灯りの食邸 KOKAJIYA
アカリノショクテイ コカジヤ
新潟発、2023年度IW100「ベストローカル賞」受賞店












古民家をイタリア料理店に再生し、故郷に灯りを灯す
近年新潟ではワイナリーや、オーベルジュが相次いで誕生するなど注目のガストロノミー・デスティネーションとして注目されているが、新潟市中心部から南西へ約25km、岩室温泉の中心部にある築150年の古民家レストラン「灯りの食邸 KOKAJIYA」は新潟を代表するイタリア料理店だ。
その名の通りこの古民家はかつては「小鍛冶屋」と呼ばれており、それは本家である温泉旅館がかつて鍛冶屋であったことに由来する。しかし時代とともに「小鍛冶屋」に暮らす人はいなくなった。「灯りの食邸 KOKAJIYA」は郷土の記憶を未来に伝えるべく、古民家をイタリア料理店として再生した志あるプロジェクトなのだ。「灯りの食邸」とは、一度失われてしまった灯りの再生への願いが込められている。灯りとは人の暮らしのシンボルであり、安らぎと休息の象徴。「灯りの食邸 KOKAJIYA」はイタリア料理を通じて人々の心にそんな灯をともすことを信条としている。
シェフはバーテンダー出身の熊倉誠之助氏。近年バーカルチャーと料理、ガストロノミーの世界は切っても切り離せない存在となりつつあるが、その象徴的存在が熊倉シェフなのかもしれない。岩室温泉周辺は食材の宝庫で、白ナス、ゴボウ、大根などの野菜やハーブ、蜂蜜、キノコ、スイカや無花果、苺などの果物の産地だ。日本海までもわずかな距離であることから魚介類が豊富なことはもちろん、伝統的な猟法で捕るジビエ類もメニューに登場する。
イタリアでの修行経験はないという熊倉シェフだが、それゆえに従来の既成概念にとらわれない、新しい発想のイタリア料理を生み出せるのではないだろうか。イタリア修行経験がないからこそ郷土の食文化を探求し、独自のイタリア料理を作り上げる。熊倉シェフは切り干し大根はじめ西蒲区を代表する干し野菜からとったエキスは常時十種類以上常備し、狩猟肉の端材を集めて塩麹で発酵させた肉醤油も自ら作る。新潟は海も山もあり、南北に長いので食文化も多様。そうしたところがイタリアと似ているので料理の親和性もあると思う、ともいうがこれは奇しくも90年代イタリアを代表するシェフ、ジャンフランコ・ヴィッサーニが言った「イタリアにはイタリア料理という名の料理は存在しない。あるのは無数の地域料理=クチーナ・テリトリアーレのみだ」という名言とぴたりと一致する。風土も気候も食材も異なる地域で生まれ食べ継がれてきた料理には必ずその意味がある、という金言だ。
熊倉シェフは新たな地域再生プロジェクトも複数手がけており、古民家を再生した焼鳥店「岩室 とり蔦」や一棟貸切りの宿「岩室久元」も岩室温泉内にオープン。地域活性化に大いに貢献している。生まれ故郷全体の再生まで視野に入れたシェフは日本広しといえどそう多くはない。今や新潟のみならず日本を代表するローカルガストロノミーの旗手となりつつある熊倉シェフの精力的な活動は、今後も注目に値する。2023年度ITALIAN WEEK 100「ベストローカル賞」受賞。
chef profile

熊倉 誠之助
SEINOSUKE KUMAKURA
沖縄にてバーテンダーとしてキャリアをスタートし、日本バーテンダー協会主催のカクテルコンペティションにて数々入賞。独学で料理を学び新潟へ帰省。 ケータリングシェフを経て、2013年、築150年の古民家を利用し「灯りの食邸 KOKAJIYA」を開業。近年では隣接する空き家を利活用し、焼鳥店「岩室 とり蔦」や一棟貸切りの宿「岩室久元」を開業するなど、温泉街の活性化に貢献している。 発酵や乾物など、土地の食文化を取り入れながら、狩猟シーズンには自ら獲ったカモやキジなどをジビエとして提供している。 ミシュランガイド新潟2020特別版、ゴ・エ・ミヨ2023、2024掲載。2023年度ITALIAN WEEK 100「ベストローカル賞」受賞。
INFORMATION
新潟県新潟市西蒲区岩室温泉666[google MAP🔗]
Tel:0256-78-8781
E-mail:recep@kokajiya.com
営業時間:ランチ 12:00~ ディナー 18:00~
定休日:不定休
※ランチ、ディナーとも一斉スタート
➣ 公式WEB
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冬田=稲刈りを終えたあと、暫くあった稲孫(ひつじ)も枯れ、切株も黒ずんで荒涼とした景観。やがて雪に覆われて冬本番を迎える前の霜が降り立つ冬の田んぼ。俳句季語。米の収穫を終えた農家は、大雪が積もる冬に備える。越後平野に降り立つ野鴨を獲り、雪が積もる前に掘った大根などの冬野菜を寒風で干すのだ。そしてそれは厳しい冬の貴重な食糧となり、農家の家ではその蓄えで温かい冬のご馳走を作る。そこから生まれた郷土料理である冬田煮は、未来でも変わらず食の営みとして地域に残り続ける。
