-1[google MAP🔗]
Tel:0954-38-9007
営業時間:ランチ11:30~14:00(LO)、ディナー18:00~20:30(LO)
定休日:月曜、第3日曜

公式WEB