星のや沖縄 ダイニング
HOSHINOYA OKINAWA DINING
沖縄文化をイタリア料理へと昇華させた「琉球ガストロノミア〜Bellezza〜」





御膳本草からひもとく琉球料理とイタリア料理の共通項
「星のや沖縄」は那覇空港から車で走ること約1時間強、読谷村の西海岸に立つラグジュアリーリゾートだ。海岸線に沿って約1kmに渡って広がる施設は、沖縄伝統の「グスク=城」に着想を得たグスクウォールで囲まれており、完全なるプライバシーが保たれている。「星のや沖縄」での楽しみ方は何通りもあるが、ハイライトは「星のや沖縄 ダイニング」での琉球ガストロノミー体験だ。
ダイニングは高さ5mの天井が開放的な空間を生み出しており、沖縄の海と白い砂浜を連想させる青と白を基調としつつ、海のすぐ側にありながらも窓を全てオープンにしていないので海の存在を感じながら料理に集中することができる。そこもまた数多のリゾートダイニングとは意識の高さという意味でも異なる点だろう。厨房を預かるのは政井茂総料理長。1967年千葉県に生まれ、日本におけるイタリア料理の興隆をリアルタイムに見守ってきた人物だ。東京のホテルでキャリアをスタートし、星野リゾート入社後は八ヶ岳、トマム、那須のメインダイニング「オットセッテ」をコンセプトから立ち上げ、2021年に「星のや沖縄」総料理長に就任した。
その政井総料理長が現在掲げるコンセプトが「琉球ガストロノミア~Bellezza~」だ。これは琉球王国時代に中国から伝わった「医食同源」の思想にインスピレーションを得て沖縄の食材とイタリア料理を融合させた料理だ。融合、という言葉は時に軽薄にとらえられることがある。マッシモ・ボットゥーラは「文化的背景のない料理=フュージョン料理、とは単なる思いつきであり後世には残らない」というが、政井総料理長は、琉球王府の侍医頭が編纂した沖縄唯一の本草書「御膳本草(ごぜんほんそう)」をひもとき、イタリア料理との共通項を探るという壮大な研究に取り組んで独自の料理体系を完成させた。それは15世紀のイタリアで大司教の料理長を務めた偉人マエストロ・マルティーノにも匹敵する仕事なのである。

政井総料理長が創る最新の「琉球ガストロノミア〜Bellezza〜」夏メニューを紹介しよう。まずは「クスイムン」の小さな前菜。「クスイムン」とは食べ物は薬という意味の沖縄の言葉であり「ヌチグスイ=命の薬」と並んで沖縄の料理文化を理解する上で重要なキーワードだ。沖縄の農具「バーキ」に乗って登場したのは沖縄の県魚グルクンとのマリネとオレンジ、フェンネル、イカスミのチップス。山羊肉と豚肉を合わせたサルシッチャとドラゴンフルーツ、パルミジャーノ。沖縄でナーベラーと呼ばれるヘチマのカポナータ。紅芋とカリフラワーのフリットには生地にピパーツを混ぜてある。「クスイムン」から感じるのはナポリやパレルモといった南イタリアの情景だ。それは沖縄に共通にする青い海と南国のイメージである。



「パイナップルのガスパチョ」これはパイナップルの甘みにきゅうりとレモンを加えて黄色いガスパチョにし、エビとパイナップルのブルスケッタが添えてある。ガスパチョの甘みとブルスケッタの塩味を交互に味わう。「ターンムのニョッキ」ターンムとは田芋のことで琉球時代から行事の際によく食べられてきた縁起物だ。ニョッキにはプロシュートの塩味をうつしたミルクのフォームであえてあり、これにパルミジャーノソースと田芋の皮のチップス、キャビア。田芋のニョッキはジャガイモとは異なる食感でねっとりとして甘く、パルミジャーノのソースによくあう。これは沖縄の赤い大地を感じさせる味。続いてパスタがもう一品「パッション・フルーツとシャコ貝の冷静カッペリーニ」パッションフルーツを器に見立てた冷製パスタはパッションフルーツのピューレと貝の出汁、コラトゥーラであえてあり、歯応えあるシャコ貝がアクセント。暑い夏の日にぴったりの清涼感あふれるパスタ。3品目のパスタが「豚のサルシッチャとトラパネーゼ」で豚肉のサルシッチャラグーにペペローニとズッキーニのジュリエンヌ、トラパネーゼソース、サフラン入りシチリアのチーズにウコンを加えたチュイル。これは政井総料理長が好むシチリアをストレートに感じる料理。




