





「Best Local Award(ベスト・ローカル・アワード)」とは、地方にある参加店舗の中から最も顕著な活躍が認められた店舗に贈られるアワードであり、2025年度は大分県別府市鉄輪(かんなわ)温泉にある「オット エ セッテ大分」に決定した。日本一の湧出量を誇る別府には別府八湯と呼ばれる温泉地があるが鉄輪温泉もその八湯のひとつ。昔から100度近い源泉を使った「地獄蒸し」という調理法があるのだが梯シェフはそれを進化させ、温泉水でパスタを茹で、熱を利用してソースを煮込み、野菜や果物を熟成、発酵させている。梯シェフは絵画も達人の域にあり、最初に配られるメニューの主役は梯シェフ手描きの大分県の地図。そこには地名や地形や食材が細かく描かれており、料理名もオリジナリティにあふれ梯シェフの料理哲学とユーモアが色濃く反映されている。
店名の意味だが、オットとはイタリア語で数字の8を意味し、セッテとは7のこと。これは幕末まで大分県では8藩7領という小藩分立政策が行われていたことに由来する。イタリアも古代ローマ帝国分裂以来1500年間小国分立の時代が続いたことにより、各地域で独自の料理文化が育まれてきたという背景があるが、こうした郷土の地域特性、文化をイタリア料理へと色濃く反映した「温泉キュイジーヌ」は、日本広しといえども「オット エ セッテ 大分」だけではないだろうか。

また、梯シェフは2025年11月17日には「第16回 農林水産省料理人顕彰制度 料理マスターズ」で初めて「ブロンズ賞」を受賞した。同制度は日本の「食」や「食文化」の素晴らしさ、その奥深さと魅力に誇りとこだわりを持ちながら、地域に根差した取り組みを続ける料理人を讃える制度であり、帝国ホテルにて行われた授与式では各料理カテゴリーからゴールド賞2名、シルバー賞3名、ブロンズ賞5名の計10名が選ばれたが、イタリア料理から選ばれたのはシルバー賞の京都「チェンチ」坂本健シェフと大分「オット エ セッテ大分」梯哲哉シェフの2人だけである。梯シェフは「温泉パスタ」の提供や、大分県佐伯市の食文化を考える食事会を毎年開催するなど、地元食材の魅力を引き出す活動が評価されての受賞となった。

梯シェフは統一テーマ「パスタの存在証明」では「ほうちょう Rey de BVNGO」を披露。あらためて大分の食文化の歴史とイタリア料理の融合をアイデンティティとするその哲学は多くの方からの投票を集めた。
「私の料理はいつも郷土愛の表現がテーマなので、大分の文化、食材から作り出す料理があります。今回は郷土料理「ほうちょう」作りました。この「ほうちょう」という料理は、戦国大名・大友宗麟公が鮑の腸が好物だったというのが始まりで鮑の腸に見立て小麦粉と塩水で作った長い(3mほどある)麺で【100年フード】にも認定されています。この大友宗麟、西洋文化を積極的に取り入れたキリシタン大名として知られています。そして貿易で巨万と富を得て、埋蔵金もあるのではないかとの噂もあります。その人物像に思いを馳せパスタにしました。
生姜のポタージュとネギのオイルを敷き、地獄蒸し鮑をスライスしたもの、地粉と塩水で作ったパスタは1.5mに伸ばし茹でた後丸めたもの。間に大分の野菜(温泉パプリカ、宗麟カボチャ、大葉、山葡萄、カボス)をピューレにしたものを流し込んであります。お客様の目の前で、椎茸といりこ、昆布のコンソメをピッチャーから注ぎます。パスタの下に埋蔵金(金箔)を忍ばせています。このパスタが、実は地元でもほぼ途絶えつつある「ほうちょう」次世代にまで残していくための進化であれば幸いです」と梯シェフは語ってくれた。
地理的ハンデをイタリア料理におけるストロングポイントに変える、というのはItalian Week 100が創設以来掲げる重要なコンセプトのひとつだが、地域特性、歴史、食材に加え、他の誰も真似ができない温泉水を生かした独自のイタリア料理を完成させた「オット エ セッテ大分」梯哲哉シェフには事務局より「Best Local Award 2025」をお贈りし、その活躍を永く表彰したい。受賞インタビュー動画は来春公開予定なのでこちらも楽しみにお待ちいただきたい。

