IL GHIOTTONE
イル・ギオットーネ

2023年度IW100「グランシェフ賞」受賞、笹島保弘シェフの名店


昆布出汁でパスタを茹で、旨味を重視する独自のイタリア料理

イタリアを代表するレストラン・ガイド「ガンベロロッソ」の創設者である故ステファノ・ボニッリ氏はかつて日本のイタリア料理を評してよくこんな言葉を口にしていた。「イタリア料理の世界において、日本はイタリアの21番目の州である」。これはシチリア州やトスカーナ州など、イタリアでは東西南北全20州それぞれの地域ごとの料理が発達しているが、日本は独自の発展を遂げ20州と同格のイタリア料理が食べられる国だ、という意味だった。いみじくもボニッリ氏が口にした金言と、表現こそ違えど全く同じベクトルでイタリア料理に臨んだのが京都「イル・ギオットーネ」笹島保弘オーナーシェフだった。

開業当初から笹島シェフがコンセプトとしたのは「もしイタリアに京都という州があったら?」という壮大かつ興味深い命題で、笹島シェフの料理は全てそのフィルターを通じた回答となっている。例えばイタリアには存在しない京野菜や、出汁、京料理の手法などを取り入れた笹島シェフの料理はイタリアでも大いに話題となり、高く評価された。古い話で恐縮だが2007年1月ミラノで行われた国際料理コンベンション「イデンティタ・ゴローゼ」に笹島シェフが招聘された際、2年熟成させた昆布で出汁をとりパスタを茹でる手法などを、多くのシェフたちが興味深そうに見つめていた様子が昨日のことのように思い出される。現在では旨味=UMAMIという言葉もイタリアでは一般的になったが、それは笹島シェフが持ち込んだものと記憶している。

笹島シェフは2023年ITALIAN WEEK 100で、これまでのイタリア料理への貢献度から「グランシェフ賞」を見事受賞されたが、これまでの自身の料理哲学はもちろんのこと、多くの料理人たちに今も影響を与え続けていることが何よりも素晴らしい。昨年参加店舗を訪ねて日本全国くまなく旅した際、笹島シェフのもとで学んだシェフに多く出会ったし、例え直接学んではいなくとも多くのシェフが料理コンセプトとして「もし自分が住む街や県がイタリアにあったら?を常に考えている」と語ってくれた。それは笹島シェフが20年前に始めたコンセプトであり、その高い理想こそが日本におけるイタリア料理のレベルを高める大きな要因となったことは紛れもない事実である。

また、笹島シェフの料理は常に新しく、驚きに満ちていることも特筆しておきたい。「蓮根 炭」は蓮根にホタテのムースを挟んであげたはさみ揚げのイメージで。腸を活性化する竹炭で漆黒に染まった蓮根は和芥子とニンニクをきかせたバーニャカウダソースで食べる。「パッケリ フグ ポロ葱 ボッタルガ」は極太の筒状パスタ、パッケリの中にふぐと雲子を詰めてあり、自家製のカラスミとネギオイル。パスタの焼き目が香ばしく、つみれのような食感のふぐ、カラスミとともに味わう。京都とイタリアを融合させた笹島シェフの料理の数々は、京都でこそ味わう価値がある。また、法観寺五重の塔脇という素晴らしいロケーションにあることも「イル・ギオットーネ」を夜に訪れる楽しみのひとつである。

「とろとろ豚肉と白菜のお漬けものリゾット 京七味風味」

京都を代表する発酵食品のお漬けものを使ったひと皿。豚肉と相性の良い白菜のお漬物を活用し、米と一体化する漬物の漬け汁の乳酸発酵の旨味だけで仕上げました。そこに日本ならではの調味料である京七味のスパイシーさを添えています。京七味は、香り高さが抜群の京都の老舗「長文屋」の七味を使い、京料理にはなくてはならない七味と山椒のエッセンスを加えています。また同じ発酵食材のパルミジャーノとお漬けものの相性もよく、海外でこの料理を披露した際にはイタリア人にも好評を博しています。 

北欧発の”発酵”が、現在のガストロノミーシーンにおいて世界的トレンドになり、ヨーロッパ各地の料理人も発酵を取り入れたメニューを作るようになっていますが、ご存じの通り古くから日本には全国各地に発酵文化が根付いています。むしろ北欧やヨーロッパよりも世界のトレンドやマーケットをリードしていけるポテンシャルがあると考えています。日本の伝統的な発酵食材は種類も豊富で、日本の料理人はあえて自家製にこだわらずとも、地域の生産者から優れた発酵食材を手に入れることができます。 

今回のテーマ、私が考える「発酵の可能性」は、日本のどの地域にもある、その地域を代表する出来の良い発酵食品を、いかにレストランで上手に活用するかという点にフォーカスしました。地域の優れた食材をレストランで活用すれば消費も上がり、生産者も潤いますし、レストランでは地方色が色濃く出たメニューに仕上がる。それが海外の料理人や海外からのゲストの目に留まって、日本の伝統的な発酵文化が世界に広まるきっかけになったり、生産者にとってビジネスチャンスになればさらに良いことです。レストランの料理人は世界のマーケットに食材をPRすることができる立場にいますので、レストランの周囲の環境、地域の人々に良い循環を起こせるような料理を目指すことに大きな可能性があると考えています。 

私は以前から、京都の優れたお漬物文化を料理に取り入れてきましたが、京都はもともと料理人と生産者が密な関係、持ちつ持たれつの文化があります。例えば「すぐき」のように乳酸発酵したお漬物では、農家さんから漬け汁をいただき、魚や肉を漬けて炭焼きにしたりしています。ただし、発酵食品はヨーロッパのような寒冷な環境とは違い、湿度の高い日本では、扱い方にも注意が必要です。そのため農家さんとの信頼関係が必須です。生産者と料理人が連携して、レストランを中心とした地域をよりよくしていくことを大切に考えています。今回の発酵の可能性のひと皿では、白菜のお漬物(乳酸発酵)と、京都が誇る七味と山椒(スパイス)を組み合わせ、京の伝統食材の素晴らしさをイタリア料理で表現しています。 


chef profile

笹島 保弘
YASUHIRO SASAJIMA

高校卒業後、レストランの世界へ。関西のイタリア料理店数軒で修行後イタリアへ。帰国後、京都「ラヴィータ 宝ヶ池」、「イル パッパラルド」シェフ。38歳で「もし、イタリアに京都があったら」をコンセプトに「イル・ギオットーネ」をオープン。現在、大阪「イル・ギオットーネ・ディ・ピゥ」、「ピアノピアーノ  アル ギオットーネ 」京都「オッフィチーナ・イル・ギオットーネ」を経営する。2023年度ITALIAN WEEK 100「グランシェフ賞」受賞。


INFORMATION

京都府京都市東山区下河原通塔ノ前下ル八坂上町388-1[google MAP🔗]
Tel:075-532-2550
営業時間:ランチ12:00~14:00 ディナー 18:00~20:00
定休日:毎週火曜日・水曜日
※6歳以下のお子様の利用については店舗に直接お問い合わせください。
アラカルトやキッズプレートもご用意できます。
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