2023年6月から始まったITALIAN WEEK 100参加店訪問の旅も、8月6日でようやく一段落。東京に帰って2か月分の取材成果を整理しつつ足跡を振り返ってみると、北海道に始まり四国、中部、東北、北陸、長野、関西、中国地方とくまなく旅したその移動距離1万2555km、訪問軒数57軒。日本からイタリアまでが約1万kmなのでイタリアを突き抜けて大西洋まで行ってしまうぐらいの移動距離に相当する。なかなかの数字である。
なぜこれまでして日本全国を回るのか?と問われると答えは明快、ひとつしかない。それは日本全国のイタリア料理店のレベルが非常に高く、その個性とバリエーションが多岐に渡るからだ。かつてガンベロ・ロッソの創設者である故ステファノ・ボニッリが「日本はイタリアにおける21番目の州である」という名言を残したが、これほどまで国全体にイタリア料理が深く浸透している国は、知る限り日本以外にはない。
一都市におけるイタリア料理の軒数ならば、もしかしたらニューヨークのほうが東京よりも多いかもしれないが、北海道から九州、沖縄に至るまで、単に食材のみならず地域特性や料理文化、気候、風土までイタリア料理に取り入れているのが日本のイタリア料理の最大の特徴であり、だからこそこうしたイタリア料理店を一軒一軒訪ねるのは単に美味しいという枠を超えた、イタリア料理文化伝播の起源を探して歩く壮大な叙事詩でもある。ITALIAN WEEK 100のコンセプトは正にそこに尽きる。
北海道では「タカオ」高尾僚将シェフとともに森を歩き、満月の能登では「ヴィラ デラ パーチェ」から見る美しく静かなる七尾の海と華麗なる料理に心打たれた。アクセス困難度が高いエリアも多く、例えば、高知県佐川町「ダ ゼロ」、鹿児島県鹿屋市「センティウ」、静岡県御殿場市「桜鏡」等へはレンタカーを駆使し、灼熱の関西では、京都と大阪を何度も往復しては一軒一軒を訪れ、その度に労を惜しんでも訪れる価値ある一軒に出会えた感動は大きい。東北では新幹線とローカル線を乗り継いで郡山、盛岡、秋田と移動し、雨の中由利本荘市「アフェット」から5時間かけて新潟まで移動したことも忘れ難い思い出だ。そこで出迎えてくれた一皿は、どんな名勝地にも勝ってより一層強く旅の印象に残るのである。
そうした一つひとつの旅の目的はまだ見ぬ地方のイタリア料理との邂逅なのだ。9月からはいよいよ全国巡業東京編が始まる予定だが、今後こうした100人のシェフの思考、哲学、パスタ未来形に対する考察などについては、各エリアごとにレポートしていきたい。
全国巡業も折り返し地点を迎えた現時点での中間報告と感想は、日本各地で芽吹いているイタリア料理文化の底力を思い知るという嘆息にも似た深い深い敬意の念しかない。11月に本番を迎えるITALIAN WEEK 100とは、こうした日本全国津々浦々に点在するイタリア料理の名店を訪ねて日本全国を旅する「イタリア料理のフードツーリズム」萌芽の一助となることを願ってやまない。全国巡業東京編にも期待していただきたい。
ITALIAN WEEK 100ディレクター
池田匡克