ORIGO
オリゴ

イタリア人シェフが金沢らしさを追求する築130年の古民家レストラン


金沢を選んだマッテオ・アルベルティの新たなる挑戦

金沢市中心部、浅野川に近い一角にマッテオ・アルベルティが営むイタリア料理店「オリゴ」はある。もともと浅野川に着いた船が近江市場へと魚を運ぶ通り沿いにあったことから、この辺りは魚網業が盛んだった。「オリゴ」があるのはやはり魚網業を営んでいた築130年の民家を改装した複合施設で、他に一棟貸しの「ホテル101カナザワ」と「アンゴロカフェ」がある。

マッテオシェフはイタリア中部、ラツィオ州リエティに生まれ、大学卒業後は写真とグラフィックを学びにロンドンに留学。そこで料理に目覚めて方向転換し、イタリアとロンドンを行き来しながらホテルやレストランでキャリアを積んで料理の腕を磨く。11年に渡るロンドン生活のあとは東南アジアをめぐって様々な料理の現場を体験し2018年に来日。しばらくはリエティと姉妹都市関係にある静岡県伊東市に住んでいたが縁あって金沢を訪れると、金沢が持つ日本的空気に心底惚れ込んでしまったのだ。

「当時の金沢は新幹線が開業したばかりで、まだまだとても保守的でした。能登の風景はイタリアの田舎を思い出せてくれましたし、わたしは日本の料理文化に非常に興味があったので住むなら金沢以外にないと思っていました」とマッテオシェフ。2018年に「カーサ」をオープンするも1年後に閉店。2020年4月にコンセプトやスタイルを一新して「オリゴ」をオープンする。「オリゴ」とはラテン語で「起源」を意味する。英語の「Original」の語源であり、それはマッテオシェフが全ての物事の起源=アイデンティティを尊重するゆえに名付けられた店名であり、それはイタリア料理の起源=伝統を尊重するという強い意志の現れである。

イタリア料理の伝統、と言ってもその解釈は人さまざまであり、おそらくは100人のシェフがいれば100通りの解釈があるだろう。しかしマッテオシェフはイタリア生まれの生粋のイタリア人であり、日本という外国にいることでイタリア料理の起源=伝統をより一層強く感じ、アウトプットしようと日夜努力しているのだ。例えば「オリゴ」では極力イタリアの食材を控えて日本の食材に置き換える作業を常にしているが、それは遠方から届く食材よりも、クオリティ的に勝る身近な食材を優先するという選択ゆえである。例えば大好物だというアーティチョークはあえて使用せずにタケノコなど身近な食材を選ぶ。飼育された肉は一切使用せずに地元白山の猟師が獲るイノシシやクマ、シカを使う。

その料理はこんな内容だ。まず最初に七尾の牡蠣にあおさのりをまぶした「牡蠣のフリット」。これには自家製のマヨネーズと海苔を巻いて食べるフィンガーフードだ。七尾産の大ぶりの牡蠣は海の香りで、ナポリのゼッポレを思い出す。「いわしの昆布締め」はイタリアにはない手法だが、日本料理の職人から学び、積極的に取り入れているという。コゴミはじめ山菜も自分で採取したものだ。「タケノコとアカイカ」は薄めに切ったタケノコとアカイカを白味噌とゴマ、アーモンド、わさびであえてある。わさびの花もやはりマッテオシェフが自ら摘んだものだ。

白眉は素焼きの器に乗って登場する「ピッツァ・レントルタ Pizza Rentorta=ねじれたピッツァ」だ。これはラツィオ伝統の家庭料理で本来は家庭料理で、サルシッチャやモッツァレッラなど手元にある材料をピッツァ生地に巻いて渦巻き状に成形して焼いた料理だ。マッテオシェフは生地の中にフキノトウと金沢の職人が作るリコッタを詰めて一口サイズのピッツァにし、富山産ヤギのチーズをすりおろしてある。一口食べるとまごうことないイタリアの味が広がる。「タケノコとアサリ」はアサリのスープとタケノコをあわせ、ウンブリアの友人が作るオリーブオイルでまとめている。「イタリア料理の起源を尊重する」というマッテオシェフらしいもう一つの料理は「フレーグラ」だ。これは本来クスクス状のサルデーニャの伝統的パスタだが、マッテオシェフは自家製のフレーグラに金沢のアマエビでとった出汁で炊き、能登のアスパラガスを添えてある。濃厚な魚介出汁のフレーグラはカリアリの食道の味を思い出させてくれる。

肉料理はサルシッチャ状にしたイノシシを枝に巻き付けて焼き、シソを乗せてかぶりつくスタイル。これは日本のつくねに着想をえたという。鹿肉は16日かけて熟成させてロースト、これに金時草のソテーと使用済みコーヒーと麹のソース。富山のサクラマスは七輪で藁焼きにし、ホエーから作ったソースと春菊のソースをあわせる。そして鮮烈な白川郷のクレソン、全ての料理が食材優先であり、そこにマッテオシェフの解釈によるイタリアらしさ=オリゴが加わる。

マッテオシェフは、自らをシェフではなく職人でありたいという。それは金沢の職人文化に触れ、日本とイタリアの食材の違いについて日々思考を巡らす、食材への探究心ゆえの姿勢ではないだろうか。日本とイタリアは食材を優先するという点において非常に似ているというのは多くのイタリア人シェフが認めるところだが、マッテオシェフは誰よりもその金科玉条を日々実感し、実践している。金沢に足を運ぶ機会があれば一度「オリゴ」の扉を押してマッテオシェフの世界観を体感してみてほしい。


chef profile

マッテオ アルベルティ
Matteo Alberti

1982年、イタリア中部ラツィオ州リエーティ生まれ。大学卒業後写真とグラフィックを学びにロンドンへ渡るも料理の世界へと方向転換。料理学校に通いロンドンのミシュラン星付きレストランやホテルなどで11年経験を積んだあと東南アジアのレストランでも働く。2018年に来日し金沢に「カーサ」オープン。同店閉店後は「ラ・シーヌ」「イヌア」で経験を重ね2020年「オリゴ」オープン。


INFORMATION

石川県金沢市笠市町10-1[google MAP🔗]
Tel:080-1786-3996
E-mail:info@origo.jp
営業時間:ディナー 18:00~22:00
日休
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