テラ イリオモテ
Terra Iriomote
西表島から世界に発信する日本最南端のイタリア料理店











マングローブ、亜熱帯性植物、固有品種、西表島の生態系を反映したイタリア料理
日本国内にイタリア料理店は数あれど、アプローチの難しさならば西表島にある「テラ イリオモテ」を超えるレストランはないだろう。まず西表島に行くには最寄りの空港である石垣空港からバスか車で石垣港へ移動。そこからフェリーで西表島の玄関口である上原港に着く。西表島にタクシーはないので上原港からホテルまでは送迎を利用するかレンタカー移動、ということになるのだ。
しかし「テラ イリオモテ」鄭 彰彦(テイアキヒコ)シェフはそうした地理的ハンデを全く気にしていない、というよりもその困難にあえて挑み、西表島から世界に向けて独自のイタリア料理を発信しているのだ。イタリアにおいては地理的ハンデをストロングポイントに変える、という思想がポピュラーだ。それは車社会のイタリアでは地方にこそ名店が多く、アクセス困難なレストランはその土地でしか食べられない食材や料理に対し「行く価値がある」と考えられているからなのだが、鄭シェフの思想もそれと全く同じである。
学生時代のアルバイトでイタリア料理に目覚めた鄭シェフは11年間の会社員生活の後、2019年に西表島に移住。2022年5月に祖納集落にある「竹富町子午線ふれあい館」を改装し「テラ イリオモテ」をOPENした。レストランの外には「子午線モニュメント」があり、今も毎晩夜空に向けてレーザー光線が発射されている。「テラ イリオモテ」は1日1組限定の完全予約制であり、予約時点から好みの食材などについてゲストとやりとりし、その日限りの特別メニューを組み立てる。西表島を訪れたある日のメニューはこのような内容だった。
まず最初の料理が「最南端の島を囲む海を伝えるサラダ〜ナポレオンフィッシュ・本マグロに海の宝石を添えて〜」で、なんとナポレオンフィッシュが登場。沖縄でヒロサーと呼ばれるナポレオンフィッシュは世界最大のベラであり、昔は食卓に上がるほど親しまれていたという。しかし現在ではほとんど流通することもなく、幻の食材になってしまったと鄭シェフ。フグやヒラメを思わせる肉質で海ぶどうの自然な塩味だけでホンマグロ、トマト、生のモズク、アカゲウリ、リュウキュウヨモギとともにいただく西表島の海を感じる一皿。「西表島名物:カマイ「琉球猪」と軽いリゾット〜1億年変わらない山菜:オオタニワタリ・ホウビカンジュと〜」これもまた西表島ならではの食材を使った料理だ。西表島の猪は他のイノシシと交配していないので小型で、子豚を思わせるような肉質。これに黒米のリゾットと香ばしく焼いた猪の皮。西表島では猪を丸焼きにし、皮=カマイ(皮がうまい)が一番のご馳走だという。これにオオタニワタリとホウビカンジュ(ミヤコゼンマイ)という2種類の山菜。オオタニワタリは西表島のあちこちに見られるシダ科の植物で、古くから食用や薬用として食されてきた歴史がある。これは西表島の山を味わう料理。
「沖縄在来品種:島かぼちゃとシビラン〜石垣産本マグロのカラスミと島豆腐で野菜畑に見立てて〜」は島かぼちゃのソテーにシビラン(アフリカほうれんそう)、サラダ春菊、それから水前寺菜という野菜料理。これに石垣産ホンマグロのカラスミとモリーカ、島豆腐と久米島の味噌を合わせたソース。これは西表島の大地を思わせる滋味深い料理だ。続くパスタ「津本式で仕立てた鯵:ホシカイワリと島らっきょう〜マングローブ香るスパゲッティ〜」は沖縄らしく厚切りにしたアジと島らっきょうのソテーのスパゲッティ。火を入れることで独特の辛味がなくなった島らっきょうはパスタとの相性もいい。メインは「特選石垣牛のタリアータ〜最盛期間近のピーチパインのソース〜」で上質の石垣牛を西表島特産の小型のパイナップル、ピーチパインの甘さと酸味が心地よいソースで食べる。最後のデザート「月桃リッチミルクのジェラート〜祖納産ひとめぼれの米粉チーズケーキとご一緒に〜」がまた素晴らしかった。沖縄に自生する月桃はお茶などにしてよく飲まれているが、このジェラートはジャスミンを思わせる香り。海、山、森、畑、里と西表島の生態系=エコシステムをイタリア料理を通して味わい尽くす、鄭シェフらしいコース料理だった。
自らゲストの送迎も行なう鄭シェフの運転でホテルに帰る道すがら、闇夜を走り抜ける琉球猪の姿が見えた。イリオモテヤマネコはじめ夜行性動物が多い西表島では制限速度40kmなので、車でゆっくり走っているとさまざまな野生動物に出会えるのだ。集落から離れた道すがら車を停め、ふと見上げれば頭上には空を埋め尽くすかのような満天の星。その圧倒的なスケールの星空にしばし呆然と立ち尽くし、西表島の自然の豊かさにあらためて心を打たれた。鄭シェフは日々こんな素晴らしい光景を眺め、他の誰も真似ができない独自のイタリア料理を創り出す。そんな西表島の母なる大自然=マザーネイチャーをイタリア料理を通して体感することができるのが、日本最南端にあるイタリア料理店「テラ イリオモテ」なのだ。
chef profile

鄭 彰彦
AKIHIKO TEI
1985年埼玉県越谷市生まれ。2005年大学生時代のアルバイトでイタリア料理に興味を持ち「ラ・ベットラ ペルトゥッティ」で加藤政行シェフに師事。大学卒業後は会社員として11年間大阪で勤務したのち2019年4月に西表島に移住。2022年5月「テラ イリオモテ」OPEN。
INFORMATION
沖縄県八重山郡竹富町字西表921-2[google MAP🔗]
Tel:0980-85-7711
営業時間:ランチ 11:30〜16:00 ディナー 19:00~21:30
月、日休
➣ 公式WEB