IL TEATRINO DA SALONE
イル テアトリーノ ダ サローネ

山本鉄巳シェフが2023年度IW100「ベストパスタ賞」受賞


高い美意識に支えられたハイエンドなイタリア料理

南青山、日赤通りにある「イル・テアトリーノ・ダ・サローネ」は「小劇場」という名のイタリア料理店だ。高級感あふれる空間作りには定評があるサローネグループの中でも、非日常を演出する空間として際立つ存在感を放っている。重厚感あふれる8席限定のカウンターも特徴的で、サービススタッフとの対話から料理の背景やシェフの思考、食材のストーリーなどを伺うのは至福のひとときだ。メニューは月替わりのおまかせコース一本のみ。デグスタツィオーネ=味わう、という言葉通りランチ8品、ディナー10品の料理を少しづつ味わい、限りない満足感へと到達する、そんな極上の演出が用意されているのも小劇場ならではの魅力だ。厨房を預かるのは若き山本鉄巳シェフ。しかしその実力は折り紙付きで、2023年度「パスタ未来形」では「パスタ キャリフィカータ」で見事自動更新満場一致で「ベストパスタ賞」を受賞した。

「キャリフィカータ」とはイタリア語で「澄んだ」という意味だが、これは山本シェフが料理を創作するとき、普段から心掛けている「澄心静慮(ちょうしんせいりょ)」と言う言葉に由来する。これは心を澄ませ、物事を深く静かに考えるという意味の四字熟語だが、山本シェフは澄心静慮の「澄」という文字に焦点を当てて、パスタ未来形を創作した。パスタは福岡県田中製粉「みなみの幸」を使用した、卵を使わない純白のタリオリーニ。秋田に住む義母の作る稲庭うどんの技法を取り入れ、通常のパスタの約3倍の塩と多めの水、オリーブオイルを加え、4日間じっくりと熟成、乾燥させることで豊かな小麦の香りと滑らかな食感を引き出してある。合わせるソースは十勝ロイヤルマンガリッツァ豚を日本酒と香味野菜のブロードで優しく煮込み、これも動物性でありながらも透明感ある澄んだラグーソースにしてある。仕上げには和歌山県「善兵衛農園」のグリーンレモンの果肉と皮を乗せ、レモンの葉から香りを抽出したオリーブオイルとペコリーノトスカーノを合わせる。皿から立ち上る香りは南イタリアのレモン農園を思わせ、純白のタリオリーニは滑らかだけれどしっかりとした存在感がある。そして見た目は淡白だがマンガリッツァの透明のラグーは力強く、見た目だけでは判断できない料理の奥深さを味あわせてくれる。

「パスタ未来形とは、イタリアで生まれたパスタという郷土料理が人とインターネットを伝って世界に広がり、根付き、その土地独自の食文化と交わり、発展していく。 この循環を繰り返した先にあると私は考えます。 食文化が違うからこそ生まれる可能性を表現出来たらと思います。」山本シェフはいう。それは2023年度の統一テーマ「パスタ未来形」の根幹となるコンセプトそのものだった。料理の完成度はもちろんのこと、パスタ未来形についての考察が実に鋭く深かったことから「ベストパスタ賞」受賞につながったことは紛れもない事実である。あらためて山本シェフに敬意を表し「パスタ キャリフィカータ」をより多くの人が味わってくれることを期待したい。


chef profile

弓削 啓太
KEITA YUGE

1985年佐賀県生まれ。東京「シェ・イノ」で4年、パリの3ツ星「ギ・サヴォア」で1年研鑽を積み、その後はフランス料理のテクニックをイタリア料理に応用して個性を開花。2018年3月「サローネ2007」のシェフに就任。2019年10月バリラ社主催の「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」で優勝。


chef profile

斉藤 類
RUI SAITO

1993年埼玉生まれ。埼玉県の調理科高校を卒業後県内のイタリアンレストラン「トラットリアアズーリ」に入社し系列店4店舗で6年間修行した後、高級業態を学ぶために2018年サローネグループに入社し2019年よりsous chefを務める 2022年より入社のきっかけにもなった「イルテアトリーノ ダ サローネ」シェフに就任


INFORMATION

東京都港区南青山7-11-5 HOUSE7115 B1F[google MAP🔗]
Tel:03-3400-5077
E-mail:ilteatrino@ilteatrino.jp
営業時間:ランチ 12:00~15:00 ディナー 18:00~22:30
※短パン、クロックス等過度な軽装はお控えください
公式WEB


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イル テアトリーノ ダ サローネ
「パスタ キャリフィカータ」

〝キャリフィカータ〟とはイタリア語で〝澄んだ〟という意味。私が料理を創作するとき、普段から心掛けている〝澄心静慮〟(ちょうしんせいりょ)と言う言葉。これは〝心を澄ませ、物事を深く静かに考える〟という意味。この澄心静慮の〝澄む〟という文字に焦点を当て、パスタ未来形を創作。パスタは卵を使わない福岡県田中製粉〝みなみの幸〟を使用した白いタリオリーニ。秋田に住む義母の作る〝稲庭うどん〟の技法を取り入れ、通常のパスタの約3倍の塩と多めの水、オリーブオイルを加え、計4日間じっくりと熟成、乾燥させることで豊かな小麦の香りと滑らかな食感を引き出しました。合わせるソースは〝十勝ロイヤルマンガリッツァ豚〟を日本酒と香味野菜のブロードで優しく煮込み、〝澄んだ〟ラグーソースにします。仕上げに和歌山県〝善兵衛農園〟のグリーンレモンの果肉と皮を乗せ、レモンの葉から香りを抽出したオリーブオイル、ペコリーノトスカーノを合わせました。

