CASA DEL CIBO
カーサ・デル・チーボ
八戸から発信する理想高きガストロノミー
「食べ物の家」という名の一軒家レストラン
池見良平シェフの「カーサ・デル・チーボ」は青森県八戸市にある。東京駅から東北新幹線を使えばわずか3時間弱だが、うみねこが飛び交う八戸港はじめ、北国を思わせる情緒があちこちに漂う。池見シェフは神奈川県に生まれ「インコントロ」「ダノイ」「エノテーカピンキオーリ」など東京の名店でキャリアを重ね、悦子夫人の故郷である八戸に移住。「カーサ・デル・チーボ」をOPENしたのは2011年4月末、東日本大震災の直後だった。
当初はリーズナブルな価格帯でスタートした池見シェフだったが、転機となったのは市内のホテルやレストランが参加した八戸港復興イベント。八戸産の魚介で作るブイヤベースは評判となり、知名度が広がるきっかけとなった。以来地元に根差しつつも本来池見シェフがやりたかったガストロノミー方向へと徐々に方針を転換。2021年の改装を機にランチ、ディナーともにコース一本という現在のスタイルを打ち出した。
その日のおまかせ「メニュー・デグスタツィオーネ Menu Degustazione」を眺めてみるとそこには八戸産、十和田産、青森県産という言葉がずらりと並んでいる。地元の優れた食材を使い、イタリア料理として昇華させるのは日本における地方イタリア料理の最大のストロングポイントだが、池見シェフはそこに一手間加えた、他の誰もが作っていないイタリア料理を指向する。例えば「八戸産アカハタ 十和田本わさびソース キャビア」とは実は魚のアカハタではなく、アカバギンアンソウという海藻のこと。八戸ではこれを見た目がコンニャクにしたアカハタモチにして食べる。池見シェフはこの食文化をガストロノミーに応用した。海藻由来の固まる成分を生かし、本わさびのムースを固めるとパンナコッタのような滑らかな食感になる。鼻に抜けるようなつんと刺激的なアカハタ・パンナコッタには辛口のスパークリングワインがよくあう。
「八戸産ヒラメ椎茸〆 カリフラワー 椎茸チップ カラスミ」もやはり池見シェフらしい料理で、昆布ではなく自家製の乾燥させた椎茸でしめてある。昆布と違ってぬめりが出ず、出汁感も強すぎずいい塩梅に仕上がるという。肉質豊かなヒラメにすりおろしたカラスミの組み合わせには、出汁のような旨味を感じるワインが欲しくなる。「八戸漁師「三宝丸」さん水ダコ 唐辛子ソース タココンソメ」はイメージは南イタリアでよく食べるタコの溺れ煮、アッフォガートなのだが、池見シェフはこれを見目麗しく綺麗に茹で上げ、セロリやパプリカのバーニャカウダソースと一緒にした。
中盤戦は手打ちパスタ4連発で「冷製タリオリーニ 八戸産毛ガニ フルーツトマト」「ラガネッレ 十和田山菜達(ワラビ、シドケ、うるい、こしあぶら、根曲がり竹)」「鮑の肝を練り込んだトロッコリ 八戸産蝦夷鮑 八戸産アオツブ」「青森地鶏シャモロック ポルチーニセッキ、フォアグラのアニョロッティ、サマートリュフ」と圧倒的な存在感のパスタが続く。タリオリーニの独特の弾力感も、大人の味のラガネッレもトロッコリもいいが、アニョロッティにはうならされた。非常に丁寧に作られた滑らかな生地とシャモ、フォワグラ、鶏油の詰め物。アニョロッティは優劣が如実にわかるパスタだが、これは素晴らしかった。そして最後は青森名物「銀の鴨」を巻いてバロティーヌ仕立てにし、青森名産黒ニンニクのソースで食べる。詰め物自体もソースも、付け合わせも非常に手の込んだ料理で「自分は洋食なので」と語る言葉の端々から料理人としての矜持が垣間見える。
ガストロノミーという言葉は近年乱発されている感があるが、その土地にある上質な食材を従来の料理方で食べるだけでなく、新しい技術や発想で挑み、プロフェッショナルな料理に仕上げるという点において、池見シェフの料理は真の「八戸ガストロノミー」といえるだろう。誤解を恐れずにいうならば、八戸はこれまでそうしたガストロノミーには無縁の地だったが、一石を投じたのが「カーサ・デル・チーボ」だ。イタリア語で「食べ物の家」という一見牧歌的かつ郷土料理店的な響きを持つが、実は池見シェフが八戸ガストロノミーを日々考案、実践し提案する、誇り高き一軒家レストランだ。
2024 ITALIAN WEEK 100 発酵の可能性メニュー
八戸市が水揚げ全国一を誇る真イカ(スルメイカ)は秋から冬にかけて肝も大きくなり、身厚で甘みも感じられる最良期。真イカは生で食べるのが最も美味しいため、八戸名産のイカの塩辛のように「生真イカ×真イカ肝発酵」で冷製パスタと考案しました。真イカはまず肝を「八戸産自家製塩麹」で発酵させ生のイカ身と合わせ塩辛のような旨味のあるソースに。これにサフランを練り込んだ自家製タリオリーニをあわせ、更にセロリ、レモンピールといったサルディーニャでは鉄板の食材を重ねて、和に寄りすぎない香りの良いイタリアらしいパスタ料理に仕立てました。
発酵の可能性に対するシェフの考え
今回は日本古来の発酵食品である麹を使用し、自家製の塩麹を作る所から始めました。麹は約250年続く八戸の蔵元「八戸酒造」さんの麹を使う事で八戸の食材に八戸の麹と地元食材を活かしたイタリア料理を目指しました。自家製の発酵食品を使う事でイタリア由来の発酵食品であるアンチョビなどとは違う味の複雑さや旨味を出せるという新たなオリジナリティの可能性を感じました。
chef profile
池見 良平
RYOHEI IKEMI
1976年神奈川県生まれ。エコールキュリネール国立(現エコール辻東京)在学中に渡仏し、フランス料理・イタリア料理の基礎を学ぶ。その後、横浜のフランス料理店を経てイタリア料理に転向。 「インコントロ」「ダノイ」「エノテーカピンキオーリ」などで修行を積み 2011年5月八戸にて「カーサ・デル・チーボ」をオープン。
INFORMATION
青森県八戸市湊高台1-19-6[google MAP🔗]
Tel:0178-20-9646
営業時間:ランチ12:15〜15:00(土曜のみ)、ディナー19:00〜22:00
定休日:日曜、月曜
➣ 公式WEB