LA CASA VECCHIA
ラ・カーサ・ヴェッキア

淡路島の自然と共生する一軒家の古民家レストラン


極小的地域料理=クチーナ ミクロ テリトリアーレの実践者

淡路島東岸、釜口の集落から細い坂道を登っていくとやがて「ラ カーサ ヴェッキア」に着く。ITALIAN WEEK 100には地方の食材や文化に根ざし、一軒家レストランを営むシェフも多く参加しているが「ラ カーサ ヴェッキア」米村幸起シェフもまた独特のスタイルを堅持する料理人の一人だ。高台から海が見渡せるロケーションに立つのは昭和初期に建てられたなんとも味のある古民家。「ラ カーサ ヴェッキア」とはイタリア語で「古い家」という意味だが、2008年に夫婦で淡路島に移住した米村シェフはこの古民家に出会い、2013年に移転した。

米村シェフが標榜するのは「Cucina Territorio クチーナ テリトリオ」すなわち地域料理だ。イタリアにはカンパニリズモという言葉がある。これは町にある教会の鐘=カンパーナが聞こえる範囲が世界の全てという郷土愛に満ちた世界観を意味し、料理に置き換えるならば局地的地域料理至上主義、となるだろうか。イタリア料理とは無数の地方料理の集合体だが、ゆえに地方にこそイタリア料理の真実がある。「四季の食材」とは日本やイタリアなどごく僅かの国にのみ許された料理における絶対的アドバンテージであり、圧倒的多数の国々には四季の食材というものは存在しない。米村シェフはそれをさらに押し進めた「二十四節気」を料理のテーマとしている。「クチーナ・ミクロ・テリトリアーレ=極小的地域料理」をさらに細分化した「クチーナ・ミクロ・スタジォナーレ=極小的季節料理」を日々実践しているのだ。

例えば「小暑」の料理はまず「汁物 トウモロコシ」から始まった。これは旬のホワイトコーンを使った冷製スープで、自家製雪姫ポークの生ハムと共に食べる。トウモロコシの甘みと生ハムの塩味のコントラストが暑い日に心地良いのだが、なによりも自家製生ハムがパルマ産の極上プロシュットを思わせる出来栄えで、舌触りも滑らかで脂も上品で甘い。「菜 茄子」は茄子を使った揚げ物=ポルペッティだが、自家製のフレッシュチーズと1ケ月熟成のチーズがたっぷりとすりおろしてある。ポルペッティの中にもチーズ、手作りの淡路島の恵みを味わう。「揚げもの 鱧」これは仮屋漁港で上がった鱧を柔らくフリットにしたもの。衣は軽めで身はねっとり、味付けは塩と、自家製3ケ月熟成チーズでシンプルに。

「手打ち麺 真蛸」は自家製のタリエリーニに真蛸のラグー。人参、タマネギ、レモンゼスト。ところで古民家を改装した「ラ カーサ ヴェッキア」では前菜からパスタまで全て箸で食べるのだが、囲炉裏のある個室に座って食べるには箸がちょうどよく、タリエリーニの長さも食べやすいように調節してある。「肉料理 椚座牛」これは淡路島の椚座牛(くぬぎざぎゅう)のローストで自家栽培している小麦のふすまつけたきゅうりの粕漬け。最後の「甘味 新小麦」は小麦のティラミスで、エスプレッソの代わりに麦茶を染み込ませてあり、カカオの代わりに焦がし小麦のトッピング。いわばデカフェ・ティラミスで甘さもあるが苦味も際立つ大人の味。

米村シェフが目指しているのは100%淡路島産食材を使ったイタリア料理。自らイタリアの軟質小麦「アバーテ」を栽培し、製粉してパンやパスタにして日々の糧とするだけでなく、野菜やブドウも栽培し、生ハムやチーズなどの加工品も手がける。それはイタリアの地方における健全なる農家の形態であり、地面に近い暮らしから生まれる料理は、きっと心に響くメッセージを残してくれるはずだ。

「二十四節気コース「立冬」三皿目」

淡路島には江戸時代から続く「ちょぼ汁」という郷土料理があります。材料はささげ豆、ズイキ、もち粉です。これらは栄養価が高く、体に良いとされ、母親が産後の娘の体力回復の為に作り、その際に集まった親戚やご近所さんに振る舞う習慣があったそうです。移住してきた私達にとって、家族や周りへの想いやりに溢れたこの淡路島の昔の習慣が大好きなので、今となってはあまり耳にしなくなりましたが、その優しさをこの一皿に、私のフィルターを通して表現してみました。 生地には自家栽培の小麦を使った全粒粉にもち粉を加え、ワイン用に育てているシャルドネを醸造する際に出る、ブドウの搾りカスで起こした酵母液でまとめました。 具材にはズイキとささげ豆を使います。ズイキは小麦を製粉する際に出る「ふすま」を使い、10年以上代継ぎしている糠床ならぬ、「ふすま床」に漬け込みました。 ささげ豆は淡路島で作られる米麴と淡路島の海水を使って鉄窯で炊いて作られる塩で、ささげ豆味噌を作り、淡路椚座牛クビ肉のラグーと合わせています。この淡路椚座牛の飼料の藁を焼成する際に使って焼いてもらった皿に盛り付けています。 自家製のフロマージュブランと共に口の中に放り込み、淡路島の発酵を感じて頂けたらと思います。

発酵は私にとって日常であり、思想や学問の様なものではありません。 発酵の可能性がテーマで、その説明を文字にすると特別な事の様に感じるかもしれませんが、発酵ってそんな大そうなことではないと私は思います。 むしろ昔からずっとそばに居てくれて、そしてこれからも共に歩んでくれる友達のようなもの。 土に触れ、パン、生ハム、チーズ、ビネガー、塩麴、味噌など、私の料理には欠かせない食材を日頃から作っているので、 発酵の可能性を特に意識することはありません。 ポコポコと湧いてくる愛らしい泡を見て、 鼻の奥に滑り込んでくる固有の香りを感じて、ただニヤニヤしているだけです。

chef profile

米村 幸起
KOKI YONEMURA

大学卒業後、淡路島の病院で社会福祉士として勤務後渡米、ロサンゼルスで料理人人生をスタートする。帰国後は京都イタリアンの店で修業後2008年に淡路島に移住。当初はトラットリアを営んでいたが2013年に古民家を改装した「ラ カーサ ヴェッキア」OPEN。



INFORMATION

兵庫県淡路市釜口1225[google MAP🔗]
Tel:0799-74-6441
営業時間:ランチ11:30〜14:30(月、木〜日)、ディナー 18:00~22:00(月、水〜土)
定休日:火曜
公式WEB