IZA
イザ

世界の食通たちの間で知られるIZAを目指して


パスタは骨格、そこが崩れると全てが台無しになる

鎌倉駅近くの閑静な一画に看板のないイタリア料理店「イザ」はある。オーナーシェフの芝先康一氏は大阪の出身。その芝先シェフが鎌倉という地を選んだのは若き日の原体験に遡る。19歳でフランス料理の巨匠、三國清三シェフの門をたたき、その後葉山のホテルに勤務。その当時鎌倉に暮らし、相模湾の海産物や三浦野菜の豊かさに触れたのだが、潮風に育まれた野菜たちはまるでイタリアの地中海沿岸を思わせる味わいだったそうだ。その後イタリアに渡りエミリア・ロマーニャ州ピアチェンツァの山奥にある家族経営のレストラン「リストランテ・リーヴァ」などで研鑽を積む。4年後日本に戻るとサローネグループの「イル テアトリーノ ダ サローネ」のシェフを経て独立。七里ヶ浜に「シーヴァ」をオープンし、2021年には鎌倉市内に「イザ」を開店する。

「鎌倉はイタリアに似ている。環境、空気、野菜の味わい、すべてが料理をするのに理想的だった」と語る芝先シェフは、鎌倉は外国人観光客も多く、日本の職人たちが作った器やカトラリーとともに、日本から発信するイタリア料理を世界に届けることができると確信したという。「イザ IZA」という店名は「いざ鎌倉へ」に由来するのだが、海外のレストランのように、短いアルファベット3文字で世界に認知される名前にしたいという思いも込められている。「いつかIZAという名が世界の食通たちの中で知られる存在になればいい」というのが芝先シェフ目指す到達点だ。

「イザ」の料理は芝先シェフの美意識と哲学が込められた13〜14品からなるコース一本。流木に乗った一口サイズの「ウニとグリーンピースのタルト」に始まり、5日間熟成させたマグロの赤身のグリル。表面だけをさっと焼いて蕗の薹とオリーブ、アンチョビで作った地中海ソース、 生ハムとビーツの酢漬け。魚の水分を抜きながら熟成させ、生ハムと合わせて食べるイタリアの山の中の食べ方、いわゆるマーレ・エ・モンテ=海と山だ。「赤エビとヤギのチーズ、ゴールデンキウイのサラダ」にはディルとチコリ、ライムの皮、ホワイトバルサミコのソース。 春のエビはフルーツとヤギのチーズと合わせ、イタリアでよく出していたという。一見斬新な組み合わせに見えてもそこには芝先シェフのイタリアでの体験が込められているのだ。

続いてワンスプーンの料理。これはコロナ禍の頃、パーテーションがあって会話が禁止されていた頃に考案した料理。内容の説明はせず、カウンターに座るゲストに一斉にこのスプーン料理を味わってもらい、最低でも20回は噛んでもらっている間に芝先シェフが内容を説明。その後自由な感想を聞くという、味覚のシェアをテーマにした料理だ。一口サイズのスプーンには上からポルト酒のゼリー、フォワグラのコンフィと煮たアワビ、スモークしたドライイチジクとケッパーベリー、甘く煮た生姜。さまざまな味と香り、食感が重なり合い咀嚼しながら味を探すという高尚なゲームのような料理だ。

「春巻き」の中にはホタテと菜の花、タケノコ、ナポリのサラミのミンチ。さらにマスの卵とマイクロセロリのトッピングでサフランのソースを絡めながら食べる。「子羊のロースト」には付け合わせで揚げた茄子、ミルクチョコレート、松の実、ニンニク。続くパスタはまず「トロフィエ」。伝統的にはジェノヴェーゼ・ソースに加えジャガイモとサヤインゲンが入るが、コース仕立てなので軽くするためにジャガイモはあえて省いてある。次のパスタは「マグロのカラスミとピスタチオのタリアテッレ」でパスタは豚肉とトレビスの出汁で茹でてある。芝先シェフはコースの中にパスタを必ず2品組み込んでいるが、それはトロフィエ・ジェノベーゼやタリオリーニ・ラグーといったクラシックなパスタばかり。

「パスタだけは古典をいじらない。他の皿は自由にアレンジしても、パスタだけは伝統に忠実に、完璧な形で出す。パスタは骨格。そこが崩れると、全てが台無しになる」と語る芝先シェフは郷土料理におけるパスタの選択に一切の妥協がないイタリア人たちの姿勢に衝撃を受けたという。それは奇しくもマッシモ・ボットゥーラが他の料理はどんなにイノベイティブでもパスタだけは絶対に触らない、アンタッチャブルな存在だというのと全く同じである。また芝先シェフは「イタリア料理は安価な料理というイメージが、日本ではまだ根強い。フレンチや寿司と同じように、イタリア料理も正当な評価と価格を得られるようにしたい」というがそれはまさに同感。カジュアルでリーズナブルなイタリア料理から、質と内容を重視したイタリア料理への変革が今日本中で同時発生的に起きているのだから。「外国人のお客様に、日本のイタリア料理を体験してもらいたい。そして、その体験を世界へ持ち帰ってもらいたい」という芝先シェフの目線は常に外国に向けられているようだ。


chef profile

芝先 康一
KOICHI SHIBASAKI

1982年大阪生まれ。2001年調理師学校を卒業後「ミクニ マルノウチ」「葉山ホテル 音羽ノ森」を経て渡伊。2008年エミリア・ロマーニャ州「リストランテ・リーヴァ」で勤務。2012年帰国後「イル テアトリーノ ダ サローネ」のシェフに就任。2016年独立、七里ヶ浜に「リストランテ シーヴァ」をオープン。2021年鎌倉に「IZA」をオープン。


INFORMATION

神奈川県鎌倉市御成町11-13 2F [google MAP🔗]
Tel:0467-81-3791
営業時間:ランチ 12:00~15:30 ディナー 18:00~21:30
月、火、日夜休
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