antica locanda MIYAMOTO
アンティカ ロカンダ ミヤモト

料理人一家に生まれた熊本あか牛の伝道師

薪火で焼いた熟成経産あか牛との美味なる邂逅

「アンティカ ロカンダ ミヤモト」は熊本市中心部からやや離れた由緒ある住宅街「新屋敷」にある。石を多用した外観はそのイタリアにある古い料理旅館のようで、内部には地元熊本芦北産の杉や美里町産の石材を多用してあり、なによりも窓から見える緑あふれる中庭が素晴らしい。聞けばこれは細川家が愛した庭園の一部で、明治初期の石灯籠や藪があえて手付かずのまま残されてある。古いと言う意味の「アンティカ」を名乗る店はイタリアには多く、先祖代々何代目とか、創業何百年という店に多い屋号なのだが「アンティカ ロカンダ ミヤモト」は正真正銘、「アンティカ」を名乗るにふさわしい熊本屈指のイタリア料理店だ。

オーナーシェフ、宮本健真氏は料理人一家に生まれ育った。曽祖父は肉屋と旅館を経営、祖母はその旅館の板場に立ち、父は東京での料理修行から戻り、夫婦で「イタリー亭」を開業し、イタリア料理と山鹿牛ステーキを看板メニューとした。そんな環境に生まれ育った宮本シェフが19歳でイタリアを目指したのも実に自然な流れだろう。当時一世を風靡した名店「テンダ・ロッサ」などで修行後帰国。両親の「イタリー亭」で働いたあと熊本市内に「リストランテ ミヤモト」を開いた。地元の食材、特に熊本さん牛肉を使った宮本シェフの料理は瞬く間に話題となり「食の大地・くまもと」親善大使はじめ多くの役職を歴任し受賞歴も多数。熊本を代表する料理人として道を歩み出したのだが、この十年というもの九州北部豪雨、熊本地震、熊本豪雨と度重なる災害に見舞われてきたことはまだ記憶に新しい。熊本地震で意気消沈していたと言う宮本シェフだが、地震や豪雨があってもやがて復活する熊本の雄大な自然と力強さに感動。心機一転「アンティカ ロカンダ ミヤモト」をオープンし、自然への敬意を込めてプリミティブな調理法「炎」をテーマにリスタートしたのだ。

宮本シェフが力を入れているのは曽祖父依頼DNAに受け継がれてきたあか牛を中心としたさまざまな肉料理だ。最初に登場するのは香り高く、味わい深いシャルキュトリーの数々。豚のコッパ、白黴のサラミ、自家製のラルドとソーセージ。一転して次の料理はコンソメのジュレの下に赤牛のハツ、ウチブリ、カブリに加え地鶏とキノコでタルタル状にしてある。一年半前に仕込んだクラテッロ(豚腿肉の生ハム)は熱々のトラフグのフリットの上に、ふんわりと乗せてある。キノコとトラフグのスープにはサルシッチャと白菜。メインは滋賀の名店サカエヤの熟成経産牛で、再肥育していないので肉質はあくまで柔らかく滑らか。宮本シェフはこれを薪火で焼く。なによりも芳香が素晴らしく、周囲は高温でカリッと焼き上がり中はロゼ色でしっとり、しかし肉質はしっかりと食べ応えがある。そして締めは鹿の骨から取ったブロードのスープパスタ。豊穣なる熊本の肉文化をあらゆる方向から味わい尽くしたという満足感と達成感に満たされること必至。遠出しても体験しに行く価値がある、熊本の伝統を踏襲したイタリア料理店それが「アンティカ ロカンダ ミヤモト」だ。

「阿蘇・千年の草原が織りなすビステッカ」

私の代名詞である熊本固有品種「あか牛」は大学や生産者と共に放牧肥育の研究に永年、取り組ん でいます。 そのビステッカを通じて、阿蘇の希少な植物・在来野菜など「千年の草原」が育む食材を存分に体 感して頂けるよう工夫しました。 まず、阿蘇特有の希少植物「アソノコギリソウ」を酵素シロップに仕立て、阿蘇のハーブや果物を 混ぜ「飲む発酵サラダ」を作りました。あか牛を食する前に阿蘇の草原の「風景」と「風」を感じ て頂きます。

次に「あか牛」の熟成。あか牛は生産者から滋賀の精肉店「サカエヤ」に送られ、熟成を経て、戻 ってきます。それから当店の冷蔵庫で水分調整をしたり、熟成庫で香りをつけたり、肉の旨味をア ップさせたりと熟成の仕上げをし、だいたい 20日から 30日経って食べ頃を迎え、薪の炎で焼きます。その横に千年前から存在する伝統野菜「阿蘇高菜」の 3 年熟成の古漬けと草を発酵させた肥料で育 てられた野菜のサルサ・ヴェルデと高菜の種を発酵させて作った「モスタルダ」も添えました。

さらに、端肉を塩漬け・乾燥後、塩と混ぜて薪の煙で燻した「肉塩」も添えました。塩は有明海の 海塩です。阿蘇で生まれた水は有明海に流れていくという、料理としてのストーリーも大切にしつ つ、ほぼ全ての食材が阿蘇産という熊本に来ないと味わえない発酵料理となりました。

「発酵」に対する考え 発酵は古えから人類の食文化に深く関わってきた重要な技術です。発酵を用いた調理は、その土地 や使う食材に自然に存在する菌を活かして進化してきました。

発酵という行為は単なる調理過程を超えて、その地域の食文化に根ざすものでなければならないと 考えます。「熊本」という「テロワール」を大切にしてきた私にとって、地域の食文化に敬意を払わず「発酵」 調理をおこなうことは、その過程を経ただけの「空虚」の料理になりかねないのではないかと危惧 しました。

発酵技術は私たちの祖先から受け継いだ大切な「記憶」と「経験」に基づくものです。 私の場合、日本書紀にも登場し、今日では日本からほとんど姿を消した「草原」を巨大な形で有し 続けている日本の「里山」の原風景のような場所である「阿蘇」の食文化を見直し、阿蘇高菜など の在来種や風土・自然に由来する食材などの地域に眠る「足元の宝」を活用することにこそ、重要 と感じています。それはイタリア料理の根本的なフィロソフィーにも合致するものと思います。 このように地域の状況に応じて「発酵」を行うことは、ローカルガストロノミーを担うレストランにおける発酵の未来や可能性を切り開くのではないかと思います。


chef profile

宮本 健真
KENSHIN MIYAMOTO

1975年熊本県山鹿市に生まれ、19歳で渡伊。「テンダ・ロッサ」「シリオラ」「ヴィッラ・ロンカッリ」などで修行後27歳で帰国。実家のイタリア料理店「イタリー亭」で働く。31歳で「リストランテ・ミヤモト」開店。「食の大地・くまもと」親善大使、農林水産省「料理マスターズ」シルバー賞など受賞歴多数。地元熊本の食について積極的に発信する第一人者でもある。


INFORMATION

熊本県熊本市中央区新屋敷1-9-15 濫觴[google MAP🔗]
Tel:096-342-4469
営業時間:ランチ11:30〜13:00(木〜日のみ)、ディナー18:00〜22:00、ショップ10:00〜18:30
定休日:月曜
公式WEB