FUCHIGAMI
フチガミ
博多発、四季を味わう旬のガストロノミー















築60年の日本家屋を生かした渕上ワールド
博多の中心部中洲近くにある「FUCHIGAMI フチガミ」シェフ渕上誠剛氏は様々な表現形態で料理を創り出すが、その根底に流れているのは紛れもないイタリア的思考、イタリア料理の精神である。渕上シェフは17歳で料理業界を志し、長年イタリア料理と共に歩んできたキャリアの持ち主だ。2015年に「Da fuchigami」オープン後、それまでの大名から中洲川端に移転して今回が二度目のリニューアル。築60年の日本家屋を生かした空間は1階がオープンキッチンのカウンター席。2階が個室となっている。格子戸をくぐり抜けて1階のカウンターに座るとまず目に飛び込んでくるのが、組子で編まれたイタリア半島の地図。和とイタリアの融合をあらゆるジャンルで模索する渕上シェフからのメッセージだ。
10〜12品からなるコースは季節とともに変わる「OMAKASE おまかせ」と「VEGAN ヴィーガン」の2種類。日本において動物性食材を一切使わないヴィーガンに挑むイタリア料理のシェフ、は決して多くはないが、渕上シェフは九州の伝統食材を用い、精進料理に通じるイノベイティブ・ヴィーガン・イタリアンを提供しているのだ。例えば最初に登場するのは、エゴノリという海藻から作る福岡の郷土料理おきゅうとを使った「福岡 エゴノリ 長崎 自然薯」。おきゅうとに湯葉と自然薯、ゆず白味噌、プーリア産のEXVオイルで香り付けしてあり、新鮮なリコッタ・チーズを食べているかのような味わい。「熊本 トマト 佐賀 三瀬豆腐 長崎 柿」は「希望」をテーマにした料理であり、イタリア料理の象徴であるトマトをコンソメにして泡立てある。お椀の蓋を開けると見えるその泡は朝靄、すなわち地球の息吹であり、夜明け前に抱く希望とイタリア料理への深い敬意を表現している。
「福岡 大豆 甘酒 山形 洋梨」 は洋梨と甘酒のソルベの上に揚げ湯葉、昆布、ハーブオイルのパウダー、オリーブオイルの塩で味を整えてある。「OMAKASE」コースでは三瀬豆腐の代わりに唐津のなかむら牛が、揚げ湯葉の代わりにクエが登場する。メインとなるのは「VEGAN」ではよもぎ風味の生麩にロエロのソース、ガストロバックで味を浸透させた糸島野菜のブーケ、「OMAKASE」では生麩の代わりに唐津のなかむら牛、そして最後のパスタは「VEGAN」が「ジロール茸、下仁田ネギのリングイネ」、「OMAKASE」が「唐津の鮑と北海道の牡蠣を使ったリングイネ」だった。
かつてマッシモ・ボットゥーラがこんな話をしてくれたことがある。「フュージョンとはAとBを組み合わせたらどうなるだろう?という思いつきの料理である。イノベーティブ、クリエイティブ、名称は様々だがイタリア料理人ならば、イタリア料理に着想をえなければ思いつきの料理しか生まれない」と。渕上シェフの料理はイタリア料理の世界観を中心に据えながらも、九州を中心とした日本全国の上質な旬の食材を日本的手法や分子調理的最新技術を用いたり、時にはシンプルなイタリア的味つけで縦横無尽にメニューを構成する。それは一言でいうならばこれまでのキャリアが生み出す懐の深さ、になるだろうか。博多を訪れたなら郷土料理に舌鼓を打つのももちろんいいが「フチガミ」で一夜を過ごせばきっと忘れられない美味なる時間が過ごせるはずだ。
chef profile

渕上 誠剛
SEIGO FUCHIGAMI
17歳で料理業界に入り、2003年に27歳で独立。2013年イタリア・トスカーナにてイタリアワインソムリエ取得。2015年「ミラノ万博」イデンティタゴローゼにてイル・ギオットーネ笹島シェフのアシスタントとしてダビデ・オルダーニとのコラボレーションに参加。またクラウディオ・サドレルと笹島シェフのコラボレーションディナーのアシスタントとしても参加。2015年9月、「Da fuchigami」オープン。中洲に移転して「DA FUCHIGAMI HAKATA」とリニューアル。コロナ禍を経て「FUCHIGAMI」として再スタートを切る。
INFORMATION
福岡県福岡市博多区上川端3-15 [google MAP🔗]
Tel:092-409-3923
営業時間:
ランチ 11:30~14:30、ディナー 17:00~23:30
定休日:日曜日
➣ 公式WEB
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私の住む街博多そしてふるさとの名物にトラフグがありますが、私の店のシグネチャー食材でもあります。トラフグを食す文化を守る為には漁期などの規制などがありますが、それでも現在漁獲量は減少の一途を辿っています。様々な理由が考えられますが温暖化も大変大きな要因の一つです。地球環境と食文化の保全の為にこの食材を使うことに私には大きな意味があります。 無理な漁獲の阻止や、更には文化を守り継続する為には養殖も大切な役割を担います。守るべき食材とその味わいを深め、その食材を昇華させられたらという思いから発酵技術を用い当店のシグネチャーとなる一皿が生まれました。環境を守る為に大きな可能性を秘め進化を続ける発酵技術。大切に守り続けたい食材への思いと技術を繋ぎ、更に日本の国菌を使用し生まれた当店のシグネチャーです。
