ORCHESTRA
オルケストラ

オルケストラ、それは料理が奏でる交響曲

 

名店「サン・ドメニコ」の伝統の味を未来へと伝える

2023年9月参宮橋にオープンした「オルケストラ」はカウンター8席のみのレストラン。どの席からも見えるのは厨房の中央でキビキビと動く小川慎二シェフと、その背後にある炎ゆらめく薪ストーブ。店内には香ばしい薪の香りが漂い、これから登場するであろう美味なる料理への期待が高まる。長崎出身の小川シェフは「長崎ハウステンボス」でフランス料理を経験した後に渡伊。モデナの1つ星「ストラーダファチェンド」ののち、イタリアを代表する名店「リストランテ・サン・ドメニコ」の厨房に入る。同店では5年間勤務し、後半にはスーシェフも務めたキャリアの持ち主だ。

その小川シェフが「オルケストラ」で奏でるのは交響曲に見立てた料理の数々。ピアノをイメージした黒い小箱をそっと開くと、「PROGRAMMA=演目」と書かれた本日のメニューが現れる。序曲となるのは「トルテッリーニ イン ブロード」。エミリア・ロマーニャで過ごした小川シェフの挨拶代わりのスープパスタは焼きあご、生ハム、パルミジャーノでだしを取り、一口サイズの詰め物パスタ、トルテッリーニとともに優しく胃を温めてくれる。アミューズ「お楽しみ5種」はピアノの白鍵と黒鍵に見立てた白と黒の器にキャベツとヒラメ、アワビのフリット、アコヤガイのトルタ、山羊バーガーのジェノヴェーゼ・ソース、生ハムとブリオッシュ。熊本の馬肉はイタリアの魚醤コラトゥーラでマリネしてホワイトアスパガラスと一緒にタルタルに。

北寄貝のカヴァテッリの次はハイライトとなる「ラヴィオーロ リコッタ 法蓮草 卵黄 黒トリュフ」だ。これは「リストランテ・サン・ドメニコ」の代表的料理のひとつで、小川シェフはゲストの前で生地を作り、法蓮草とリコッタ、卵黄を詰め物にしてひとつずつ丁寧に茹でる。直径10センチほどのラヴィオーロ(ラヴィオリの単数系)にフォークを入れると卵黄がとろりと流れ出し、黒トリュフと共に味わう。卵黄とトリュフという黄金の組み合わせに、なめらかなパスタ生地。完成された伝統的パスタに関してはアンタッチャブル。小川シェフのイタリア料理に対するリスペクトがひしひしと伝わってくる。この日のメインはあきる野市のヤギのグリル。滋味深い味わいは春先の子羊を思い出させる上質さ。デザートは軽井沢の太田哲夫シェフがプロデュースするアマゾンカカオを使ったティラミスで、普通のチョコレートとは別次元の香りと味わい。最後に出てきたのは金柑とマスカルポーネを詰めた細いカンノーロ。これをロウソクの火で軽く炙り、シガーのように味わうという遊び心ある演出。

「オルケストラ」の料理は小川シェフのアイデンティティである「リストランテ・サン・ドメニコ」の料理をハイライトとしながらも、脇を固める数々の料理はアイディアや驚き、ユーモアにあふれていてまさにオーケストラの如く重層かつ軽快な交響曲を奏でる。その主役であるのはソリスト兼指揮者である小川シェフ。オープンキッチン形式のカウンター席に座り、薪ストーブの中でゆらめく炎や、小川シェフが鮮やかな手つきで次から次へと料理を準備する姿を見ながら過ごす時間は、美味なる至福のひとときである。

「トルテッリーニ・イン・ダシ Tortellini in Dashi」

僕がイタリアで修行したエミリアロマーニャ。その伝統料理を日本で長崎出身の僕にしかできない料理を作りたい。そんな思いから生まれた料理。イタリアと日本の発酵技術を合わせた一品となっております。お出汁は焼きあご、長ネギ、昆布、パルミジャーノ、生ハム、地鶏のガラで構成されており、こちらをゆっくりと6時間煮込んだものです。イタリアの代表的な食材の一つパルミジャーノチーズやプロシュットも発酵食品のひとつ。そして、日本の発酵食品をつくるのに欠かせない麹を鶏ガラに使っています。長崎五島で飼育されている地鶏しまさざなみのガラを3日塩麹で漬け込み、その後に薪の煙と熱で温燻にします。塩麹に漬け込むことで地鶏の持つ旨みを最大限に引き出し、さらに薪の煙で燻すことによりコクと深みをプラスします。トルテッリーニの中身は地鶏しまさざなみと鹿児島のふくどめ小牧場のサドルバック肩ロース、モルタデッラ、パルミジャーノ、生ハム。イタリアでは牛肉も入るのですが、お出汁をメインで味わって頂きたいので繊細な鶏肉と豚肉の合挽を選択しました。

レストランでは野菜やキノコを1~2週間発酵させてソースなどに使っています。発酵の一番の目的は食材を長期保存させるためかもしれません。ですが、レストランで使う一番の目的は味わいや香りが1段も2段階もアップすることにあると思います。発酵によって食材が微生物により分解され、アミノ酸やイノシン酸、グアニル酸などのうま味成分が生成されます。レストランでは一口、口に入れた瞬間に驚くほど美味しい。このような料理が求められていると考えています。コクや風味をプラスする際にバターや生クリーム、マヨネーズなど味が濃い食材を入れることは簡単です。ですが、世界的にもヘルシー志向の現代では敬遠されがち。ですが、発酵の技術を使うことにより旨みをプラスすることができる。さらには発酵によって乳酸菌やビタミンの生成が行われ免疫力の高まり健康維持にも役立ちます。美味しいものを口にして、健康にもなれるこれ以上ない喜びを与えてくれる。発酵にはそんな力があると思っています。


chef profile

小川 慎二
SHINJI OGAWA

1987年長崎県生まれ。辻学園調理製菓専門学校卒業後「長崎ハウステンボス」にてフランス料理を経験し2012年に渡伊。トラットリアやモデナにあるミシュラン1つ星「リストランテ ストラーダファチェンド」を経て、45年連続ミシュラン2つ星のイタリアを代表する名店「リストランテ・サン・ドメニコ」に5年間勤務。後半はスーシェフを務める。帰国後目黒「リナシメント」のシェフを勤めた後2023年「オルケストラ」シェフに就任。



INFORMATION

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