魚料理は沖縄の高級魚「アカマチのヴァポーレ」柔らかくてコラーゲンたっぷりのアカマチの下にはクスクスがしいてあり、魚と鶏をあわせたブロードのスープとともにいただく。クミンの香りと、仕上げにバジリコに熱した胡麻油を注ぐ。これはシチリアの魚介のクスクスのイメージ。「牛フィレ肉 命草のグレモラーダ」これは牛フィレを月桃の葉に包んで焼き上げ、古くから食用や薬用として親しまれた命草=ヌチグサのグレモラーダとトマトソースで味わう。ヌチグサのほろ苦さとトマトの酸味が肉の上品さを引き締めてくれる。デザートは「マンゴーのテリーナ」で熟れすぎていないフレッシュなマンゴー、ピパーツとカルダモンで東南アジアを感じさせる味付け。ありとあらゆる沖縄の食材を硬軟強弱、あらゆる温度とテクスチャーで味合わせてくれる政井総料理長の料理は南イタリアを旅しているような、そんな余韻を残す素晴らしい構成だった。
かつて長寿県として知られた沖縄は近年、その地位が後退しつつあるがそれは欧米的な食生活が浸透したことによるともいわれている。沖縄が誇るクスイムンの伝統に今一度立ち返り、イタリア料理として身も心も健康なる料理へと昇華させる。イタリア料理とは本来「地中海式ダイエット」に代表されるシンプルな食材と最低限の加熱による郷土料理の集合体である。それは沖縄の伝統ともぴたりと一致するのだが言うは易く行うは難し、一朝一夕にできることではない。しかし政井総料理長は長年のキャリアとたゆまむ研究から他の誰もがなし得ない独自のイタリア料理へとたどり着いた。それは「星のや沖縄」でしかできないガストロノミー体験であり、遠方からでも「琉球ガストロノミア〜Bellezza〜」目当てに沖縄を訪れる価値がある料理なのである。
chef profile

政井 茂
SIGERU MASAI
1967年千葉県生まれ。調理師学校卒業後都内のホテルに勤務。「リゾナーレ八ヶ岳」で料理長を長く務めたのち、2021年「星のや沖縄」総料理⻑に就任。
INFORMATION
沖縄県中頭郡読谷村儀間474[google MAP🔗]
Tel:050-3134-8091
E-mail:info_okinawa@hoshinoya.com
営業時間:ディナー 17:00~(宿泊者限定)
➣ 公式WEB
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星のや沖縄のダイニング「琉球ガストロノミア~Bellezza~」では、古くから沖縄に伝わる「食は薬(クスイムン)」の思想を礎に、健やかな美へと導く料理を提供しています。
今回エントリーする一皿は、1000年以上前に沖縄へ伝わった山芋の一種「クーガ芋」を用いた一皿です。読谷村では冬になると山芋の大きさを競う「山芋スーブ」が開かれるなど、クーガ芋をはじめ山芋は暮らしに根付いた食材として親しまれてきました。今回はそのクーガ芋を練り込み、イタリア中部アブルッツォ地方の伝統的な手打ちパスタ「キタッラ」に仕立てました。クーガ芋の力強い粘りと風味は、沖縄そばの麺を彷彿とさせる、もっちりとコシのある食感を生み出します。 合わせるソースには、沖縄料理で親しまれる豚肉の軟骨ソーキを活用しラグーに仕立てます。
アブルッツォ州では肉と言えば羊肉と言われるくらい羊肉文化がありますが、このキタッラも仔羊のラグーが伝統的な組み合わせです。一方沖縄では『豚は鳴き声以外全て食べる』と言われる様に豚食文化が根付いており、その中でも軟骨ソーキは煮込んだ時のとろっとした触感は格別です。羊を豚に置き換えることで沖縄とイタリア二つの食文化の融合を表現できると感じ開発に至りました。 仕上げにピパーツを削りかけ、香りのアクセントを表現しています。
また、私たちは1皿ごとにBellezza(美)の要素を盛り込むことをコンセプトとして取り組んでいます。今回美肌効果のあるクーガ芋の『ジオスゲニン』という栄養素に着目し、内側から美しくなることに思いを込めました。 この一皿は、沖縄の風土と歴史が育んだ食文化にイタリアの伝統的な郷土料理と重ね合わせた“クスイムン”で、これが私たち星のや沖縄の考える「パスタの存在証明」です。