Symposium
シンポジウム
旬の食材を多用した食の饗宴=シンポジウム
イタリア修行時代の経験を移住先の富山で活かす
古代ギリシア時代の哲学者プラトンが書いた「饗宴=シンポシオン」という書物がある。これはソクラテスはじめ友人哲学者たちと寝そべってワインや料理を楽しみながら語り合う対話集だ。のちのローマ時代に引き継がれたこの食習慣の記述シーンは料理史において貴重な証言であり、ラテン語を経てシンポジウムの語源となった。
イタリア帰りの廣野智之シェフは富山に移住し、自らのレストランを「シンポジウム」と名付けた。これは食の喜びをワインと料理を味わいながら語り、楽しむ、そんな願いが込められている。料理は地元生産者の顔が見える農薬不使用旬の地場野菜や地元の肉や魚、無添加調味料を使った季節ごとのコース仕立て。イタリア修行時代にはサルデーニャ島の有名シェフ、ルイジ・ポマータとともに働いたことも現在の料理に大きな影響を与えている。サルデーニャ島はマグロやボラのカラスミなど日本に馴染みの深い食材も多いが、そうした経歴を持つシェフの料理を富山市で味わえるというのも、現在の日本におけるイタリア料理の幅広さ、奥深さをうかがえる一端だ。
2023年に同じ富山市内で現在の場所に移転した「シンポジウム」は薪焼を中心にしており、到着するとすでに道路にまで薪火の心地よい香りが漂っていた。廣野シェフは薪火をおこし、パスタを作り、肉を焼く、そうした一連の料理は非常に手が混んでおり、洗練された最上級のイタリア料理だ。「収穫」というアミューズはスプーンに乗ったごまふぐのサルデーニャ風酢漬け、古代米のチップとごぼうのピューレ、新玉ねぎとリコッタ、八尾町の最中と本マグロのバルサミコ漬け。「スナップエンドウ」は実はスナップエンドウをかたどったラヴィオリで中身は豆腐。キャビアの塩気がよくあう。「ブーケ」これは一口サイズの野菜料理だが、春菊、そら豆、にんじん、コールラビ、ブロッコリーがカリフラワー、山羊のチーズ、リコッタサラータのクリームであえてある。添えられたパルミジャーノクッキーも見目麗しく、少量だがさまざまな野菜を味わった気分になる。
薪で焼いた「ヤングコーン」には自家製の猪のラルドとじゃがいもと山羊のチーズのソース、発酵舞茸のパウダー。こうしたきめ細やかな料理が次から次に登場してくるのだから、驚きだ。「春キャベツ」という料理名ながら、実はメインは黒部市の乳飲み仔山羊の薪焼ので、同じく薪で焼いた春キャベツが添えてある。とてもミルキーで仔羊のような仔山羊の骨つき肉にはサルデーニャの特産であるミルトの甘いソース。「根曲がり竹」これも字面からはわからないが実はサルデーニャの粒状パスタ、フレーグラ。スペルト小麦のような食感のフレーグラに、発酵ブルーベリーとバルサミコを塗って薪で焼いた根曲がり竹、そしてサルデーニャを代表する食材であるカラスミ。時折顔を覗かせるサルデーニャ料理のエッセンスが実に楽しい。「新玉ねぎ」も実は豚料理で、厳選された極上の黒部名水ポーク。子豚の丸焼きポルチェッドゥもサルデーニャの名物料理だが、これは骨つきロースを薪火で焼き上げてある。肉質は水分が多くてしっとり、脂がまた何とも香ばしくて背徳感を覚えるほど。締めは「サンマルツァーノ」だが、当然これも字面通りではなく南砺市のサンマルツァーノをソースに加えたイカスミのスパゲッティだった。
近年薪火を調理の中心にするイタリア料理店の存在感が際立っているが、廣野シェフは調理の原点である薪火=直火調理を求めて一軒家の新生「シンポジウム」に移転したのだ。地方のイタリア料理店では、その土地土地のキラーコンテンツ的存在である食材と向き合うことは避けて通れない永遠の命題だが、廣野シェフは天然の生簀と呼ばれる富山湾の魚介を前面にだすことはあえてしない。白海老、ノドグロ、ブリ、そうした海の美味ももちろんいいがサルデーニャは本来内陸に暮らす羊飼いたちが作り上げてきた山のめぐみを喜ぶ料理でもある。富山湾から立山までわずかな距離で高低差数千メートルの富山の自然を料理に取り込む、そのスケールの大きな料理感を体験しに富山まで足を運ぶ価値がある。
2024 ITALIAN WEEK 100 発酵の可能性メニュー
里山で採れる木なり完熟の甘唐辛子を軸に、地物の食材を発酵、麹菌の力を借り、この土地の風までも素材と捉え味わっていただける一皿を目指す。氷見漁港に揚がる片口いわしを魚醤にし、発酵完熟甘唐辛子を加えソースに仕立てました。パウダーは発酵完熟甘唐辛子。鰆は黒部の湧き水で育つ山羊のヨーグルトのホエーを㏗調整し、ホエー締めにします。生落花生の衣を鰆にまぶし、熾火で片面だけ香りを纏わせながら炙ります。塩味は発酵食品から補い、柔らかい味で全体をまとめています。薪の香りと発酵を通じて富山を五感で感じる一皿です。
発酵の可能性に対するシェフの考え
その土地の風土、湿度、気候、食材に自然に存在する菌が発酵という文化を生んだ。日本という土地は山地から海岸までそれぞれ独自の発酵文化があり、我々日常の中に自然に溶け込んでいます。土地菌による発酵の助けを借りながら、料理人が目指すイメージの幅を広げてくれる、「クチーナ テリトリアーレ(地域料理)」の核ともなる土地・食文化への敬意表現です。廃棄される食材を発酵技術で生かし価値を高め、その土地の食文化と向き合い、廃棄を減らした、人にも自然にも配慮した優しい調理環境に、発酵は大きな可能性を秘めていると考えます。
chef profile
廣野 智之
SATOSHI HIRONO
東京都出身。実家は銭湯。大学受験に失敗し、バックパック一つで食を求めてアジアとヨーロッパを1年間周り、イタリア料理と出会う。フィレンツェで5年間トスカーナ料理と向き合い、その後、土地に深く根付いた料理に魅力を感じマルケ州人口7000人の小さな村で2年半過ごす。サルデーニャ島の島独特の食文化、生活文化を肌で感じながらシェフ Luigi Pomata(ルイジ・ポマータ)のもとで2年半メイン料理を担当。 日本へ戻り富山に移り住む。自身は大の野菜好き。生産者さんと共に選んだ野菜の美味しさを最大限に引き出す料理には定評がある。 実家は今は減りつつある薪窯で湯を沸かす銭湯だった。薪の良さも大変さも身をもって育ってきた。薪窯を使った熾火料理を軸に2023年秋に移転してリニューアルOPEN。
INFORMATION
富山県富山市新根塚町3-5-14[google MAP🔗]
Tel:050-3091-3088
E-mail:symposiumtoyama@gmail.com
営業時間:ディナー 18:00~、または19:00~
定休日:水曜日
※ランチは1名様よりご予約承っております。12:00スタート。
➣ 公式WEB