ラルド
豚の脂を 3 ヶ月間ほど塩とスパイス・乾燥ハーブで漬け込み発酵熟成させます。更に塩麹に漬け込みラルドの塩麹を作ります。
トラフグ
ラルドの塩麹で一晩トラフグを発酵させます。永年継ぎ足しを続けるトラフグのアラやヒレのブロードとラルドの麹を合わせたソミュールでトラフグの身へ減圧浸透させます。 味わいを増したトラフグをローストし、トラフグのブロードとトマトのソースを纏わせ、極薄にスライスしたラルドを乗せ完成します。また味わいの輪郭をつけるセミドライに仕上げたトマトと昆布で作った塩を添え完成させます。未来へ繋ぐ地球環境や文化を守る思いから、故郷を代表する食材(トラフグ)がもつ本来の深い味わいと発酵技術を組み合わせた風土の昇華をテーマにした料理です。
発酵の可能性に対するシェフの考え
発酵はもともと食材を保存するための知恵として世界で始まり、現代に至っては保存目的にとどまらず、その味わいや風味を楽しむものにまで発展しました。 古代・・・生きて行く為には収穫・狩漁するものが安定的でなかったことを考えると、とれた食材を⻑期間蓄えるという意味で発酵は食料の貯蔵技術として、生命の存続のため不可欠なものとして進化したのだと思います。 一方、世界中の多くの国々で十分な食料を確保できる手段を手にした現代では、大きく変化する自然環境や人為的な環境破壊という新たな大きな問題を抱えています。 古来、生き抜く知恵の中で生み出された発酵は、現代では独自の味わいをも楽しむ発展を遂げ、地球環境を守るひとつの技術にまでの役割を担えるようになったのでは感じています。 今を生きる私たちが次世代へ向けて地球環境を守り抜く責任を考える時、食品ロスや過剰 な狩漁を健全的なサイクルにする為に、味わいの可能性を広げていく【発酵技術】は一つの大きな役割を担うことができるのではないかと思います。
2024年度 IW100 アワード
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昨年、パスタワールドカップアジアで優勝という栄誉をいただいて以来、私はこれまで以上に「パスタの可能性」について深く考えるようになりました。 主催者であるBarilla社の発祥地・パルマを訪れ、ボッテガや工場、アカデミーを巡る中で確信したのは――パスタとは、人々の喜びを分かち合うために、無限の表情を見せる魔法のような存在だということです。
私にとってパスタの存在証明とは、私たちが日々手にするあらゆる食材が、一皿を通して喜びや感動を分かち合うことができるということ。 それは、食材との出会い、人との繋がり、そしてその先にある「自然との共鳴」を表現する料理でもあります。
視点を広げれば、それはまさに「地球を味わう」という行為。各国や地域で育まれた食材と文化が、イタリア料理というフィルターを通して一つの皿に結実する――パスタの魔法を感じるようです。 季節の移ろい、味わい、香り、そして美しさや儚さ。
そのすべてを紡ぎながら、イタリアの文化を通じて日本人としてのアイデンティティを表現できるのが、私にとってのパスタです。
今回の一皿「大地への賛歌」は、私のシグネチャーディッシュである《風土の昇華》を原点に、大地そのものの息吹に焦点を当てBarilla SOCリングイネを使用し生まれました。
素材は、福岡の海と大地の宝庫である福津で無農薬野菜を育てる農家でありシェフでもあるイタリア人のシルヴィオさんの畑から。 彼の畑から望む原風景――生命が息づく大地の香り――その美しさをパスタで表現しています。
皿の上には、炭火で焼き切ったチコリーアを敷き、 白ナス、トスカーナナス、ゼブラナス、ナポリナス、紫ナスの5種類をじっくり炭焼きに。 炭火の香りを纏ったナスの実をペーストにし、ニンニクのコンフィ、炭から作り出した香油をソースに仕上げパスタと絡めます。
さらに、ナポリバジルとジェノババジルのオイルソースを軽くまとわせ、最後に薄くスライスしたパンチェッタを添えて完成。 ほとんどの食材をペーストやソースに変えることで料理を見た時はシンプルなパスタ料理に見えますが、ひとたび口に入れるとパスタの持つ芳香な味わいと大地の恵みが響き合い広がるような味わいに仕上げています。香りと味が重なり合う瞬間、目を閉じれば――そこに広がるのは、大地そのものの喜び。そんな味わい深い料理を目指しました。
この一皿には、生産者、料理人、そして食べてくださる方を、イタリアの文化パスタを通じて結ぶ素晴らしい風土を持つ私たちの「喜びの連鎖」を願いを込めています。― それこそが、私が思う“風土の昇華”であり、料理という言語で語る「大地への賛歌」です。

