あらゆる料理がイノベイティブになればなるほどその境界線は曖昧になり、今や国境を越えたあらゆる食材や料理文化がクロスオーバーする日本におけるイタリア料理とは果たして何なのでしょうか?この3年間、Italian Week 100の活動を通じて日本各地で活躍するシェフにの元に伺い、その素晴らしい料理を口にするたびに以前から抱いていた仮説は、次第に確信へと変わって行きました。すなわちパスタこそが日本におけるイタリア料理の存在証明であると。
「オステリア・フランチェスカーナ」のシェフ、マッシモ・ボットゥーラは常々こう発言しています。「AとBを組み合わせて作っただけの料理は単なる思いつきの料理であってイタリア料理ではない。イタリア料理とは伝統に根ざし、そこにシェフの哲学や思想を加えてこそ新しいイタリア料理となるのである」。この言葉はイタリア料理界における金言のひとつであり、またこの場合の「イタリア料理」とはすなわち「パスタ」という言葉にも置き換えられると思います。
いうまでもなくパスタとはイタリア全土津々浦々、各町にそれぞれ独自のパスタが存在すると言っても過言ではなく、その生い立ちから発展まで歴史、風土、文化を色濃く反映した存在です。南北に長い国土が生み出す、季節の食材を使用した料理=パスタとはイタリア料理の根幹を成す存在であり、そうした季節の食材を使用したパスタとは世界広しといえどもイタリアと日本でのみなしえる料理なのではないでしょうか。
2025年度統一テーマ「パスタの存在証明」とはすなわちシェフの皆様自身の存在証明であります。ご自身の生い立ちや経験、思想、哲学を反映したパスタこそが人の心を打つ、真の意味でのシグネチャーパスタとなるのではないでしょうか。ご自身の存在を色濃く打ち出したパスタをご披露していただくことは、必ずや多くのイタリア料理ファンの心に響く、日本ならではのイタリア料理の存在証明となる、そう確信しております。
2023年度「パスタ未来形」、2024年度「発酵の可能性」を通じて日本全国100人のシェフに発表していただいた多くの料理=パスタはどれも地域性や風土、歴史を反映した素晴らしい料理であり、それは日本におけるイタリア料理のレベルの高さを証明するものであると多方面から多くの賞賛の声をいただきました。それは全てこれまでItalian Week 100に参加していただいたシェフの皆様のおかげであり、ここで今一度事務局を代表して心よりお礼を申し上げたいと思います。
2025年8月 Italian Week 100 ディレクター 池田匡克