Ventinove
ヴェンティノーヴェ

東京から少年時代を過ごした川場村へ、ヴェンティノーヴェの第二章


群馬の食材を尊重し、極力シンプルな調理法でイタリアを表現する

群馬県北部に位置する川場村。関東屈指の豪雪地帯として知られるこの地には、北にそびえる日本百名山の「武尊山」があり、村名の由来となる薄根川はじめ四本の一級河川が流れ川場温泉など五つの温泉がある自然豊かな村だ。2022年10月この地にイタリア料理店「ヴェンティノーヴェ」を開いた竹内悠介シェフ、舞夫妻はかつて東京西荻窪で「トラットリア29(ヴェンティノーヴェ)」を営んでいたが建物の老朽化に伴い閉店。2020年に竹内シェフは10歳から暮らした川場村に拠点を移し、準備期間を経て新生「ヴェンティノーヴェ」をオープン。1室限定の客室があるオーベルジュとして新しいスタートを切ったのだ。

竹内シェフは東京広尾「アッピア」で5年イタリア料理の基礎を学び2006年渡伊。フィレンツェ「ヴィーノオリオ」での勤務後一度帰国し2007年再びイタリアへ。ボローニャ近郊にある「ダメリーゴ」、マルケ州「ラボッテ」を経て、トスカーナ州パンツァーノ・イン・キャンティにある「チェッキーニ」でダリオ・チェッキーニ氏の元で肉に関するさまざまな経験を積んで2009年に帰国。2011年に「トラットリア29」をオープンした。ちなみにイタリア語の「ヴェンティノーヴェ」とは29を意味するがこれは竹内シェフの料理コンセプトである「肉」に由来する。

新生「ヴェンティノーヴェ」は「トラットリア29」とは異なり、おまかせコース1本のみ。自ら畑で栽培する野菜やハーブ、山に分け入って採取する山菜やきのこなどその日その時の食材を中心にしたメニューは季節感に富んでいる。「カブのスープと豚のツナ かぶ/行者ニンニク/下仁田ポーク」これはカブの冷製スープだが「豚のツナ」とは「チェッキーニ」のスペシャリティである「トンノ・デル・キャンティ」のこと。豚肉に柔らかく火を入れてツナのような食感に仕上げたトスカーナの味だ。「岩魚のタルタル 岩魚/ストラッキーノチーズ/庭のハーブ/金柑」は川場村の清流で育てた岩魚のタルタルに川場チーズのストラッキーノクリーム、岩魚の卵の塩漬け。キンカンのピューレに庭で採れたさまざまなハーブが使われている。

「春の山 山菜/苺」はこの季節を表現した料理で、さまざまな山菜をどのように提供するか試行錯誤の末に辿り着いたという。アカコゴミ、蕗の薹、ウルイ、ハナイカダ、ウド、タラノメ、コゴミ、ハリギリ、ニリンソウ、セリ、ミツバとあらゆる調理法で春の山の恵みを味わう。小さな深めの器で登場したのが「蕗の薹のラビオリ 蕗の薹/庭の摘み草/トマト」。これは蕗の薹をデストロイヤーというジャガイモを詰め物にして手打ち生地で包んでラヴィオリにしてあり、トマトウォーターとヤマドリダケでとったブロードを注ぐ。ミゾソバの香りが鮮烈でこれもまた旬を味わうパスタだ。

そして竹内シェフが最も力を入れている「赤城牛のサーロインのビステッカ」は薪でじっくりと焼き上げてある。非経産で交雑の雌牛を2ヶ月かけて熟成させたもの。最後の2週間は竹内シェフがエイジング用のスペースでドライエイジングして仕上げてある。柔らかく、脂の少ない肉質は非常に旨味が強い。それに竹内シェフが山から取ってきた山ぶどうのソースと、自家製のモスタルダ、モクレンの花のマリネ。ほのかな酸味が赤城牛によくあう。

竹内シェフは特別なことはなにもしないという。それはイタリア料理の根幹である素材を尊重した調理法であり、日本とイタリアに通じる共通概念でもある。食材を突き詰めると田舎暮らしという究極のキーワードに辿り着くのであろう。それは多くの料理人が目標にしこそすれ、実現するのは容易ではない。竹内シェフは自らが育った川場村でその自然を取り入れて他の誰も真似できない独自の料理スタイルを生み出した。新生「ヴェンティノーヴェ」は遠路はるばる足を伸ばしても行く価値がある、今体験すべき一軒である。


chef profile

竹内 悠介
YUSUKE TAKEUCHI



1980年生まれ。調理師学校卒業後、広尾「アッピア」で5年修業、2006年渡伊。フィレンツェ「ヴィーノオリオ」で半年働いたあと一時帰国。2007年再びイタリアへ渡りボローニャ近郊の「ダメリーゴ」、マルケ州「ラボッテ」を経て、パンツァーノ・イン・キャンティにある「チェッキーニ」で経験を積む。2009 年帰国後は弘前の「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」で1年勤務。2011年2月、東京西荻窪に「トラットリア29」をオープン。2020年3月閉店。2022年10月新たに群馬県川場村で「ヴェンティノーヴェ」をオープン。


INFORMATION

群馬県利根郡川場村谷地2593-1[google MAP🔗]
Tel:非公開
E-mail:29nelbosco@gmail.com
営業時間:Wed – Tue: 15:00〜19:00(L.O.)予約のスタート時間は15:00/16:00/17:00/18:00
水、木休
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