ITALIAN WEEK100参加店訪問の旅は北海道へ。支笏湖から白老、札幌での取材を終えたあと小樽を経て余市へ向かう。まず訪れたのは「ニッカウヰスキー余市蒸溜所」。ここは創業者である竹鶴政孝が夢を叶えるため、1934年に開いた蒸溜所で、スコットランドでウイスキー作りを学んだ若き日の竹鶴にとって余市は冷涼湿潤な気候と豊かな自然に囲まれており、目指すウイスキー作りに最適な地であった上、仕込み水に欠かせない余市川の清流や、石狩平野から採掘されるピート(泥炭)というの原材料が入手可能であったという理由もあったようだ。2022年には蒸溜所内のキルン塔(第一乾燥塔)はじめ、いくつかの施設が日本におけるウイスキー産業発展における歴史的遺産として認められ、重要文化財に指定されている。

その「ニッカウヰスキー余市蒸溜所」では現在ガイドツアーによる蒸溜所見学は予約制となっている。中世の古い城壁を思わせる正門から中に入ると、乾燥塔や蒸溜棟、混和棟、粉砕・糖化棟、醗酵棟などがならんでおり、いずれも赤い屋根が特徴だ。蒸溜棟の中には、ポットスチルと呼ばれる単式蒸溜器があり、創業当初より変わらない石炭直火製法で蒸溜が行われている。モルトウイスキーの製法は以下の通りだ。

製麦二条大麦を発芽、乾燥させて麦芽を作る
糖化麦芽を粉砕して仕込み水とまぜると、麦芽に含まれる酵素の働きででんぷんが糖分に代わり(糖化)、甘い麦汁となる
醗酵麦汁に酵母を加えると、麦汁の中の糖分がアルコールと炭酸ガスに分解され(アルコール醗酵)もろみとなる
単式蒸溜 もろみをポットスチルと呼ばれる蒸溜器で2回蒸溜すると、アルコール度数が高い無色透明の原酒が生まれる
貯蔵熟成原酒を樽に詰めて熟成させる

まず乾燥塔で発芽した大麦をピート(泥炭)でいぶしながら乾燥させて麦芽を作る。粉砕・糖化塔では麦芽を粉砕してマッシュタンと呼ばれる糖化槽で麦汁を作る。粉砕麦芽に温水を加えて撹拌すると酵素の働きででんぷんが糖分に変わり(糖化)甘い麦汁ができる。醗酵棟では麦汁に酵母を加えて醗酵過程に移る。酵母が麦汁の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解してもろみとなる。もろみは地下パイプを通って蒸溜棟に送られる。蒸溜棟ではポットスチル(単式蒸溜器)で2回蒸溜する。余市蒸溜所では伝統的な石炭直火蒸溜により、力強く重厚なモルトウイスキーが作られる。混和棟では蒸溜後のウイスキー原酒を樽に詰める。熟成を終えたウイスキーを樽から取り出して混和する作業もここで行われる。

造り酒屋で育った竹鶴政孝は、ウイスキーの味と香りに決定的な要因となる酵母と醗酵の重要性を知り抜いており、研究室ではさまざまな酵母株を独自に収集し、培養しながら原酒づくりに生かしていたという。醗酵や熟成という神秘の味を生み出す自然のメカニズムへの限りない敬意と熱意が今も蒸溜所のあちこちにうかがえるのだ。また所内には創業前の1931年に建てられたリタハウスや、余市郊外にあった邸宅を2002年に所内に移築した旧竹鶴邸も保存されている。ツアーの最後にはテイスティングホールで「シングルモルト余市」などの試飲も可能。ディスティラリーショップやレストランはガイドツアーに参加しなくても利用可能なので、余市を訪れた際にはワイナリー巡りもいいが「ニッカウヰスキー余市蒸溜所」にも是非立ち寄ってみてはどうだろうか。


INFORMATION

ニッカウヰスキー余市蒸溜所
北海道余市郡余市町黒川町7-6[google MAP🔗]
Tel:0135-23-3131
公式WEB