cenci
チェンチ
京都随一の必訪イタリアンでサカモト・ワールドに浸る
京都人のアイデンティティを料理に投影
日本におけるイタリア料理の現在到達点を考えてみると、東京はもちろんのこと北から南まで全国津々浦々目覚ましい発展の時期にあるのではないだろうか。とはいえ料理の世界において京都はやはり別格。食材、風土、料理文化、そしてロケーション、誰もがうらやむ豊かな環境で育まれた京都発のイタリア料理は、日本の中でも独自の輝きを放つ。
「チェンチ」坂本健オーナーシェフは、現代京都イタリアンを代表する一人だ。京都に生まれ育った坂本シェフは、名店「イル・ギオットーネ」でシェフを務めたあと2014年12月に「チェンチ」を開店。それまでに培った高い技術や経験を発揮して一躍人気店となったが、ここ数年の躍進と高評価は実にめざましいものがある。イタリア伝統料理を一度分解し、素材や調理法には京都のアイデンティティを加えて再構築。メニューには常にオリジナリティあふれる魅力的な料理が並ぶ。その根底にあるのは「考える」という行為だ。なぜこの料理は生まれたのか、なぜ美味しいのか、なぜこの組み合わせなのか?坂本シェフが行うイタリア料理の再構築は、一度基本に立ち返る行為から始まる。
「チェンチ」のカウンター席に座り、ベトナムのロータスティにレモングラスなどのハーブを加えたオリジナルブレンドの温かいお茶で喉を潤していると、最初にペルシュウが登場した。これは日本唯一のパルマ風生ハム職人ボンダボンの多田昌豊さんが作る極上の国産生ハムで、現地の生ハム職人たちが誇りを込めて呼ぶ「ペルシュウ=プロシュット」という呼び名をそのまま採用している。その口どけの良さ、滑らかさは極上のひとこと。添えられた一口サイズの種子島産蜜芋のフリットと岡山県吉田牧場のリコッタの甘みがアクセントとなり、ペルシュウの旨味を際立たせてくれる。
続く冷たい前菜はさわらで軽く薫香をかけてあり、芯は限りなくレア。これに聖護院かぶらと柿のスライス、麹、鮎の魚醤を合わせてある。最初の温かい料理はじゃがいも、白菜、雲子。キタアカリとインカのめざめという2種類のジャガイモを熱々にフリット、その下には雲子とラヴィオリが隠されておりトッピングは乳酸発酵させた白菜。続いて小さなスキレットに椎茸、トマト、鴨、ピーカンナッツ、ユリ根と豆腐のペーストの組み合わせ。肉厚な北海道の金賞椎茸は一度蒸してから米粉をつけて揚げてあり、亀岡七谷鴨のもも肉とあわせると滋味が増す。
肉料理は福知山産地鶏の低温調理だった。芯はロゼ色を保ちつつも、低温調理により実はジューシーで柔らかく火が通っている。そしてもちろん皮目はぱりぱり。ソースにはネズの実で香りづけしてあり、爽快感が際立つ。そしてメインとして登場したのが牡蠣のスパゲッティだ。貝の出汁をたっぷり吸わせたスパッゲッティに彩り程度にフレッシュトマトを加えて味わいと酸味をプラス。これはナポリあたりで食べるスパゲッティ・ヴォンゴレ=アサリのスパゲッティに用いるマッキアート(染みがついた)という手法だ。そしてソテーした蕪菜と牡蠣のトッピング。
食後には抹茶とともに一口サイズの揚げ菓子が出てきたが、これが店名に由来する「チェンチ」(あるいはキアッキエレ)。本来はカーニバル時期に食べるトスカーナの郷土菓子で、冬になると菓子屋の店先はチェンチで賑わうのだ。またチェンチ本来の意味は「ぼろ切れ」というありがたくない意味もあるのだが、それはアンティーク雑貨や家具、古いものが好きだという坂本シェフも気持ちの現れ。そうした美意識は店の細部にまで宿り、内装も自らが考えて実行し、入り口や中庭など店のあちこちに使われているレンガは、工事の時に出た土を自らが焼いて作った。
カトラリーもヨーロッパで蚤の市で出会いそうなヴィンテージ。どこか落ち着く、まるで昔からあるかのようなくつろげる空気感は坂本シェフの人柄はもちろんのこと、そうした古き良きものが紡ぎ出す独特の暖かみは、イタリアの古いレストランのようにくつろげる空気を生み出している。
2024 ITALIAN WEEK 100 発酵の可能性メニュー
年々資源量が減っている秋刀魚が、今年は少し回復しているようです。しかし、漁期を前倒ししたことや、違う漁場の発見もあり、安心はしていられない状況は変わっていません。こう言った海の現場を伝える意味も含めて、秋刀魚の一皿を用意しました。一番下は、蒸したジャガイモを潰し、片栗粉をつけて揚げています。その上に、夏場提供していた発酵ガスパチョを濾して残った野菜と秋刀魚の肝で作ったのペースト、そして、炭火で炙った秋刀魚。その上に、岡山吉田牧場さんのフレッシュに、乳酸発酵させた白菜、コリアンダー、アーモンドを混ぜ込んで作ったソース。一番上に、輪島上田農園さんのひも唐辛子のピクルス。流しているスープは、鶏節と昆布で引いた出汁に、先の秋刀魚の肝ソースに使ったのと同じ発酵ガスパチョを濾したできた液体を加えて、最後にレモングラスを香りづけした、酸味と旨味のあるスープです。秋刀魚とジャガイモの油脂感を発酵野菜からとったスープの酸味が爽やかに流してくれる一皿です。
発酵の可能性に対するシェフの考え
まず味と言う点で、京都で生まれ育った私にとって、日々の食生活自体が発酵食品とともにありました。そしてその大半が、麹菌由来のものです。ですので、私が料理の中に、例えば米麹からくる旨味や甘みを使う事は自然で、それにより、身体に馴染む味わいになると考えています。そしてもうひとつ、日頃から自然の恵みを頂いて、レストランを営んでいる中で、野菜の成長に、僕たちの日々が追いつかない時もあります。こういった時にも、先人の知恵である、発酵させて保存するという技が生きてきます。そして、この保存食は、お店によって味の違いができ、料理に個性が生まれます。 個性を追わずとも、自ずと違いが生まれる。これこそが発酵の面白いところだと考えています。
chef profile
坂本 健
KEN SAKAMOTO
1975年、京都生まれ。 大学在学中に欧州旅行の際にイタリア料理の美味しさに出会い、料理人の道へ。 伝説の名店「イル・パッパラルド」で3年半務める。笹島保弘シェフの独立に伴い、2002年に「イル・ギオットーネ」に移籍。京都イタリアンの流れを汲んで独立、京都に「チェンチ」開業。2022年版「アジアのベストレストラン50」から3年連続ランクイン。2023年度版においては20位へと躍進した。
INFORMATION
京都府京都市左京区聖護院円頓美町44-7 [google MAP🔗]
Tel:075-708-5307
E-mail:cenci.kyoto@gmail.com
営業時間:ランチ 12:00~15:00(L.O. 12:30)ディナー 18:00~21:30(L.O. 19:00)
定休日:月曜日、火曜日
※香水はお控えください
※スマートカジュアル
➣ 公式WEB