【パスタの歴史】硬質小麦(2/全9回)

乾燥パスタの歴史の前に、原料となる硬質小麦がいったいどんなものなのかを知っておく必要がある。乾燥パスタとは、ただ乾燥させれば良いというものではない。それに適した素材、麦を使用しなければならない。それが硬質小麦(Triticum durum)である。おもにパンに用いられる軟質小麦(Triticum aestivum)とは化学的性質が異なる。

そもそも麦には多くの種類があるが、一般的には硬質小麦と軟質小麦の二つが代表的なカテゴリーである。現在では、硬質、軟質のどちらにも多くの品種があり、パスタやパンを作るには性質の異なる麦を使い分け、あるいは混ぜ合わせてバランス良く特徴を引き出すのである。ところで、現在の先史時代遺跡の発掘調査では、硬質小麦がいつ頃登場したのかはっきりしていない。ただ、野生種同士の交配が続いた結果、栽培に適したスペルト小麦の一種(Triticum dicoccum)が生まれ、そこから後に硬質小麦(Triticum durum)が生まれた。軟質小麦も同様に野生種同士の交配により生まれた。こうした交配は紀元前数千年前に起こったと推測されている。

軟質小麦はより気温が高く乾燥した気候下では、通常栽培されている土地よりも種実が固くなることがわかっている。だが、固くなっただけでは硬質小麦との差違を埋めることにはならない。硬質小麦は、気温が高く乾燥した気候下で育ち、その殻果(タネ)は全体的に半透明の角質化したガラス質で、軟質小麦に比べてグルテンを多く含む。一方、軟質小麦は温暖で湿度がある環境を好み、殻果はもろいガラス質で、周辺は不透明で、中央部分は粉っぽい。殻果の中にあるグルテンは自身の重量の200%まで水を吸収する性質があり、同じく殻果に内包するほかのたんぱく質類と一緒になって生地に弾力性をもたらす。ちなみに、麦の構造は以下のように3つの部分に分けられる。

  • 表皮(クルスカcrusca ふすま。全重量の14%)大部分は植物繊維であり、またビタミンとミネラルも含む。その中には人間の新陳代謝活動に重要な役割を担うフィチン酸も含まれている。表皮の内側とそのさらに下にあるアリューロン層は麦全体でも最も多くたんぱく質を含んでいる。
  • 胚乳(エンドスペルマendospermaもしくはアルブーメalbume)大部分は炭水化物で、わずかにたんぱく質とビタミン、ミネラルを含む。麦全体にとってのカロリー供給部分である。
  • 胚芽(ジェルメgerme 全重量の1~2%)脂肪とビタミンに富む。

硬質小麦を粉に挽いたものは、セーモラsemolaと呼ばれ、軟質小麦を粉に挽いたものはファリーナfarinaと呼ばれる。それぞれ挽き方が異なり、セーモラは触感がざらざらとして色は黄色を帯び、パスタやクスクス、パンなどに使われる。ファリーナは色は乳白で、触感はよりさらさらと細かく、おもにパン、パスタ、菓子に使われる。

軟質小麦のおもな産地はアメリカ、カナダ、アルゼンチンで、イタリアではファリーナはミネラルの量、灰分量に基づいて等級分け(タイプ2、1、0、00等)が法律で義務づけられている。精製されればされるほどミネラルと灰分量は少なくなる(タイプ00が最も精製度が高い)。

硬質小麦は輸入も多いが、イタリア国内でもおもに南部で栽培している。なかでもクレソ種(Creso)は1974年にカッペッリ種(Cappelli)にX線を照射して変容させて生まれた品種で、イタリア全土で栽培されている品種の90%を占めている。昨今の研究によると、近年イタリアで増えているグルテン・アレルギーの原因の一つである可能性があるともいわれている。