VILLA DEL NIDO
ヴィッラ デル ニード
島原鉄道で雲仙の田園地帯へ、美食の一軒がそこにある
島原テロワールを最大限引き出すイタリア的手法とリベラルな思考
長崎市から西九州新幹線で諫早駅へ向かい、非電化の島原鉄道に乗ること1時間弱。車窓に見えるのは有明海と雲仙岳の裾野に広がるのどかな田園風景。多比良(たいら)駅で降り、畑の中を歩くこと15分、ようやくたどりついたのが一軒家レストラン「ヴィッラ デル ニード」だ。この地で生まれた吉田貴文シェフは大学で国際文化を学んでいたが料理の道を志し、26歳でピエモンテに渡る。1年間に渡って研鑽を積んだ後帰国、2015年には一軒家レストラン「ヴィッラ デル ニード」をオープンした。
九州を旅する旅に、魚介類はもちろんのこと、食材の豊富さに圧倒されるが、吉田シェフが使う食材は島原半島のものがほとんど。こうしたテロワールを最大限生かした局地的イタリア料理は、他ならぬ九州ならでは特徴であり、イタリア料理求めて九州を旅する醍醐味でもある。
最初に登場したのは長崎唐人菜で有明海の海苔、白エビを巻いたアミューズ。これを一口で味わうと、黒キャベツに似た食感の唐人奈に海老の甘味と発酵レモンのほろ苦い酸味、マスタードシードのような食感のこぶ高菜の種がアクセントとなり、さまざまな味や食感が感じられる。海と畑が織りなす雲仙の風景そのものだ。「モリ突き海中神経締め」はアジアコショウダイのフリットで、その濃厚な味わいは肉厚のフグの唐揚げのよう。柚子胡椒にみえるのはクミンを効かせたレモンペーストで、クミンの香りがとてもよくあう。「素麺」これは最初のパスタ料理であり、南島原吉岡製麺所の手延べ極細プレミア素麺が使ってある。吉田シェフ曰く世界一細いという素麺だが、実際その細さに驚いた。カッペッリーニよりもさらに細く糸のような純白の素麺が、新玉ねぎと車海老のスープの中に隠れており、スープをたっぷりと絡めて食べる。
「汁」これは雲仙岳を挟んだ反対側、橘湾でとれるイリコ、湧水、塩のみでとったピュアなスープ。これにサラシ鯨のような穴熊の肉、春菊、桑田自然農園の自然卵にからし菜オイルが彩りを加える。「粉物」これは吉田シェフのアイデンティティでもあるピエモンテ料理のラヴィオリ、すなわちアニョロッティ・ダル・プリンだ。詰めものは猪と黒キャベツ、発酵させた生姜、なめらかで食べ応えがあり、なによりも布巾に包んで出すピエモンテ風のスタイルに、吉田シェフの郷土料理に対する深い敬意を感じた。「肉」これは生後12ケ月の島原サフォーク子羊。背肉ロースとバラ肉を炭火焼きにし、雲仙こぶ高菜とのらぼう菜がソテーで添えてある。子羊はもちろんのことだが、野菜が実に美味しい。こうしてみると高菜はブロッコリや南イタリアでよく食べるフリアリエッリによく似た味と食感で、イタリア料理の親和性が非常に高い。
吉田シェフのように、子供の頃から慣れ親しんだ地元の味や身近な食材をイタリア料理へと昇華させる。それは四季や季節の食材、風土、食文化に富んだ日本ならではのイタリア料理ではないだろうか。そんな料理に出会いたいがため、飛行機や新幹線、ローカル鉄道やバスを乗り継いで見知らぬ街へ向かう。そんな思いをしても行く価値があるレストラン。それが「ヴィッラ デル ニード」だ。
2024 ITALIAN WEEK 100 発酵の可能性メニュー
リスペクトしてるモリ突き師。彼が素潜りで獲った魚と発酵を合わせ、発酵が前面に出ることなく主役の魚を発酵が生かしきる。このような料理になります。まず、モリで魚の脳天を一発で仕留め、海中でそのまま血抜きと神経締めの処理をされたものです。魚が暴れる工程が極めて少ない処理法だと考えます。狙った大物しか獲らないので、魚の減少にもつながらず、”味” と “環境” の両面からみて優れた彼の魚が今回の主役の食材となります。この魚に合わせるのが、地元で品種改良ではなく、自然変異で生まれたじゃがいも。このじゃがいもを麹と合わせ1年程発酵させたペーストで魚をコーティングし、衣を合わせてフリットにしております。1年ほど経ったじゃがいも麹の糖質が衣と合わさるとフリットでもなく天ぷらでもないような新しい食感が生まれました。横に添えてあるペーストが、乳酸発酵させた早摘みの間引き野菜の漬物。これに人参とクミンヴィネガーを合わせたペースト。乳酸の深みのある薬味としてお使いください。
発酵の可能性に対するシェフの考え
発酵には多岐に渡る可能性があると思います。その中で地方視点で見てみると発酵の重要性はすごく高いと感じています。地方では特に食材以前に生産者と深く向き合うことが重要になります。深く向き合うということは生産者と共に皿を作り上げることになります。好きな食材だけを選ぶのではなく、生産者の負荷も考えながら、余剰が出そうな食材等を積極的に発酵させ、色んな発酵食品を作っています。こういった過程で、新しい味が生まれたり、食材のウィークポイントを発酵の旨みで補ったり、生産者が喜んでくれたり、あらゆる面から見て無理のない自然な美味しさを持った料理が発酵を通して生まれると思っています。”発酵”は料理人にとって、料理の美味しさを生み、地域や生産者とエシカルに深くつながるツールにもなる。発酵の可能性としては魅力ある地方都市を更に沢山生むことにつながるのではないかと。こういった大きな力が発酵の可能性としてあるのではと考えています。
chef profile
吉田 貴文
TAKAFUMI YOSHIDA
1981年長崎県雲仙市国見町生まれ。東京の大学で国際文化を学んでいたが一転して料理人を志す。26歳で渡伊、ピエモンテで経験を積み2015年に「ヴィッラ デル ニード」をオープン。2019年度「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版」にて1ツ星に輝く。
INFORMATION
長崎県雲仙市国見町多比良甲313-2[google MAP🔗]
Tel:0957-73-9713
営業時間:ランチ12:00〜、ディナー 19:00~(ともに一斉スタート)
定休日:火曜日、水曜日