これは鴨汁や干し野菜の食文化などを融合させ、古代米の米粉と地場の小麦を使用したオリジナルパスタを合わせた架空の郷土料理として考えたものです。
シェフが考えるパスタ未来形
コロナ禍を経て、レストランの持続可能性を問われる時代となり、これからもこのワードが付きまとうであろう。持続可能性とは何かと考えると、「より自然なカタチ」でなければならないのではと思う。 足元にある素材で、その土地にしかできないものを作る。 イタリアの地方料理の枠を超えて、世界の、日本の、新潟で生み出されるパスタは、その土地の食文化をアップデートした郷土料理=未来のパスタであろうと考えた。
2023年度 IW100 アワード
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新潟は海が近く、塩がたくさんあったため塩漬けをするという、長い冬の間の保存食として生まれたものが、気温の低い時期に長期保存することで、結果としてゆっくりと発酵していき、発酵文化が形成されてきました。すぐ近くの角田浜地域では、鰯を塩漬けにして発酵させた「しょっから鰯」という和製アンチョビがあります。春に海岸で揚る新鮮な鰯を漬け込み、初冬まで発酵させて完成するしょっから鰯に、近隣で栽培が盛んな大根を1ヶ月ほど漬け込んだ「なまぐさこうこ」など、厳しい新潟の冬を乗り越える古くからの保存食があります。
この「しょっから鰯」と「なまぐさこうこ」を使い、土地の考え方を活かし発酵エキスに漬け込んだ野菜の皮や廃棄野菜などで作った発酵ブロードなど、フードロスの観点から廃棄野菜なども利用し発酵の可能性をレストランの料理として考えてみました。ファゴッティーニの中にはしょっから鰯とじゃがいものペースト、松の実や卵黄を入れ、なまぐさこうこの中にはリコッタチーズと鶏のペーストを入れて包み、表面には川魚の内蔵で作った少し苦味のある魚醤を塗って炙ってあります。
そして鰯の発酵エキスに漬け込んで発酵させた野菜と鶏のブロードをソースにしたもの、日本海の海水と野菜の絞り汁で結晶化させた塩をまぶした干し大根のチップス、仕上げに柑橘のオイルで発酵の酸味に爽やかさを加えました。そして同じく新潟の発酵文化の代表でもある日本酒をペアリングとして合わせます。日本海の恵と、この土地で暮らしてきた先人の生きる知恵をこの地で吸収し、表現した発酵の一品となります。
発酵の可能性に対するシェフの考え
人はその土地に合った発酵食を作り伝えてきました。発酵食とは、足元にあるの自然から生まれる、人類との共生の産物ではないかと思います。元来保存食という視点から伝えられてきた発酵食は、時代を経て地域の食文化というワードへと変化し、更にはレストランの料理に取り入れられています。ただ素材を発酵させて旨みを取り入れるだけの料理は、流行りというワードに流されていくのではと思っています。先人に敬意を払い、今一度この日本における食文化にも目を向けることが大切ではないでしょうか。また、ただ伝統や文化を守ることだけでなく、更にはフードロスという問題が目の前にある現代において、これらの問題にも切り込んでいける革新としての発酵料理が、この先の自然との共生、未来の食文化形成を担ってくれるのではないでしょうか。そして今この時代を生きている料理人にとって、一つの使命ではないかとも考えています。
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この土地で根差してきた食文化を大切にしてきた。冬の新潟の寒風で干す乾物、厳しい冬を乗り越えるための塩蔵と発酵。これらを改めて見直し、パスタに取り入れていく。歳を重ねるごとに、地域の食文化や素材との向き合い方、レストランの料理へ昇華させる時の考え方が変わってきた。
食べてもらいたいものを主役にし、シンプルに仕上げる。
長年作ってきた手打ちパスタのレシピは、気候風土に合わせて水分量を調整しもはや名前もない。ただお客様に召し上がっていただく直前で伸ばし、フレッシュな食感と香りを味わってもらう。
そこに合わせるのは、その季節の素材から取れる出汁のようなエキス。天然キノコを乾燥させ丁寧にとったコンソメと、キノコを発酵させた発酵液をアクセントにし、打ち立てのパスタに吸わせていく。あくまでも主役(麺)を引き立てるために見た目はシンプルに。春採取して保存しておいた山椒の実をアクセントに添えて。