fish taverna sambo
フィッシュ タヴェルナ サンボ

自ら漁をした魚で作る究極のカルパッチョ


漁師の家に生まれ、宮古島で夢を叶える

沖縄本島と石垣島の中間に位置する宮古島は、透明度が高くミヤコブルーと呼ばれる美しい海=ちゅらうみに囲まれた島だ。その宮古島に実に個性的なレストランがある。桑田登シェフが2011年に始めた「フィッシュ タヴェルナ サンボ」はその名の通り魚介類が素晴らしいレストランだ。

岩手県久慈市に生まれた桑田シェフは漁師である父の背中を見て育ち、漁師を志すも反対されて故郷を離れる。選んだ先は宮古島。幼い頃から海と生物、特に魚が大好きで移住当初はダイビングインストラクターもしていたが魚を独学で捌き続け、ついに自分でレストランを始めたのだ。桑田シェフは「釣り好きな料理人」というレベルではない。漁業権と一級船舶の資格を持ち、自ら電灯潜り漁や釣りで魚介を獲りにでかけるプロの漁師だ。幼い頃に夢見た漁師になる夢を故郷から2000km以上離れた宮古島で叶え、自ら獲り、捌いた魚でゲストを喜ばす。

宮古島に夕闇が訪れた頃「フィッシュ タヴェルナ サンボ」のテーブルに着くと、「宮古島の食材を使っています」と黒板に手書きされたその日のメニューにまずひかれる。「ティラジャ、キハダマグロ、エラブウミヘビ、ヒブダイ、ヒメクエダイ、ワニゴチ、キツネブダイ、ハクテンハタ、ホウライヒメジ、クサビベラ、トガリエビス、タカサゴ、ワモンダコ、セーイカ、シマアオダイ、ヘビ貝・・・」これはアラカルトではなくコースで登場するその日の魚の一例である。ティラジャ(コマ貝)と発酵島瓜、レモンマートルに驚き、イラブー(エラブウミヘビ)とヤブニッケイの上品なスープで胃が開かれる。ハリセンボンの串に刺した赤身のカプレーゼ、骨髄、白子のソースとキハダマグロ尽くしの一皿にため息をつき、自家製の内子のボッタルガを添えたノコギリガザミのニョッキの素晴らしさは忘れ難い。島野菜のサラダ、軽く火を入れた夜光貝、そしてハイライトのカルパッチョ。

桑田シェフが「この子たち」と呼ぶ自ら獲った魚を神経締めや血抜きなどそれぞれ最適な方法で下処理。マングローブジャック、コクハンアラ、アウキャー、センネンダイ、ナンヨウブダイ、イロブダイ、キハダマグロ、カツオなどもちろん日によって魚は異なるがそれぞれにあったオイルと島ハーブなどのトッピングで食べさせてくれるのだからたまらない。そして塩までも宮古島の海水から作った自家製。おそらく日本一のカルパッチョではないだろうか。最後はミーバイやトガリエビスといった白身の高級魚を丸ごとアクアパッツァにし、残ったスープにパスタを投入して海の珠玉をとことん味わい尽くす、それが「フィッシュ タヴェルナ サンボ」の締めなのだが、この日はなんと巨大なコモンヤドカリを出汁に使った迫力満点のアクアパッツァが登場した。脇を固めるのはホウライヒメジ、クロアナゴ、アバサー(ハリセンボン)。豪快にして繊細、滋味深くて可憐。これまた比類なき日本一のアクアパッツァであろう。最後に残ったコモンヤドカリのスープをたっぷりと吸わせたスパゲッティだが具はシンプルにウリとエンツァイのみ。主役はあくまでもコモンヤドカリのスープなのだ。

料理の合間にテーブルを訪れる桑田シェフは魚について語る言葉の端々からは、魚への限りない愛情が溢れ出てくる。命を頂いたからには最後の最後までいかに美味しく食べてあげるかを常に考えているといい、夜の営業が終わったあと海に入って素潜りで魚を捕らえるという。これほどまで魚料理を突き詰めている料理人は記憶のひだを探しても見当たらない。ただひたすら「フィッシュ タヴェルナ サンボ」の魚料理を味わうためだけに、飛行機に乗って宮古島へ出かけたい。そんな気持ちにさせてくれるのは桑田シェフの揺らがない信念に基づいた、他では絶対に体験できない素晴らしい魚介料理が待っているからだ。

「サンボのパリ」

サンボの畑(宮古島の方言で畑のことを「パリ」と呼びます)ではゲダイズ(宮古の古来種、大豆の仲間)を育てていて、その傍らではセイヨウミツバチの養蜂もおこなっています。蜜蜂は畑に生えた花たちを蜜源に蜂蜜を作っていて、秋になると畑の周辺では様々な野生の果実が実をつけます。蜂蜜をスターターにその果実を発酵させ、ゲダイズのムースで包み込みました。サンボの畑の循環を表現した一皿です。

北国の里山で生まれ育った私にとって、四季折々の食材から発酵食品を育てて作り出すという光景は幼い頃から生活の中に当たり前のようにありました。そのような光景を目にしながら育ったこともあり、料理を仕事としている今でも、食品を醸す多種多様な微生物のドラマを大変面白く感じています。海のイメージが強い宮古島ですが、日本本土とはまた違った環境下で多種多様な微生物が存在しています。彼らを居心地の良い環境下で、食材と絶妙なバランスで共生させることによって、どこか島らしさを感じられる、そんな旨い発酵食品を醸してもらおうと考えています。ブッソウゲ、月桃、ソクズに付いている微生物たちが、来間小麦や下大豆を醸し出す。その種菌や種麹から魚醤や塩麹の調味料を作り、お魚の熟成に使い、料理として表現する。そんな工程を考えるだけでワクワクが止まりません。そして何より、発酵という知恵と知識を残してくれた先人達の偉大さには頭が下がる思いでいっぱいです。宮古島で育まれた食材や、自ら採取・栽培した素材で、発酵の持つ力を表現できるように精一杯取り組みたいと思います。


chef profile

桑田 登
NOBORU KUWATA

岩手県久慈出身。漁師である父親の背中を見て育ち、一度は同じ道も志したが、反対され故郷を離れ見知らぬ土地宮古島へ。祖父母の影響もあり小さい頃から生き物への好奇心が強く、魚を独学で調べて捌き続け2011年に独立、「宮古島の魚の本来の美味しさ、野菜の美味しさを伝えたい」と魚介に特化したレストラン「フィッシュ タベルナ サンボ」をオープン。宮古来島当初はダイビングインストラクター、現在は漁業権、一級船舶の資格も取得し、自ら電灯潜り漁や釣りで魚介を獲りにでかける。


INFORMATION

沖縄県宮古島市平良西里529-1 1F東[google MAP🔗]
Tel:0980-73-2711
E-mail:nhtr0619@gmail.com
営業時間:ディナー 18:00~23:00
定休日:不定休
※要予約
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