Osteria Sincerita
オステリアシンチェリータ

米沢牛の故郷、置賜盆地の生態系を料理に反映する


新潟から山形・赤湯温泉に活動の場を移した原田誠シェフの第二章

山形県南陽市赤湯温泉にある温泉旅館「山形座 瀧波」に併設した「オステリア・シンチェリータ」は3室限定のオーベルジュだ。「アルバ」「モンテ」「グラーノ」と名付けられた部屋はそれぞれのテーマカラーでまとめられており、専用の温泉風呂が完備されており、温泉を楽しんだあとはメインダイニングで原田誠シェフの料理が堪能できる。「シンチェリータ」とはイタリア語で「誠実」「真心」を意味するが、これは原田シェフの名前「まこと」に由来する料理哲学を象徴している。新潟出身の原田シェフは「イル・リポーゾ」でミシュラン1つ星を獲得したのちに南陽市の豊かな風土に惹かれ、「シンチェリータ」を舞台に新たな挑戦を始めた。

赤湯温泉がある置賜盆地は、2000メートル級の山々に囲まれた地形と隣接するブナの原生林、そして一日の寒暖差が大きい気候条件から上質な野菜や果物、米沢牛などの食材が育まれる恵まれた土地である。「この地の自然が育む素材のポテンシャルを最大限に生かしたい」という原田シェフは地元農家との密接な交流から、その上質な食材をイタリア料理のフィルターを通して「今ここでしか味わえない料理」を創り出す。

まず最初に登場するのが「アッテンツィオーネ イニツィオ4」すなわち「注目 最初の4品」というアミューズ。まずは桜のパウダーをあしらった揚げたてのジャガイモのフリットから始まる。器に見立てているのは置賜盆地を象ったショーケースで、その地形を理解することでこれから続く料理がより深く味わえるという演出だ。コシアブラを包み込んだ鯉のカルパッチョはライムでセビーチェ風に仕立てある。旬のアスパラガスには、マスタードの辛味と酸味を効かせた卵のコントラスト。牛肉とウニの手巻き寿司も山形ならではの食材を組み合わせた一口サイズのフィンガーフードだ。

「モンテ・エ・マーレ=山と海」は、皮目を香ばしく焼いた山形県の県魚であるサクラマスの料理。骨や頭の出汁のジュレ、行者ニンニク、間引きとうもろこし、木の芽、コゴミ、ピゼッリ(グリーンピース)、甘草などの山菜との組み合わせは山形の遅い春の到来を思わせる季節感に富んだ料理。「マッシュルーム」は赤湯の飲泉水とマッシュルームで引いた極上のコンソメで、ポルチーニやあみがさだけを思わせるニュアンスも。もう一品はペーストやグリル、ペースト、生のスライスとさまざま調理法でマッシュルームを味わう。トマトやヴィネガーの酸味が心地よい。

「ノストラーナ=我々の」とは山形県の海と山の食材を組み合わせた炙りキャビアとコシアブラのタリアテッレ。エビ、鶏、牛、ジャガイモや昆布などの旨味を組み合わせたソースはそれぞれの素材の味と香りが際立っており、すだちの香りが清涼感をもたらす。「オマージュ」これは高橋鯉屋のブランド鯉「宵桜」を使った鯉料理。米を主食にしている3歳の鯉はキンキかクロムツを思わせる極上の脂。皮は香ばしくフリットにし、そばのみと自然薯、うるい、うどの食感がアクセント。「堀には鯉を飼え」という上杉鷹山公由来の伝統食だ。「マンツォ ヨネザワ」は米沢牛のフィレ肉のグリル。血の旨みを感じさせる濃密な味わいで、牛のフォンにクミン、ビネガーのソースが肉の持つ力強さに奥行きを加えている。

山菜の時期に「オステリア・シンチェリータ」を訪れたなら、置賜盆地の恵みをふんだんに味わえるはずだ。ローカル・ガストロノミーの世界において、そこでしか味わえない旬の食材を主役にすることは極小的地域料理=クチーナ・ミクロ・テリトリアーレというイタリア料理の根幹に通じるものがある。置賜盆地の自然に惹かれ、今その活躍の場を赤湯温泉に移した原田シェフの料理はまさに今が旬。上質な温泉と共に心ゆくまで堪能したい。


chef profile

原田 誠
MAKOTO HARADA


1973年新潟県三条市生まれ。15年間和食に従事していたが32歳の時「アルポルト」片岡護シェフの元で修業。3年後の2010年三条市に戻り祖父の代から続く食堂を継承。イタリア料理店「イル・リポーゾ」として開業。ミシュランガイド新潟2020特別版で1つ星を獲得するも2021年閉店。2021年に山形県南陽市に移住し「山形座 瀧波」に参加。2023年4月「オステリア シンチェリータ」シェフに就任。


INFORMATION

山形県南陽市赤湯3005[google MAP🔗]
Tel:0238-43-6111
E-mail:info@osteria-sincerita.com
営業時間: ディナー 18:00~22:30
公式WEB