インターネットやSNSが世界中で発達していくこの時代。 料理人が世界中の料理を日々目にし、自国の料理が他国でどのように広がり、根付き、発展していくかが、ネットを通して観測出来る時代だと思います。〝パスタ未来形〟とは、イタリアで生まれたパスタという郷土料理が人とネットを伝い、世界に広がり、根付き、その土地独自の食文化と交わり、発展していく。 この循環を繰り返した先にあると私は考えます。 食文化が違うからこそ生まれる可能性を表現出来たらと思います。

バリラ X IW100 バリラ ラザニアウイーク2024
「ラザニア・コンジェラート」

「イル テアトリーノ ダ サローネ」山本鉄己シェフが考案したのは、なんとジェラートにした冷たくて甘いラザニア。ボイルしたラザニアと、バターを塗ってパリッと焼いたラザニアの2種類で、ピスタチオのジェラートと山羊のカプリーノチーズとホワイトチョコのセミフレッドを挟み込んだ。「イタリアに住んでいた頃ピスタチオと山羊のチーズの組み合わせが好きでした」という山本鉄巳シェフの発想は常に新しく、すぐに商品化できそうなほどのインパクトがある。

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「パスタと豆と麹」

イタリア語で〝パスタと豆〟を意味する〝パスタ エ ファジョーリ〟に秋田の〝麹〟を取り入れ、この料理を考案致しました。パスタ エ ファジョーリはボットーニと言われるボタン型の詰め物パスタで表現し、パスタ生地は〝田中製粉〟みなみの幸に、塩と水、秋田県横手市〝羽場こうじ店〟米麹のパウダーを練り込み、3日間生地を熟成させます。

詰め物は十勝の白インゲン豆とうずら豆に、香味野菜とトマト、大豆の3倍もの米麹を使った〝羽場こうじ店〟㐂助みそを加え、炊き上げました。ボットーニはボイルする事で米麹の澱粉をα化させ、香りと食感を引き出してからフライパンで表面を香ばしく焼きます。

合わせるソースは横手市の伝統野菜である八木ニンニク。辛味が少なく、現地では味噌をつけて生で食べることから、㐂助みその中に埋め込み、3週間ほど発酵させてから豆乳で煮込み、なめらかな発酵八木ニンニクソースにします。周りにはパセリのオイルと唐辛子のオイルを合わせ、上から白インゲン豆のチュイールに米麹、トマト、パセリの3種類のパウダーで飾りました。

素材は伝統的な野菜と穀物のみで構成し、あえて動物性の食材を使わず、麹の発酵で素材の旨味を引き上げ、プラントベースながらも力強く立体的な味わいに仕立てました。異なる土地と人々が年輪のように重ねてきた発酵食文化がこの一皿を通して交わり、発展していくことを願い、いくつもの輪が重なるチュイールを合わせ、私の考える〝発酵の可能性〟を表現致しました。

〝発酵〟は土地と共に根付いていった食材の保存方法であると同時に〝美味しさの根底を引き上げる〟調理法だと私は考えます。発酵を取り入れることで最小限の食材で旨味を補い、化学調味料や重層的な調味料に頼らず安定した美味しさを生み出すことが出来る。これは今後の加工食品をより良くする鍵になるのではないかと感じました。

私達は〝発酵〟という言葉を知るよりも前から多くの発酵食品に囲まれて育ってきたのではないでしょうか。その一方で昔と比べ食材の保存技術や食品添加物などが普及し、保存性の高い食品が日常的に手に入る事で、農業が盛んではない都市の家庭では、発酵食という文化は少しづつ薄れている様にも感じます。そこで私は数ある発酵の中でも日本の国菌とも言われる〝麹〟に注目しました。妻の出身地でもある秋田県横手市は、米どころであり、夏は暑く、冬は雪深い土地だからこそ〝麹〟の発酵文化が古くから受け継がれています。

私は今でもそれぞれの家庭で育まれている横手の発酵文化に感銘を受け、発酵に馴染みの少ない方にも、身近に手の届く〝麹〟で新しい料理の可能性をお伝えする事で、少しでも多くの方に〝発酵〟の魅力を感じて頂けたら、未来の食文化を守ることや、新たな技術の発展、フードロスの軽減などにも繋り、より美味しく、健康的な食品が増える事で、世界の食文化はより良い方向に向かうのではないかと考えました。

2023年度 IW100 アワード

2024年度 IW100 アワード

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「pasta dei ricordi 思い出のパスタ」

イタリア人が最初に口にするパスタは、マンマが作った家庭の味。家庭ごとに異なるその“最初の一皿”こそ、パスタの存在証明だと考えました。私にとっての原点は、幼少期に実家で何度も食べた「胡麻と大葉のつけ汁の素麺」です。胡麻をすり鉢でペースト状になるまで擦りそこに味わい加えていくという工程は、伝統的なジェノベーゼの技法と重なります。

そこで今回、その記憶をパスタに昇華させました。セモリナ粉100%の生地を十回折り込み、製麺後に一週間乾燥。そうすることで、素麺のつるりとした喉ごし食感とパスタの小麦の香りを併せ持つ独自の麺に仕上げています。ソースは、にんにくと唐辛子のオイルにアサリと昆布の出汁で旨味を重ね、香ばしくローストした自家製の胡麻ペーストを加えた冷製仕立て。さらに、素麺に見立てたアオリイカを鮎の魚醤とオリーブオイルで和え、花穂紫蘇の香りを添えました。食べ進めるうちに、忍ばせたバジルのソースが絡み合い、ジェノベーゼの味わいへと変化していきます。それは、幼い自分が無邪気に食卓を囲んでいた記憶から、今の料理人としての自分へと歩んできた時間を重ね合わせた表現です。  by 斉藤 類シェフ