misola
ミソラ
青と紫の中間のような伝統色は、日本ならではのイタリア料理のメタファー









和食、フランス料理、イタリア料理を経験したい石濱シェフが生み出す近未来のイタリア料理
東京港区南青山の裏通りにある一軒家レストランが「ミソラ」だ。その店名は日本の伝統色である「御空色」に由来する。「御空」とは「空」を上品に呼んだ美称号であり、青と紫の中間のようなその微妙なトーンは日本ならでは情景を思わせる。それは石濱一則シェフの料理コンセプトに通じる「ミソラ」の哲学であもある。
2021年4月「ミソラ」シェフに就任した石濱氏は和食からキャリアをスタートさせた。料理人だった父親の影響で板前の世界に入るが、3年経つとどこかで「違和感」を覚えたといい、フランス料理やイタリア料理に関心を持ち始める。若き石濱シェフのその後のキャリアの転換点となったのが当時浅草にあった「ジャルディーノ」石崎幸雄シェフとの出会いだ。石濱シェフは「ジャルディーノ」と石崎シェフ監修の那須のレストランで合計10年にわたり石崎シェフとともに働いたが、その間に本場イタリアの空気を吸いたいと思うようになったという。
石濱シェフはイタリアへ渡るとメストレやミラーノといったヴェネツィア近郊の街にあるレストランで1年間経験を積む。そこで学んだヴェネツィアの伝統料理であるバッカラのクロケッタやイイダコのラグーは石濱シェフの料理の引き出しに一層の奥深さを与えてくれた。帰国後は都内のフランス料理店で働いたことも大きな経験となった。フランス料理の洗練されたオペレーションやプレゼンテーションに触れ、どうすれば料理が流行るのかを肌で感じたという。
2021年4月「ミソラ」シェフに就任した石濱シェフは「ミソラ」が持つアーティスティックな世界観と調和するよう、しかし主張しすぎない料理を提供している。最初に登場する4種類のアミューズはそれぞれ
「バッカラーのクロケッタ」「小肌のソットアチェート」「スナップエンドウのサラティーナ」「マイクロマルゲリータ」 であり、一口サイズのフィンガーフードスタイルで提供される。
「ホタテのインパデッラ」 は軽くフライパンでソテー=インパデッラし、レモンの果汁のメレンゲの心地よい酸味とサルモリッリオ・ソースであえたカブのスライスの食感が心地よい。「北海道十勝の福田農場 美蘭牛」は、循環型農法で24ケ月飼育した雌牛サーロインの炭火焼。肉料理に関しては牛でも鴨でも鳩でも羊でも、日本産食材を使う場合は付け合わせにイタリア産を選ぶことが多いという。この日は北イタリア、バッサーノ・デル・グラッパの旬の白アスパラガス。これにはゆで卵をヴィネガーであえたクラシックなバッサーノ風ソースだ。肉のソースはスーゴ・ディ・カルメネに刻んだコルニッションで食感と酸味を加えてあるが、フランス料理よりにならないよう赤ワインや多くの材料をソースにくわえることはあえてしないという。
「ガルガーティ」はヴェネト伝統のトルキオという道具で作る押し出し式のパスタで、手打ちだが乾燥パスタのような強い弾力と食感が特徴的。これにはスミごと煮込んだイイダコとイタリアンパセリで作ったオイルが敷いてある。ヴェネツィアのトラットリアでよく食べるような料理に一手間加えた石濱シェフらしい料理だ。緑色が美しい「行者ニンニクのタリオリーニ」はアーリオオーリオの行者ニンニクバージョンとでもいおうか。ヨモギのような香りがする行者ニンニクにハマグリの出汁を加えてパスタにあえてある。石濱シェフのタリオリーニは断面が正方形で、実はキタッラに近いのだがこれは細さや形状の中にも食感を重視して、喉越しの良さを追求したものだ。最後のデザートは「サンブーカのティラミス」。小麦粉ではなくきな粉を使っているが、それだとどうしても和のテイストになるのでサンブーカのリキュールを加えてある。ほろ苦いカフェラテのゼリーもよくあい、石濱シェフのヴェネトの郷土料理に対するリスペクトと探究心を感じさせてくれる。
石濱シェフはこれからの料理では「保存食の可能性」を追求したいという。乾麺や豆、缶詰など、保存性がある食材を中心にすえたレシピ開発を続けているのだが、これはパンデミックなど社会的混乱時にも対応可能な新しいレストランのありかたを模索する試みでもある。「高級で新鮮な食材だけが美味しさの価値ではない」と語る石濱氏。確かにアンチョビやパン、チーズ、トマト缶など、イタリア料理とは本来家庭にある保存食で美味しく作れるようにできている。たとえ限られた食材であっても伝統料理にとどまらず、プロの技術で一段階高みにあるガストロノミーとしてのイタリア料理を生み出す。それはいま石濱シェフが「ミソラ」で目指す近未来のイタリア料理だ。
chef profile

石濱 一則
KAZUNORI ISHIHAMA
1979年栃木県生まれ。那須高原「リストランテ ラ ヴィータ エ ベッラ」で石崎幸雄氏に師事。9年間勤務し後半は副料理長を務める。2011年に渡伊。メストレ「バッカラ ディ ヴィーノ」、ミラーノ「リストランテ ダ フラヴィオ エ ファブリツィオ」で働き2012年に帰国。都内など数店でシェフを務め「ステッソ エ マガーリ シック」を経て2021年4月「ミソラ」シェフに就任。
INFORMATION
東京都港区南青山3丁目10-38[google MAP🔗]
Tel:03-3479-3700
E-mail:info@mi-sola.com
営業時間:ランチ 12:00~14:30(L.0.13:00) ディナー 18:00~22:00(L.O.19:30)
日、月、祝休
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